嘘付く者は馬鹿を見る
改めて見渡すと辺りは散々な有り様であった。木々はなぎ倒され、地面は荒れ、その上にゴキブリンたちが散乱している。
巨大ゴキブリンことヌシはサクアの一撃により気絶したようだが、いつまた動き出すかは分からない。
「さあ今度こそ、ここを離れるわよ」
「ああ」
二人は早足で扉に向かい、元の森に戻る。空は夕闇に包まれ、試験のタイムアップを告げる。
サクアは自分たちの袋を見て成果を確認する。
「結局2匹だけか」
「あーあ、あいつらのせいで散々な目に会ったわ。これじゃあ今年は望み薄いわね。せっかくあんな化け物やっつけたってのに」
名残惜しそうに後ろを見返す。
「あっ」とアンナは何かに気がついたように声を発する。
「そうよあんなに沢山ゴキブリンの死骸があったなら持ち帰れば良かったのに!なんで気づかなかったのかしら。」
と悔しそうに拳を握る。
「でもあそこで狩りするのは禁止なんだろ?」
「そんなの分かりっこないわ、バレなきゃいいのよバレなきゃ。しくったわ~・・・」
そんな会話をしてる内に試験会場の広場につく。そこではそれぞれのグループの成果を報告している。サクアたちもそこで報告を終え、待っていると遅れてブルネルたちがやってくる。
「あっあいつら~、って見てよサクアあの袋!」
ブルネルたちの袋はパンパンに詰まっていた。空っぽで助けを乞うていたブルネルたちが何故そんな成果を挙げられたのか、明白である。サクアたちが扉を出ていくのを待って向こうの森に散らばったゴキブリンたちの頭部を剥いで廻ったからだ。
「あんたたち、それ向こうの森の奴でしょ!それも私たちが倒した。」
「ふん、ど、何処にそんな証拠があるんや、これはわし達があの後真面目に狩りをした成果やで、変なケチつけんといてや!」
「そ、そぉーでごぜーます。ブルネル様の言う通り!。」
今すぐに告発したいが、言う通り証拠がない。しかしその悔しさは押さえきれず。
「ぐぬぬぅ~、あんたたち恥ずかしくないの!人の手柄横取りして!それに向こうの森で狩りした奴は違反よ違反!直ぐに捨てなさい!」
サクアはジト目を向け、こう言う。
「自分もバレなきゃいいとか言ってたのに・・・」
「何か言った???」
アンナは急にやさしい口調でコチラをむく。その笑顔が逆に怖い。
「イエ、ナンデモ」
「よぉーし、ちゅーもーく!であーる。」
広場に大声が響く。咄嗟に耳を塞ぎながら声の方を向く。
「試験の集計が出た!これから発表したいと思うが、その前に1つはっきりさせないといけない問題が発生したであーる。」
周りがざわざわとし始める。
「静粛に!コホンッ。なんとこの中に予め言った禁止区域に立ち入り、狩りをした者がいるであーる。」
よりざわめきが広がる。当然心当たりがあるものが4名いることを我々は知っている。
(絶対バレたらヤバイわ、下手したら一生受験資格剥奪とかもあり得るわ)
内心ヒヤヒヤである。
「そして扉の錠前を破壊した拳銃の型から二組の容疑者が浮かび上がった、であーる。」
ギクッ!
ブルネルとアンナ胸に深くその言葉がささる。そう試験開始前、二人は同じ型の拳銃を取りあっていた。偶然それと同じ型の銃は2丁しかなかったのだ。
(まさかそれって・・・)
「その容疑者はサクアチーム、そしてブルネルチーム!であーる!」
ギクギクッ!
アンナは凄く焦っていた。それは何故か?余りにも単純そうな頭の相方がここにいるからである。
(サクア~、絶対に言わないでよ~お願い!お願いしますからぁ!)
アンナは心の中で念じる。
「では聞こう!サクア君、君はあの扉の向こうの森に入ったかね?」
「ああ!入ったぜ。」
迷うことなく即答する。入ったことに対する罰則など頭にないのだろう。
(ああああぁぁぁぁ~、やっぱりぃぃぃぃ~!)
アンナは心で涙を流す。
「なに!それは本当であーるか!もう一人の子は何か意見は無いのかね?」
「ええ、もっとこの子に予め口止めしとけば良かったです。」
「いや、そういうことではなく」
終わった、アンナはそう思っていた。真実は違えど、釈明した所であまり変わりはないと諦めていた。しかしアンナが考えていた反応とは全然違ったものが返ってくる。
「ではあの巨大ゴキブリンを倒したのは、君達であーるというわけか!?」
「へっ!」
間抜けな声が出る。巨大ゴキブリン、そうあの森のヌシを倒したのは紛れもなくサクアだ。なんとイレギュラーで起こってしまったあの戦闘は立ち入り禁止などというルール違反を帳消しにするくらい衝撃の事実であった。
「そうだけど」
「なっ何ぃ!」
周り受験者の中でも驚きの声があがる。
「あの森のヌシを!」「あれはEランク相当はあるはずだぞ」
Eランク、これはLBsが定めた魔物の強さを示した階級である。AからFまであり、Aに近づくほど強くなる。そしてこれはLBs内のランクにも関係していて、例えばCランクのモンスターを倒せる実力があればその人はCランクの傭兵になれるわけだ。
通常入りたての新人はみなFランクであり、ましてや試験でEランクのモンスターを倒す者など滅多にいない。
「ううーん、今の段階でEランク相当の実力だというのか!?この華奢な男が。」
ルノワールは髭を擦りながら唸っている。
「しかし実力的には今すぐ合格としたいところだが、ルールはルール。どうしたものか。なんで入ってしまったんだ?」
「俺らの先にあそこの奴が入ってたんだよ。それで大量のゴキブリンに襲われてるところを助けにいったんだ。」
サクアはありのままの真実を素直に話す。
「なんだとぉ!衝撃の展開であーる。では真犯人はブルネルチームだというのであーるか!?」
急に矛先がブルネルたちに向く。
もしサクアが最初聞かれた時、入ったことを否定していたとしたら、言い訳と捉えられていたかもしれない。しかし純粋なサクアの行動がその言葉の信用度を増したのである。
「な、何を急にいっとんのや?!わしたちはそんなとこ入ってへんでぇ!言いがかりつけんといてや!」
「そそそそぉーでごぜーます。ぶ、ブルネル様の言う通り!」
明らかに二人は動揺していた。
(冗談やあらへんでぇ、もう今年で4回目や。親父ももう勘当して後があらへんのや。絶対にバレるわけにはいかんのや!)
「ぬぅ~なーんか怪しいであーるなぁ?」
ゆっくりとルノワールは近づく。ある程度近づいた所で「くさっ!」と鼻をつまんだ。
「これは!香水の臭いであるな!」
ブルネル達があの時かけた香水は自分たちの気づかぬ内にとんでもない悪臭となっていた。
「こ、この香水でゲスか?これはもう十分成果があったので帰りに念のためつけただけでゲス。」
「そ、そうや!この香水、魔物避けとか言うとったけどつけたらゴキブリンが興奮して襲ってきたで。どうなっとるんや!」
それを聞いた瞬間、ルノワールの顔が険しくなる。
「ん?それはおかしいな。この香水はゴキブリンの血を元に作られたもので、この血の匂いがするものは危険だと察知して近寄ることない。しかし狂暴なゴキブリンは同胞を殺したと勘違いして襲ってくるかもしれんがな。」
「あっ!」
ブルネル達は自分から完全な墓穴を掘った。動揺から要らぬことまで話したことが原因である。
「君たちが奥の森に入ってないと言うのなら!そんなこと起こるはずもない!この者達を縛るであーる。そしてこの二人を永久に受験資格剥奪とする!であーる。」
「うわぁーん!!!!」
ブルネル達は縛られ、連行されていく。試験会場から追い出されるのである。そして二度と戻ってくることはできない。
「そしてサクアチームは情状の酌量余地ありとして再考する。暫し待つであーる。」
なんとかサクアたちは一命を取り留めた。