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拝啓、顔もしらないラプンツェルへ

作者: はち

拝啓、顔もしらないラプンツェルへ。


はじめまして。

自分のために、自分の夢を捨てられないために、君を捨ててしまった僕は、父親だなんて名乗る資格はないでしょう。そして、多分君は、僕みたいな父親がいなくともしっかり育ってくれるのでしょう。

君がいつか大人になって、僕の知らない顔になって

きっと幸せになれるのでしょう。


そんな君に、僕みたいな不出来な人間が贈れる言葉なんてないんだろうけど。

だから、僕が今こうやって言葉を綴っているのは無意味で無価値でただの自己満足なんだろうけど。

もしかしたら、いつかこの言葉が君に届いた時に、いつかの君を助けられるかもしれないから。

まぁ、赤の他人が何か言ってると思って読んでください。


綺麗な言葉を使える人であってください。

別に、それは正しい日本語を使えとか、そういうことだけじゃなくて。

君の言葉が誰かのことを傷つけることがないように。

言葉は恐ろしいくらい簡単に人を傷つけてしまえるから。

そして、君が発した言葉が君を形作っていくから。

どうか、綺麗な言葉をまとった、綺麗な人になってください。


物事を知れる人であってください。

知識がその人の全てではないけれど、知っていることが自分の身を助けることは結構あります。学校の勉強もだけど、それ以外のことも。

知らないことは恥でも、いけないことでもないから。

新聞でもテレビでもラジオでも小説でも映画でも、いろんなものをたくさん見て、触れて。

どうか沢山のことを知ろうとする人であってください。


自分を大事にできる人になってください。

君の思っていること、感じていることは君にしかわからないから。

もし、周りと違うようなら盲目的に自分を、または周りを否定しないで。

君が君で思っていることがあるように、周りも周りで思っているのです。

自分が間違っていたら直せばいい、間違ってないならそっと大事に抱えてればいい。

どうか自分のことを愛せる人になってください。

それで、たいていのことはなんとかなります。


最後に、これは割と大切なこと。

世界は、君が思っているよりも広い。


きっと生きていたらどうしようもなくつらい時も、死にたくなる時だってあるでしょう。

その時にどうか思い出して。

君が今いる世界が、この世界の全てではないから。

しんどいなら逃げたっていいから。

この世界は広い。逃げる場所ならいくらでもある。

だからどうか、息を吸うことを、吐くことを、やめないで。


この世界はきっと君が思っているよりも、残酷で、汚くて、嫌になることがあるけど、

それでも、この世界は君が思っているより、もっとずっと素晴らしくて図太いから。


そろそろ紙が尽きるから最後にしようか。

僕が今言ったことは全部、所詮ただの綺麗事でしょう。

君の成長を支えることも出来ない、実際に見ることもできない、何の責任もない。

だからこそ言える綺麗事でしょう。

だから、別に聞かなくったっていいんだ。

それでも、それでもね。

僕は、君の幸せを心から願ってる。

それだけは忘れないで。

この世界の片隅に、君の幸せを願っている赤の他人がいることを、

自分のことが嫌いになりそうになったら、どうか思い出してほしい。


愛してるよ。

顔もしらないラプンツェル。


どうか、君を包み、君を造る、幾千幾万の言葉が

美しいものでありますように。



 電話が鳴った。担当さんからだった。

「お疲れ様ですー。新刊の原稿確認しましたー。それで一つ確認なんですけど」

―『顔もしらないラプンツェルへ』って、このまま載せますか?

「ダメ、ですかね。今回、短編集だから、最後に載せるとか」

「うーん、長さが明らかに少ないからバランスが悪いですかね。なにか付け足してもっと長くするとか」

「そしたら、これ、あとがきってことにできませんか」

「え。まぁ、それならいいですけど」

「そしたら、それでお願いします。もし追加で短編が必要なら書きますので」

「わかりました。確認してまた連絡しますね。でも、どうしたんですか急に。今までこんなことなかったじゃないですか」

「え…。あぁ、まぁ」


一回くらい、父親らしいことをしておこうかと。


「あ、先生の甲斐性がなくて出ていった奥さんとの間の息子さん?」

「さくっと傷を抉らないでください。そうですけど」

「それで、なんでまた急に」

「この前ね、その子が4歳になったんです。3歳までは神様の子っていうでしょう」

「あぁ、それで父親面しようと。甲斐性のない先生が」

「そうですよ。別に父親面したいわけじゃないですけど」

ふーん、なるほど。まぁ、また連絡します。

そっけなく電話が切れた。

相変わらず担当さんは手厳しい。


でも、確かに、もしかしたら僕は父親面がしたいのかもしれない。

自分のために子供を捨てたくせに。

親を名乗る資格もないくせに。


それでも僕は、

君の幸せを祈りたいんだ。

そんな愚かな父親の話だ。




お久しぶりです。はちです。


「そしてラプンツェルは歌いだす」のサイドストーリー的なやつです。

ちょっとはラプンツェル要素が出ましたでしょうか…?


そして今回から七瀬、一条が通っている学校が舞台のお話、とそのサイドストーリー、に「とある進学校の文学部」というキーワードをつけることにしました。

よろしくお願いいたします。


最後までお読みいただきありがとうございます。

誤字、脱字などありましたら教えてください。

感想、評価などいただけましたら作者が喜びます。


最後に、読んでくださった皆様に最大級の感謝を込めて。


はち


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