強さの秘訣
「アンナが!アンナがどうしたって言うんだ!」
サクアはボレットに向かい問い詰める。
「あんたの仲間はもう、あの化け物に殺られてる。奴に勝てる人間なんていねぇんだ!」
「何か色々知っているようだな。話してもらおうか。」
ジックは冷静に、しかし顔を強張らせ話を進める。
「俺の息子はお前達と同じLBsの傭兵だった。強い男だ、昔から腕っぷしが強くこの村を長い間モンスターの襲撃から守ってくれていた。しかしある日突然息子は居なくなり衣服だけが残されて消えちまったんだ。」
何処かで聞いた話だ。しかしサクアとジックはまだ真相を知らない。
「俺はもう村に愛想が尽きて出ていっちまったんかと諦めていた。しかしそんな所に奴は現れた。」
そうボレットの前に現れたのは紛れもないキルホップだ。
「奴は誰の入れ知恵か知らんが息子を殺されたくなかったら偽の依頼書で傭兵を誘き寄せろと俺に命じた。逆らうことは出来なかった。もし断ったら息子だけでなく村全員を皆殺しにすると脅されていた!」
ボレットは泣きながら心情を語る。ジックはそんなボレットに掴みかかり、言う。
「貴様!では俺たちはその偽の依頼書で此処に来させられお前達の代わりに生け贄にされるとこだったのか!いやアンナは今現在そいつに襲われていると!」
ジックの口調には怒りが込もっていた。
「仕方ないだろ!俺には息子のような力はない。息子がいない今村を守れるのは俺だけだ!そうするしかなかったんだ!」
それを聞きサクアは口を開く。
「あんたの息子が強かったのは力があったからじゃない。守れる者があったから、そして恐怖に立ち向かう勇気があったからだ。」
ボレットは下を向き、勇敢な息子の姿を思い出す。
「そうだな、あんたの言う通りだ。俺にはあいつに立ち向かう勇気がなかったんだ。こんなんじゃ息子に顔向けできん。」
ジックはその様子を見て怒りを抑えると静かに切り出す。
「なら知っていることを教えてくれ。今そいつとアンナは何処にいる。」
「あいつはいつも門に入る前に傭兵どもをやっちまう。今回は村長にいい加減バレそうだったんで中に入れたんだ。そうなると一目につかない場所で一人になる所を狙うはずだ。俺はお嬢ちゃんが小麦畑に入るのを見かけた。多分そこで・・・」
そのとき大倉庫の方で大きな音が鳴る。
「あっちだ!」
サクア達は急いで小麦畑に向かう。
(アンナ!生きててくれよ。)
真ん中の細い道を駆け抜けるとそこには煤まみれで汚れたアンナの姿があった。
「アンナ!無事か!良かった~心配したぞ!」
サクアは汚れなどお構い無しに抱きつく。
「ちょっと動きにくいでしょ。もう~。」
「ふん、無事だったか。しかしなんだその汚い格好は?」
「こっちにも色々あったのよ!あっこれ今回の元凶ね。」
そう言うとキルホップを雑に投げる。
「こいつは!この化け物をお前さんが一人で倒したのか!」
ボレットは驚きを隠せないでいた。LBsとはいえひ弱そうな娘が自分じゃ立ち向かうことも出来なかった化け物を倒したとは。
「一人でやっちまったのか!スゲーなアンナ!」
「えへへ~。」
アンナは珍しく照れて頭を掻いた。
「それで!息子は?息子は何処なんだ。」
ボレットは辺りを見て、息子の姿を探す。アンナは息子と聞くと瞬時に理解をし、声を落として言う。
「えっと、その息子さんはもう・・・」
するとボレットも察してうつむきながら座り込む。
「あのっ・・・」
「いいんだ、俺も薄々気付いていた。息子はもういないんじゃないかって。しかし仇はもう君が、いや君たちがとってくれた。ありがとう。そして俺もとんでもないことをしてしまった、その罪を禊いでまたこの村で息子に会おうと思う。今度は綺麗な姿で。」
そう言うとボレットは淡い笑顔で村長の元へととぼとぼ歩き始める。
「ボレットのオッサン!あんたならきっと村を守れる強い人になれると思うぜ!」
ボレットは振り返ることなく手をゆっくりと挙げ、合図をした。