聖女と勇者の召喚 1
先日この世界の意思(神とも言う)ジュノリーから世界中の神殿に神託が下った。
ここ最近の異常気象は魔力が不安定になったことで引き起こされている。それを静めるために数日中にイグプール大聖堂に聖女を召喚する。
各国、各神殿関係者はこれに協力し世界を救うべし。
聖女には魔力を静める力を与えるが、戦う力はないため各国神殿関係者は聖女を護る人員を用意すること。
聖女を取り込もうとする国にはジュノリー自ら制裁があるので覚悟するように。
と言う内容だった。
各国の司祭と重鎮はこの世界で一番大きいイグプールの大聖堂に集まり、聖女が現れるのを待っていた。
待つこと数日。大聖堂の祈りの間にある魔方陣が白く強く輝きだした。
光のなかにうっすらと人影が見える。魔方陣の光が弱まるにつれて中の人物がはっきり見えるようになった。
魔方陣に現れたのは舞だった。
ジュノリーの趣味なのか、戦闘服と勘違いしたのか、現れた舞は寝巻きではなく制服姿だった。
各国の司祭と重鎮は一斉にひれ伏し舞に祈りを捧げた。
「聖女様この世界をお救いください。」と。
………
視界がゆっくりとクリアになり、周りにたくさん人がいることがわかった。
人々は一斉に土下座をすると「聖女様、この世界をお救いください。」という。
舞は、「あれ?ジュノリー、先生は?」
と問い合わせたけど、返事は無かった。
舞は言葉は通じるみたいだ、と安堵すると
「頭をあげてください。聞きたいことがあるんですけど、私の他にもう一人来ませんでしたか?」と声をかけた。
人々は顔を見合せ首を横に振る。
じゃあ、少し遅れて来るのかな、と思い先にこの世界の話を聞くことにした。
………
イグプールの大司教は、困惑していた。
頭をあげると、そこにいたのは黒い髪に黒い瞳、小柄で細身の年端もいかない少女だった。神々しさは感じられるがこれで本当に世界を救うような大事を任せられるのか。
騎士の制服に似ているが、丈の短い紺の服。世界を救う旅に出るには装いも、聖女自身も耐えられそうに無いように思えた。
聖女はもう一人来なかったか?と聞いた。
そう言えば現れてすぐに、「先生は?」と言っていた無かったか?だとすれば、少女の師にあたる人物も現れて聖女は二人になるのかもしれない。
聖女を迎えゆっくりと説明しようと部屋を用意していたが、すぐに移動せずその方をまったほうがいいのではないだろうか。私が考えても仕方ない。お伺いした方がいいだろう。
「もう一人来られるのですか?お部屋を移動していただこうと思っておりましたが、お待ちした方がよろしいですか?」
「待ってもらっていいですか。お願いします。ジュノリーが勇者を一緒に呼んでくれるって言ってましたので、そんなに待たずに来ると思うんです。」
「一緒に来られる方は、勇者様なのですか?」
なんと、ではこの少女がたった一人の聖女なのだ。
「私、魔力を均すのが仕事なんですよね?魔物とか出るらしいので、一人じゃ怖いし、知り合いも居ないのは不安だっていったら、引率に先生を付けてくれることになったんですよ。」
「そうだったのですね。それではお待ちいたしましょう。先ほど魔力を均すのがお仕事といっておられましたが、ジュノリー様より何をなすべきかをすでにお聞きになっているのでしょうか?」
「全然ですよ?仕事の内容を聞いただけです。そう言えば、どこにいくのかも知らないし、どうやって魔力を吸い上げるのかも聞いてないです。」
「それでは、後程詳しく説明いたしますが、お連れ様が来られるまでまずは簡単にこの世界のことをお話いたしましょう。」
この世界はジュノリーそのもので、彼は自分とこの世界に住む人々を護るため、時々こうして各教会の司教に神託を下す。
各教会の司教は長い間教会で神に仕えたものの中からジュノリーが選ぶのでどこの教会の司教も信用できる者である。
今回聖女が呼ばれた理由となっている異常気象は現在確認されているのは9ヶ所。
4つの大陸に各2ヶ所と4つの大陸の中心にある小さな島。
ただ、難易度が高いものもあるので低いものから順に世界を2回巡るのが良いでしょう。ということだった。
そんな話をしていると、ちょうど良いタイミングで魔方陣が再び白く輝きだした。
うっすらと人影が見えるのも先ほどと同じ。
光が収まるとそこに現れたのは、宮下だった。
宮下は、寝ていたであろうスウェットの上下のままであった。なぜか仕事用の鞄を持って。
「先生!」
「勇者様!」
人々がひれ伏す中、一人違う台詞を叫び、走り寄る人物がいる。
「あれ?3割増しになってない。良かった!先生よろしくね!」
「寺田?!まさか聖女ってお前か?3割増しじゃなくて悪かったな…。俺だって泣きたい。神様の手違いで3割増しのコピーは地球に残った…。すまん。」
「うわぁ、じゃあ先生本物?私はラッキーだけど。なんか先生ごめんね?巻き込んだの私のせいだわ…。」
「面白そうな夢だからそこはいいんだが…。聖女がお前なのが…はぁ。」
「なんでため息付くの?」
「浮気するなと言われたが、そもそも生徒とじゃそんな関係にならないじゃないか…。」
「えー。かわいい生徒でしょ?そんなこと言わずに護ってよ。
ね?先生諦めて一緒に世界を救いましょう!ついでに先生好きです!世界を救ったら付き合ってくださいね。」
「はぁっ?!やっぱりこれは夢か?生徒に告白されるなんて現実にあるわけがない。いやでも君は生徒で俺は教師…。いくら夢でも、この組み合わせは不味いんじゃ…。」
「先生、とりあえず、この世界の人たちが困ってるので、今後の話聞きません?」
「あぁ。うん。」
宮下はギャラリーがいたことに今更ながら気づき、しかも自分の格好が寝間着のスウェットだったことにさらに恥ずかしさを覚えたのだった。
せめて、俺もスーツ姿で呼んでくれれば良かったのに…。