〆はマルサで
カミラの父であるバートリー男爵は憔悴していた。
(せっかく貴族にしてやったのに使えない娘だ。しょせん賎しい女の娘ということか)
自分に逆らえない小綺麗な侍女を弄んで、孕むとはした金を渡して追い出した。その侍女がカミラの母親だった。それを先代当主に戒められたが、疎ましくてたまらず居なくなって清々した。
子爵令嬢を妻に迎えてはみたが上の身分を鼻にかけ小うるさいばかりで金がかかる。ストレスで外に遊びに行くと更に金がかかる。領地経営も上手くいかない。
だんだん羽振りが悪くなり、先代の貯蓄を切り崩して生きてきた。やがて借金で首が回らなくなった時に、昔捨てた子どもが見目の良い娘となったと聞いた。大金と引き換えに妾に出せると強引に引き取った。箔付けに通わせた学園でカミラが第一王子を釣り上げたと聞いた時には怯えたが、それも高価なプレゼントを目にするまでだった。二人の未来の為とカミラをだますことなど赤子の手を捻るより簡単だった。
もう絞れるだけ絞り取った。そろそろ金持ちにカミラを妾として売ろうと画策していたのに、あの卒業パーティーでの失態だ。男爵はカミラの累が自分にも及ぶのではないかと構えていた。
(大丈夫だ。あれは絶縁した。俺の娘じゃない)
パーティーの三日後、城からの使いとして中年の文官が現れた。
「バートリー男爵。あなたに逮捕状が出ています」
「なっ!俺はカミラのやったことなど知らんっ!全てあの娘が勝手にやったことだ!それにもう縁を切った赤の他人だっ!」
「娘さんのしたことは本来なら内乱罪に相当します」
「それならカミラを処刑するなり何なりすればいい!俺には関係ないっ!」
「ですが陛下は若さ故の過ちと娘さんに温情を示され、大人しく北の地に行くのなら罪には問わないと仰せです」
男爵はほっと肩の力を抜いた。これで自分も無罪だと。だが文官は追求を止めなかった。
「第一王子が娘さんに贈った品は王子費から出ています。今すぐ現物、もしくは代金をお返しください」
「そんなことができるはずがない!あれはカミラがもらったものだ!娘がもらったものを返す必要がどこにあるっ!」
「カミラさんは赤の他人なのに?」
「……ぐぐ…ぐぐぐ……」
「カミラさんは全て返却すると、こちらに署名なさってます」
男爵は震える手で差し出された書類を手に取った。
【わたしカミラ・バートリーはバートリー男爵家との縁を切り平民になることに同意します。つきましては今までいただいた贈り物全てを国にお返しします。大変申し訳ありませんでした】
あまり上手いとは言えない文字だが、それでも一生懸命書かれていることがわかる文字だった。カミラと母親がどうしたら少しでも罪を償えるか、考えて騎士にも相談して書いたのだ。もちろん騎士は命令通り国王の意向を伝えた。
「カミラさんはみんな父親に取り上げられたと言いましたが?」
「そんなはずはないっ!あれはカミラが未来を買う為に俺に払ったんだ!」
「未来ですか?」
「そうだ!金さえあれば王子の妻の座を買えたんだ!」
「どうやって?」
「金をばらまけば、あちこちの貴族の支持を買えた」
「具体的に支持する貴族の名は?」
「……それはこれから……」
「ではまだお金には使っていないはずです。良かったですね。第一王子は国庫にまで手をつけていまして。男爵が使っていたら公金横領罪でしたよ」
にこやかに笑う文官とは裏腹に男爵は青ざめた。久し振りの大金に自分も家族も浮かれて使った。借金の返済でかなり使った。もうほとんど残ってない。
「…待ってくれ…」
「娘さんが受け取った品の一覧表がこちらにあります。直ぐに私の部下が品物の検品を始めます。お金は私に今渡してください」
「待ってくれ!ちょっと待ってくれ!待ってくれたら必ず揃えて返すから!」
土気色になった男爵は、すがり付かんばかりに文官の前に膝をついた。
「自分の娘を騙して王族から金品を巻き上げたと両陛下も大層お怒りです。私は王室費運用監査官をしています。あなたの罪名は公金横領、詐欺罪、王族侮辱罪。軽く済むとは思わないことです」
とても嬉しげに文官が言う。その言葉を聞いた男爵は目がくらみ床に手をついた。
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