悪の宰相を倒す話
一体、どこで間違ってこうなったのか……。
ここは魔王城。
先程まで豪華だった謁見の間に、不釣り合いな男の高笑いが響いた。ひきつったような笑いに、過呼吸になるんじゃないかと心配になってくる。浮かれるのは結構だが、作戦が台無しになってしまうからまだ倒れないでほしい。
それにしても。
高笑いする男が滑稽で仕方ない。この男の計画などとうの昔に破綻しているというのに。
そう思うと、自然に口角が上がった。魔王にやられて息も絶え絶えな勇者一行のひとりが、恐ろしいものを見たみたいな顔をして慌ててうつむく。失礼な。
その間も笑い続ける男。なに、ドラッグでもキメてきたの?いい加減鬱陶しいから黙ってくれないかな。
本人は豪華客船にでも乗ったつもりなのだろうが、所詮は流氷の海を進む船。氷山の一角に気を取られ、穴の空いた船底にすら気づかない彼はただの大間抜けだ。
「これで私こそが実権を握るのだ!魔王でも!勇者でもなく!この私が!!」
などとのたまうのは、悪の宰相。
……やってることは主に小遣い程度の予算の横領と、部下(私)へのセクハラパワハラモラハラなのだけど。
自分じゃ大物のつもりらしいが、他から見たらとんだ小物である。
まあ、おうちの権力でこの地位に就いていたわけですし?
実務能力のなさを補うために優秀な補佐官(私)が付けられたんだけど。
とにかく私はお金のためにセクハラパワハラモラハラに耐えて耐えて耐えて、殴りたいのを我慢してきた訳だが、さすがにもう良いでしょう。
「さあ、トドメを刺すのだ!」
「まさかの人任せ!?……かはっ」
死にかけ勇者が、盛大に突っ込んだあげく吐血した。言いたいことは分かるけど、ちょっとおとなしくしてようね。
まったくこんな時まで人任せか、クズめ。いや、お手伝いがないと自分のケツも拭けないのが宰相閣下だった。
手を汚すことを怖がる臆病者に世界など治められるものか。
毒づいて、倒れている魔王と勇者に近付く。持たされていた聖剣(勇者には偽物を渡していたらしい)と、魔力増幅効果のある杖を原型をとどめない床にぶっ刺して、ポシェットを漁る。
にたぁ。
我ながらゲスい笑顔で宰相を振り返って、隠し持っていたというか、この男に持たされていたエリクサーを魔王と勇者に振りかける。
「何をしている!」「裏切り者!」「傍に置いてやった恩を!」とかなんとか聞こえるが、知ったことではない。
むしろ私に恩返ししろ。
「勇者サマ、魔王サマ、私、自分の主人くらい選びたいんですよね。セクハラパワハラモラハラその他色々耐えてきたんですが、最大の屈辱と絶望を感じさせた上でアイツに死んで欲しいので、協力してくれません?あ、終わったら魔王と勇者で殺しあってもいいし、魔族と人間について話し合っても良いんで。」
「ほう?」
「ねえ、これ本物?オレ今まで偽物で魔王とやりあってたわけ?そりゃ死にかけるって」
ムクリと起き上がる魔王と勇者。魔王は杖を持って魔法を放つ詠唱を始めてるし、勇者は本物の聖剣を構えてる。
ワンチャン私も殺してくれるかな?と思ったのに、魔王はぺいっと倒れている勇者一行の元に投げつけると「治療でもしておけ」と言わんばかりに視線を寄越す。
やれやれ、人使いの荒いことだ。どこの王様も同じか。
息のあるメンバーに回復薬を使っていく。ドSウィザードには一番いいやつを使ってやった。
「できる範囲でいいから手伝って」
エリクサーはあの2本だけなのだ。秘蔵っ子だったんだぞ。宰相が大金積んで買ったヤツだが。
私がいくら有能だといっても、事務職のサラリーマン。治癒魔法とか管轄害デス。ウィザードはブツブツ言いながら回復薬で治った仲間にさらに治癒魔法をかけていく。
「おや、片が付いたみたいですね」
汚い悲鳴と魔法の爆発音。爆風が頬を撫でる。あらかたの治療が済んでそちらを見た頃には、宰相は跡形もなく消し飛んでいた。
「なんだ、私だったら生き地獄見せたのに…」
呟いたらドSウィザードがドン引きしてた。魔王と勇者がこちらにやって来て、座り込む私に手を差し出す。
「あのさぁ、魔王と話したんだけど、オレ勇者辞めるわ」
「はい?」
いい笑顔で勇者が言う。
「私も貴様の軍門に下るのはやぶさかではない」
「えっとぉ……?」
妖しい微笑みの魔王が言う。
半ば強引に立ち上がらされた私に、立たせた側が頭を垂れる。またもドSウィザードがドン引きしてたが、ふたりは気にする素振りもない。
「我らで新しい国を作るのだ」
「もちろん、君が王様だよ!」
かくして、悪の宰相を打ち倒した私は勇者と魔王が新しく興した国の王様になった。
だからどうしてこうなった!
お読みいただきありがとうございます!
元ネタくれた友人がヤンデレ製造機なので、この後勇者と魔王がヤンデレ化する裏設定があったりなかったり…|д゜)チラッ