一つの初恋の成就
リリアナが8才になった頃、王妃様のお茶会がひらかれた。将来的に側近や婚約者となるものを今のうちから選別する為に年の近い少年少女たちが王城にたくさん招かれた。
リリアナは若草色のドレスを作ってもらい、同じ色のリボンを髪に編み込みアップにしてもらった。子猫を思わせる大層可愛らしい少女である。
「ねぇ、母様。わたし変じゃない?」
「何度聞いても変なところはないわよ」
「リリアナは心配性だね。誰に似たんだろう?」
「少なくとも母じゃないわね」
「父でもないな」
「その話はどうでもいいから!これから初めて王子さまたちに会うの。わたし嫌われないかしら?」
「今日は単なる挨拶だけだよ」
「お友達もできるといいなぁ」
「心配しなくてもリリアナなら友達たくさんできるよ」
「父様の言葉は全然当てにならないわ」
そうこうするうちに城に着き、パーティー会場となる中庭へ案内された。
「何て綺麗なの」
薔薇が咲き乱れる庭園の中には、色鮮やかなパラソルがいくつも立てられ互いに魅力を引き立て合っている。主役の薔薇を際立たせるよう落ち着いた色のドレスを着た夫人たちがあちこちで笑いさざめいていた。
城を背に一段高い壇が作られ、どうやらそちらに王族の方々がいらっしゃるようだ。国王に王妃と二人の王子。黒髪がロバーツ第一王子、茶髪がリカルド第二王子だろう。
「はじめまして。シュバルツ公爵家が長女、リリアナ・シュバルツと申します」
教えられたカーテシーを、きちんとできたとホッと胸を撫で下ろした時に、ロバーツのとんでもない暴言が聞こえた。
「けばけばしい髪の色だな!トマトじゃないんだ!俺は好かんぞ!」
国王様が固まった。王妃様は険しい目をした。リリアナの父は怒りに目を吊り上げ拳を握りしめている。
「…僕はとても綺麗だと思うよ」
「目がチカチカするだろっ!?」
必死なリカルドのフォローは秒で瞬殺された。
(…トマト、トマト、わたしの髪はトマトの色……わたしはみっともないんだ)
王族への挨拶を終えたリリアナは、一人になりたいと庭の片隅に来ていた。今まで祖母譲りの赤い髪を誉められこそすれ、貶されたことはなかったのだ。その目から耐えきれないと涙が溢れた。
「大丈夫、リリアナ?」
その言葉に顔を上げると心配そうなリカルドの姿があった。そしてそっとハンカチを差し出された。
「お見苦しい姿で申し訳ありません」
「リリアナ嬢の髪は本当に綺麗な色だよ。光にかざすと炎のようにキラキラしてる。どんなに寒い夜だって、きっと温まる炎だよ」
俯きかけたリリアナに一生懸命リカルドが言う。その姿は生真面目で温かくて、まるで日だまりでまどろんでいるようだった。
(本物の王子様って、こんなに優しいんだわ)
まだ瞳を涙で潤ませながら、はにかんでリリアナが微笑もうとする。
(可愛いっ!!!)
リカルドが目を見張った。
「リリアナと同じ名前の紅薔薇があるんだ。一緒に見に行こう!」
「はい!」
差し出された手をつないで、お茶会の最後まで一緒に過ごし、そうして二人は恋に落ちた。
もちろん庭の片隅といえ幼い子供たちから目を放すことはなく、二人の親たちが生温い目で見守っていた。この日、リリアナがリカルドの婚約者候補に内定したのだ。
リカルドと共に成長する為にリリアナはしばしば城を訪ねた。そうしてたびたびロバーツと衝突することになる。いばりん坊で飽きっぽく乱暴なロバーツは、よくリカルドを「グズ」や「ノロマ」だと罵倒する。確かにロバーツは飲み込みが早いが持続性がない。遊びも勉強も「飽きた」の一声で放り投げ、直ぐにどこかに行ってしまう。
「ゆっくりゆっくり二人でやりましょ」
対して一つ年下のリカルドは飲み込みは遅いが努力家だった。理解という名の積み木を重ね、どこまでも高みを目指していける。
そうしてずっと二人で努力を積み重ねてきた。長子相続か実力を取るかで、リリアナの立ち位置はなかなか明確に出来なかったが、もう二人は晴れて婚約者なのだ。
「リカルド様。大好きです」
「僕も好きだよ、リリアナ」
あの日と同じように薔薇を見て、あの日と同じように二人手をつないで、幸せに笑みこぼれながら歩いて行く。
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