森のヌシ
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
巨大なゴキブリンはブルネルがいる木目掛けて一直線に突進してくる。未だ木の上にいたブルネルたちは互いに抱き合い悲鳴をあげる。
ドーン
巨大ゴキブリンは太い幹に激突する。その衝撃でブルネルたちは塀の中へ吹っ飛ばされる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ボスッ
運良く木の枝に引っ掛かり、なんとか無事のようだ。
「散々や、なんでこんな目に・・・」
一方、サクアはというとぶつかる直前にアンナの所まで飛び退いていた。
「なんなのよあれぇ!こんなのがいるなんて聞いてないわよ!」
「ほぉーありゃでけぇな!勝てっかなあんなの。」
「なにいってんの!逃げるのよ!勝てっこないでしょあんな化け物!さあ、早く!」
アンナはサクアの手を引いた。しかしサクアは直ぐに立ち止まる。
「どうしたのよ」
「ダメだ、このまま逃げたらあいつ俺たちを追ってこの扉ごとぶっこわしちまう。」
「それはッ・・・そうかもしれないけど」
巨大ゴキブリンの方を見る。10メートルはあろうかという巨体、さらに同胞が沢山殺され怒り狂ってるようで、今にも突っ込んできそうだ。
奴がぶつかった木々はその衝撃で全て根本から折れている。この扉が破壊されれば、あの巨大ゴキブリンだけでなく狂暴なゴキブリンたちも一緒になだれ込んでしまう。なにも知らない受験者たちが大勢いる中それは非常に危険である。
「でもどうするのよ!」
「もちろん倒すんだよ、俺らで。援護頼む!」
そう言うとサクアは敵に迷いなく向かっていった。
「ちょっと待ってよ!もう、サクアのバカ!あほ!バカぁほぉぉぉ!」
サクアは木刀で巨大ゴキブリンに斬りかかる。
「あんなの森のヌシよ。勝てるわけないじゃない」
森のヌシこと巨大ゴキブリンは避ける素振りも見せなかった、おそらく避けるまでもないと思っていたのだ。がしかし、振り下ろされた木刀に触れた瞬間、ゴキブリンの頭部が地面へとめり込む。
「へへ、結構効くみてぇだな」
「ギギギッ」
ヌシは直ぐに体を起こし、サクアに殴りかかる。それをひょいとかわすと今度は横から木刀を喰らわせた。
「すごい、あいつあの化け物と互角に闘ってる。って私もいかなきゃ!」
「なんだよ大したことねぇな、あらよっ!」
サクアは調子よく木刀を振るう。
ガンッ
「いッ!」
ヌシは木刀を手の甲にある外殻で受け止めていた。ゴキブリンの外殻はカブトムシの外骨格のように、硬く進化していた。その硬さはさながら鉄の鎧。それを手の甲と背中全体に覆っている。
当然木刀で斬れるはずもなく、サクアは空中で静止した所をはたきおとされた。
「いててて、くそぉ!」
ガンッガンッガンッ
なんど斬りかかっても簡単に受け止められてしまう。
「ギッギッギッ・・・」
「ちくしょーこれじゃあ何度やってもダメだ。"華水月"さえあれば・・・」
「サクアッ!」
後ろで声がする。振り向くと倒された木の切り株の後ろで銃を構えるアンナの姿があった。
「援護は任せて!あんたは存分に闘いなさい。」
「アンナ!って大丈夫か?」
頼もしい発言をしたアンナの手元はぶるぶると震えていた。
「だ、大丈夫よ、ちょっぴり視界揺れて撃ちにくいけど問題ないわ。」
サクアはじーっとアンナをみつめる。
「仕方ないでしょ怖いんだから!こんなデカイ虫!虫・・・でかい・・・でかい・・・ゴキ・・・」
アンナに変なスイッチが入ってしまった。
「闘えつってもなぁ、あの装甲をどうにかしないと、う~ん」
「ギャギー!」
ヌシは呼び声をあげる。すると隠れていたゴキブリンたちがヌシの後ろにぞろぞろと現れ、次々に整列していく。
「今度はなんなの!?」
「ほぇーどこまで続いてるんだ。」
その内先頭の1体がアルマジロのように丸くなり、身体全体を外殻で覆った。ヌシはそのゴキブリンを掴むと大きく振りかぶり物凄いスピードで投げた。
「えっ。」
列に気を取られていたサクアはその剛速球、いや正確には剛速虫に反応できず、顔面にもろに喰らってしまう。
ゴンッ
鈍い音と同時にサクアは後方にぶっ飛ぶ。
「サクア!」
その衝撃でサクアがずっと被っていた帽子が宙に舞う。アンナは慌てて駆け寄ると驚愕した。サクアの身を案じてではない"その姿"にだ。
青い瞳に中性的な顔立ち、美形という評価は美人だとか可愛いなんて物に変わり、起き上がると白く長い髪がキラキラとたなびく。
「おーいててて・・・」
「サクアっ・・・あんた女だったのぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」