サクア
「サクアっ・・・あんた女だったのぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「そうだけど・・・今更何言ってんだ?」
確かにサクアは「自分は男だ」などと一言もいっていない。しかしその仕草や言葉遣いは完全に男であった。しかもその長い髪が今まで帽子の中にしまわれていれば、アンナが勘違いしても仕方がない。
よくよく見ると完全にただの美少女である。少し高いと思っていた声も女の子にしてみれば逆に少し低い方である。そしてアンナがサクアを男であると勘違いしていた理由がもう一つある。
「だって、嘘・・・あんた胸が全然ないじゃない!」
「おう、確かにアンナは胸が膨らんでるな、なんでだ?」
サクアはまじまじとアンナの胸を見つめる。
「ちょっとみ、見ないでよ。いや女の子なんだから別にいいのか。もうややこしい!」
サクアはド貧乳だった。一方でアンナは今までとのギャップに混乱している。
「ギャギー!」
二人は再びゴキブリンたちの方を向く。
「あ、完全に忘れてたわ。」
ヌシは蚊帳の外にされ、相当怒っているようだった。
「無視すんなって言ってるぜ!」
「意思疎通できるの!?」
「いや、勘だけど。」
ヌシはまたしても丸まったゴキブリンを手に持ち、投げてくる。
「2度同じ手は食わねぇ、よっ!」
今度は木刀でゴキ球を綺麗に弾く。ヌシも負けじと両手を使い、どんどんと投げてくる。空に黒い弾幕が覆う。
「きゃああああ!」
「ほっ、よっ、はっ」
サクアはリズム良くそれを捌いていく。そして最後にバッターのように木刀を持ち、ゴキ球を正面に打ち返す。するとヌシの腹部に自分の投げた自分の同胞が炸裂した。
「グギ・・・グギギギ」
「おっ!」
どうやらかなりのダメージを受けたようだ。統率の失ったゴキブリンたちはぞろぞろとこちらに向かってくる。
バァンバァン!
先頭の2匹が正確に頭を撃ち抜かれる。
「雑魚は任せて、こうゆうのは得意なの。」
ようやくアンナの拳銃が火を吹く。その後も次々と撃ち抜いてゆく。その様子をサクアは眺める。
「へーやるじゃん。ただガミガミ怒鳴ってるだけじゃないんだな。」
「それ、半分あんたのせいだから。」
そうしているうちにうずくまっていたヌシが起き上がる。
「グギッギャギャギャギャギャギャギー!」
ヌシの怒りは最高頂に達していた。ヌシは体をうつ伏せにし、手足をその外殻に潜り込ませ完全武装状態になった。
「あいつ今度は自分自身で突っ込んでくる気よ、最初の時みたいに。」
「ギャギャギャー!」
予想通りサクアに向かって突進してくる。しかしその軌道はスピードゆえに一直線であるため避けやすい。アンナは一目散にその軌道から逃げる。振り返るとサクアはなぜか動かない。
「なにしてんのよ、早くこっちに!」
「いや、俺はこのままでいい!」
サクアは地面に木刀を突き立て仁王立ちしている。どうやら正面から受け止める気のようだ。
「バカ言ってないで早く来なさい!今度こそホントにしんじゃうわよ。」
「・・・」
もう目の前にはヌシが迫っている。避けることはできない。
「サクアーっ!」
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ヌシが木刀に衝突すると同時に、サクアは地面ごと木刀の先端を蹴り上げる。すると手元を軸に木刀は回転し、先端はヌシの下に食い込みアッパーカットのように顎を持ち上げる。ヌシは宙に浮かび無防備な腹を見せた。
「ギギッ!?」
「いくら装甲が硬くてもこれなら関係ねぇだろ!」
持ち上げた衝撃で木刀は折れてしまったが、サクアは拳をぎゅっと握り、ヌシの腹に思いっきりぶち込む。
「おらぁ!」
サクアのパンチでヌシの巨体は吹っ飛び、そのまま後ろの木に激突する。
「はぁはぁ、どうだっ!」
ヌシはそのままピクリとも動かなくなった。しかし死んだわけではなく気絶しているだけのようだ。
「サクア!」
アンナは後ろからサクアの方に駆け寄る。
「へへ、どうだ?うまくいったろ。」
アンナは目を閉じサクアの懐に寄りかかり、こういった。
「もう、あんたってホントバカね。」