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リミットブレイカーズ  作者: money
16/17

助ける理由

アンナが本当の依頼人であるキルホップと死闘を演じてる最中、サクア達はそんなこと露知らずティータイムを楽しんでいた。


「ささっどうぞお食べになってください。」

「わりぃな、こんなに奢ってもらって。」


サクアはテーブルに並べられたサンドイッチをムシャムシャと食べる。


「そういえば貴様、名前をまだ聞いてなかったな。」


ジックは食事には手を付けず、部屋をじっくりと見ていた。


「そうでしたっけ?あたしはボレットって名前なんすがね。それよりうちはどうです?ちょいと村外れですがこじんまりとしてて良いところでしょ?」

「そう・・・だな」


ジックは窓の外を見る。確かに近くには民家はなく大きさも二人が住めるかどうかという所だ。


「ジックさんは召し上がらねぇんで?」

「そうだ、ジックも食った方がいいぞ。いつ戦闘になるか分からねぇからな。」

「うるさい、お前は食べ過ぎだ。今そんなに食べたら夜食べられなくなるぞ。」

「ダイジョーブ、パンは別腹って良くいうからな」

「聞いたこと無いぞそんなの・・・」


ジックも半ば諦めて、ツッコむのをやめるとボレットはおもむろに立ち上がりこう告げる。


「ハハハッ!面白い人達だ。すいやせんがあっし、ちょいと用事を思い出しましてねぇ、家を開けますが気にせずごゆっくりしてってください。じゃ!」


そう言うとボレットは二人を残し家を出てゆく。


「客人を置いて行ってしまうとは、どうなってるんだまったく。」


部屋を再び見回すと、ジックはあるコートに目がいく。それは少しやつれていたが、しっかりとした生地のコートだった。


「これは傭兵が使う防護に優れた生地だ。何故農民がこんな物を・・・」


瞬間、さっきまでどんなに言っても食べるのをやめなかったサクアの手がとまった。


「ジック、気付いたか。」

「ああ、どうやら囲まれてるようだな。」


家の外に複数のモンスターの気配がする。窓から外を見ると体長1メートルくらいのでかいバッタが家を取り囲んでいる。


「なんでこんなところに」

「さあな、でもこれじゃ帰れないのも確かだ。」

「どうする?」

「そんなの・・・正面突破に決まってるだろ!」


サクアは勢いよく飛び出し、バッタたちを蹴散らしてゆく。続いてジックもステッキを使い、バッタを殴り倒す。ゴキブリン試験を乗り越えた二人にはこの程度敵ではなかった。バッタバッタと敵を倒すその様子を伺う者が一人いる。


(くそ!なんて強さだ。ジックって野郎は何も口にしなかったがあいつはあんなにバクバク食ってたのに効いてる様子がねぇ、どうなってやがんだ。)


「これで最後の一匹か、案外呆気なかったな。」


ジックは冷静にモンスターを処理する。それを見たそいつは木の影から慌てて逃げようとする。


「おい!そこの奴、気付いているぞ!」


ジックはそいつの背中にステッキの先端を向けると、そのステッキに魔力を加え、先端から鉄球を打ち出す。その球はそのまま男の背中を捉え、逃げる足を止める。


「スッゲーーー!!!なんだそれ!」

「ふん、これはローレンツ力を利用してだな、先ずこのステッキは鉄製で中は空洞になっていて・・・おい、聞いているのか。」


そんな説明サクアが聞く筈もないことはそろそろジックも分かってきた。二人はその逃げた男の元に向かう。


「あ、痛タタ。」

「やっぱり貴様か、ボレット。タイミングが良すぎると思ったんだ。どういうつもりだ。」

「くそ!バレちまったなら仕方ねぇ、でもな、お前らもどうせあの化け物に殺されるんだ。」

「あの化け物だと?何の事だ!」

「あのお嬢ちゃんはもう殺られてる筈だぜ。」

「アンナが!」


           □□□


キルホップは大倉庫の扉を開ける。中は薄暗く、明かりは木でできた薄い壁の継ぎ目から差し込む光のみ。入ると鉄製の棚が奥までズラリと並び、そのひとつひとつに小麦粉がずっしり入った麻袋が保管されている。キョロキョロと中を見回すとキルホップはゆっくりと扉を閉める。この倉庫の出入口はここ1つ、此処さえ閉じてしまえば獲物に逃げられることはない。


「またかくれんぼギチョか?精々震えて縮こまってるといいギチョ。直ぐに見つけてこの脚で真っ二つにしてやる。」


暗いとは言っても木洩れ日で最低限視界はとれる範囲だ。さらにキルホップには自慢の触覚がある。


(さっきは上手く機能しなかったが、今度は違う。此処は密閉空間、風が無い分情報は少ないがその代わり動けば空気の流れで直ぐに分かる。この状況は俺にとって好都合だ。さあ何処まで我慢できるかな。)


キルホップは辺りをじっくりと確認しながら前に進む。その顔はゲームを楽しむ子供、というには余りに凶悪だが感覚としては同じもの。見つかれば今度こそ命はない。


バァンバァン!


不意に2発の銃声が鳴る。それはキルホップにとって意外なものだった。当然音が鳴れば、位置は特定できる。自分から居場所を教えている様なものだ。


(それともたった2発の銃弾で俺を仕留められると思っているのか、バカめ!)


飛んできた銃弾2発を難なく避ける。


「ギチョチョチョ、最初に喰らったのはただの不意打ち。来ると分かっていれば避けるのは容易い!そしてもう大体の位置は掴めた。もう動いても無駄だ!お前の動きは手に取るように分かる。」


キルホップはその方に足を進める。勝ちを確信したようにニタァァッと笑う。


(さあ、どう殺してやろうか。楽には死なせない、ゆっくりじわじわと自分のやったことを後悔させてやる)


そんなことを考えていると奇妙な音に気付く、カン、カンと何かが弾く音だ。すると突然腹部に衝撃が走る。


「ギチャァ!何だ!いてぇ、これは銃弾!まさか銃声は二つだけのはず・・・」


言葉を待たずに今度は肩に鉛弾がぶちこまれる。


「ぐえええ!!!なんでぇぇ!?避けたはずの銃弾が!」


「・・・跳弾よ。」


どこからともなく声が聴こえる。


「この状況が好都合なのはあんただけじゃないってこと。」


そうアンナは鉄製の棚に弾を跳弾させていた。


バァンバァン!


また銃声が鳴り、カン、カンと弾が跳ね返る音が響く。キルホップはそれを目と触覚を使い全力で追う。どこから来るのか分からない。その恐怖に気を取られていると、


バァンバァン!


今度は真っ直ぐ銃弾が向かって来る。


「何ぃ!」


間一髪でそれを避けると背中に跳弾してきた弾が射し込まれる。


「ぐはぁぁぁ!」


咄嗟に棚の後ろに身を隠す。もうアンナを見つける所ではなかった。さっきの炎上に銃撃3発、いくらタフと云えどこれ以上のダメージは避けなければならない。


(くそ!何処だ。何処から撃ってる。)


そんなことを考えている間にも銃声は鳴り続ける。そして鉄の棚に跳ね返った弾がまたキルホップ目掛けて跳んでくる。避け続けるしかない。アンナの拳銃に死角はない。そしてアンナは攻撃を、ただ音を出すだけのフェイントと直接本体を狙う本命に分けていた。フェイントは近くで音を出し、しかし当たらず本命は遠くから音を出さずに死角を付いてくる。それがまたキルホップを困惑させた。


(どうする!このままじゃジリ貧だ!考えろ考えろ!)


キルホップは無い頭を捻りだす。このままでは圧倒的に力の弱い人間に負けてしまう。それだけは、その屈辱だけはキルホップにとって赦しがたいことだった。


サーッ


横を見ると銃弾が当たった麻袋が破けて、中から小麦粉が流れ出ている。


(そうか!これだ!これしかないギチョ!)


何かを閃いたキルホップは麻袋を持って棚の最上段に登る。そして麻袋の中の小麦粉を全て外にぶちまけた。粉は密閉された室内に巻き上がり、煙幕のように視界が曇る。


(このまま奴の視界さえ塞げばもう俺の位置は分かるまい。しかし俺には触覚がある。これで一方的に見つけ出し撃たせる暇もなく瞬殺してやる。)


そして此処は小麦粉倉庫、撒く小麦はいくらでもある。キルホップはどんどん小麦粉を撒き、全く見えなくなるまで撒き続けた。お互い何も見えず、何も音を立てない。


(へへへ!これで俺の独壇場だ!)


キルホップは触覚でアンナの位置を探る。しかしその前に奇妙な光の線に気付く。小麦粉まみれの中でも分かるそれはおそらく銃弾によって壁に開けられた穴が連なり出来た物。銃痕がキレイに長方形を作り、開けられた第2の扉。キルホップがフェイントと思っていたものは実はこれを作る為の布石だった。


「あーあ、やっちゃったわね。」


アンナはその扉に向かって走りだす。キルホップも触覚によって位置を掴んだがもう遅い。アンナは1回転して背中で脆くなった壁をぶち破る。そして


「ねぇ、こんなところで小麦粉撒くとどうなるか知ってる?連鎖反応によって小さな火花で大爆発しちゃうのよ。」


バァンバァン!


両手の拳銃を同時に放つ。2つの銃弾は進むにつれ、どんどん近づき倉庫の中央で接触、火花を散らす。


ドカッーーーン!!!!!


「きゃあああああああ!!!!!!」


倉庫は案の定大爆発する。アンナはぶち破った木の壁を盾にして上手く爆風の直撃を避けた。


「はぁはぁ、しっかし豪快に爆発したわね~。調子に乗ってあんなに撒くからよ。」


アンナは煤のかかった顔を(ぬぐ)いながら立ち上がる。倉庫はというと屋根ごとぶっ飛び大炎上をかましていた。


「あれ?ちょっとヤバイかも?」


悲惨な有り様に少し不安を覚えながらも今生きていることを深く実感する。


「さてと、じゃあサクア達にこのことを伝えてさっさとトンズラしますか。」


アンナは気持ちよく背伸びをして村へ戻ろうとすると道端に転げ回る物体があることに気付いた。


「熱い!熱い!助けてくれ!助けてぇ!」


火を纏ったキルホップだ。その火はさっきより控えめであったが爆発によりもう動く力も無いのだろう。ましては火を消すほどの大ジャンプなんてできるはずもない。

アンナは助けを乞うキルホップの前に立つと拳銃を構える。


「随分しぶといわね、ひと思いにやってあげるわ。」

「やめてくれ!頼む!なんでもするから!」


弱ったキルホップはもう戦意はなく、ただ命乞いをするだけだった。


「じゃあさっさと答えて!居なくなった傭兵はどこ?さっき言ってたロム団って何者!?」

「傭兵たちはバッチを盗ったら全員殺した。ロム団は俺の所属する組織だ!団員は皆虫で形成されてる!それ以外は俺は知らねぇ!だから!」

「そう・・・じゃああんたも死んでった傭兵たちのように殺してあげるわ。じゃあね」

「あ・ああ・・・や、やめろぉぉぉ!」


ピューッ・・・・・・


「・・・」


「なーんてね、水鉄砲よ。」


その水によりキルホップに纏っていた火は鎮火され、キルホップは何とか一命を取り留めた。


「な、なんで俺をッ・・・助けた。」

「さあ、同情なんかじゃないわ。ただあんたと同じにはなりたくなかっただけかもね。」


キルホップはその言葉を聞くと涙が流れて止まらなくなった。何故かは分からない。だが弱肉強食が全ての世界では味わったことがない感情だ。心の中でキルホップは決心する。


(この人は命の恩人、いや師匠、(あね)さんだ!一生付いていきますぅ、うう。)


「あっそうだ!」


アンナは思い出したように手を叩く。


「そうそう、この倉庫壊したのあんたってことにするから、ちゃんと弁償しなさいよ。良かったぁ、ただでさえお金無いのに弁償なんかさせられたらたまったもんじゃないわ!あと依頼の報酬3000リールだったかしら?それもちゃんと払うのよ。」

「えっ!それは確か300リールじゃ・・・」

「いい!()()()()!」


とんでもない剣幕でアンナは迫る。どうやら押さえていた不満が爆発したようだ。


「分かったらさっさと眠りなさい。」

「ギッチョンうう~ん・・・」


最後に拳銃の柄の部分でキルホップの頭を殴るとアンナは足を引きずり、帰路についた。


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