家族の絆
いい雰囲気のあまり終わった気がしてました。こちらが最終話です。
男爵の捕縛をもって、ロバーツとカミラは牢屋から質素な客室に移された。昼間には長い時間の面会もさせてもらい、これからの自分たちの希望と不安を話し合った。北の遅い春は花々が咲き乱れて美しいだろう。夏は涼しく過ごしやすいだろう。秋は早く訪れるだろう。北の砦の冬は寒かろう。厚く雪が積もると聞く。冬支度には何がいる?雪が積もる前にたくさん薪を作るのは兵士の仕事か。寒さをしのぐ分厚い服も必要だろう。
ロバーツは身体を動かすことも剣をふるうことも好きだった。近衛騎士のようなお飾りとは違って、砦の兵士なら実戦にも出撃するだろう。楽しみだった。
カミラも一緒に来る。令嬢にはできなくともカミラなら家のことができる。好いた人の為に腕をふるい、温かで居心地のいい住まいを作りたいとカミラもまた楽しみにしていた。
「俺は頑丈なんだ。昔から風邪一つひいたことがない!」
「馬鹿は風邪をひかないって言うもんね!」
「からかうな、カミラ」
「あたしも頑丈だから毎日ちゃんと働くわ」
頑丈自慢すら楽しい。
訪ねてきたカミラの母と話したこともロバーツを明るくした。ロバーツを否定しなかったのだ。自分などとうに見捨てた王子だと最後に両親は言ったのに……。
カミラの母は言う。生まれつき堪え性の無い気質というものはある。正しさにこだわり押さえつけてはいけない。それを受けとめ一緒に進もうとする気持ちが大切なのだと。
貧乏子だくさんの下町にはいろいろな子供たちがいる。とりわけ様子が変わっている子供は周りや親が気をつけて見るのだ。
自分を否定する周囲の中でしかロバーツは育てなかった。
ある日、母親は自分より少し年上のがっしりした男性を連れてきた。
「あれっ、おじさん!久しぶり!」
「この人が今度カミラの父さんになるのよ」
「おじさんだったんだ!良かった。母さんが選んだのがおじさんで!!」
「カミラが娘になるなんて、こっちこそ大喜びだ」
「ロバーツ。この人はあたしの隣の家に住むおじさんでね。いつも困った時に助けてくれるの」
「カミラたちがお世話になりました」
「照れ臭いよ。これから親子になるのに、そんな他人行儀な礼はいらないよ」
「そうよ。これからカミラと結婚したら、ロバーツはあたしたちの息子になる。みんなで家族になるのよ」
「平民はこんなに温かいんだな。俺も平民に生まれれば良かった」
「これからだよ。これから家族ずっと一緒だよ」
「うんうん」
「あのね。迷惑かけた人たちに謝りたい。ロバーツも一緒に来てくれる?」
「俺の方が酷い迷惑かけたよ。絶対に一緒に行くよ」
両親となる二人は黙して語らず。だが城の騎士たちによって国の上層部に報告された言葉の数々は、少なくない嘆きを引き起こすことになる。
出発の前に謝罪をという願いは前日になってようやく叶った。ロバーツもカミラも真面目に心を込めて頭を下げる。
「ごめんなさい、リカルド様リリアナ様。あたし酷いことたくさん言いました」
「過ぎたことだよ」
「これから直していけばいいのよ」
カミラの謝罪に二人は優しく笑う。
「すまない。俺の方が酷かった。酷い暴言だった。どんな罰を下されても文句は言わない」
「聞いてないよ」
「わたしも聞こえなかったみたい」
「じゃあ、言ってないんじゃない」
びっくりして目を見開いているロバーツとポカンと口をあけたカミラに二人は声を出して笑う。
「しばらく王都を離れてね。北の砦の長官は相談にのってくれるはずだ。寒さが厳しいけど一年頑張ればお金も貯まる。もっと過ごしやすいような場所も考えるから」
「でも俺たちは国庫に手をつけて……」
「事情は聞いた。男爵が爵位やら何やらを売って頑張って補填してね。後は手柄でも立ててくればいいよ」
「最後に親らしいことしてくれたんだ!」
旅立ちには優しい嘘を……。
「じゃあ、行ってらっしゃい!」
「お元気で!お風邪をひきませんように!」
「行ってくる!」
「行ってきます!」
馬車に乗り込んだ二人はやがて見えなくなった。城のバルコニーからは国王と王妃が、悲しげにそっと見送っていた。馬車が見えなくなるまで…。
多分目的地に着いたら用意した荷物に気づくだろう。高価ではないが暖かで頑丈な数々の品が、ロバーツとカミラ、それぞれの両親からの心尽くしだとわかってもらえるだろうか……。
王族としての相続権は失ったが、親子の絆まで切れたわけではないのだから。
【 Fin】
最後までお読みいただいてありがとうございます。
パーティーで婚約破棄宣言というお話は私には無理でした。男爵以外のキャラに自分の一部が入っているので、どう頑張っても言えませんでした。
では、どのような気質・生育環境・愛情を受けてそうなり、そして何を求めるかを考えて文章にしてみました。
少しでも喜んでいただけたら幸いです。