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みんなでスルーなら普通だよね

 今日は王立学園の卒業式だ。送辞を読みあげたのは第二王子リカルドで、穏やかな人柄と身分に分け隔てのない公正さに多くの生徒たちから慕われている。

 対して答辞を読みあげたのはリリアナ・シュバルツ公爵令嬢。凛とした佇まいと美しい所作、驕りのない優しさにやはり多くの生徒たちから慕われている。


 その式の片隅で不機嫌に顔を歪める二人がいた。もちろんロバーツとカミラである。


「王太子となるこの俺を差し置いて。くそ忌々しい女めっ!」

「そうよ。ロバーツの方がふさわしかったわ。それに送辞を読むのはこのあたしだったのに。あの平凡王子じゃなくてね」

「あれは見た目も駄目なら口も五月蝿い弟だ」


 壇上に上がれるのは生徒の模範たるべき存在であることや、自分たちの生活態度を二人とも忘れている。


 いつもはこの後父兄を交えた簡単な立食パーティーがあるのだが、今回は重大な発表があると王城で国の重鎮を招いた正式なパーティーが開かれた。


 当然のようにカミラはロバーツと共に馬車に乗り込み、部屋を陣取り女官に身支度をさせた。


 きらびやかな王城でのパーティーとロバーツのエスコートにカミラは得意の絶頂だった。今日はロバーツからのプレゼントでタフタを重ねたピンクのドレスに裾には金のアクセント。黒を基調にした服に金のアクセントを加えたロバーツの姿は凛々しく、互いに引き立て合い愛し合う素敵な恋人同士に見えるはずだ。


「あたし達ってお似合いよね」


 やがてパーティーが始まりゆっくりと国王が王妃を伴って入場した。威厳ある国王と二児の母とは思えない美貌の王妃は優しく微笑んでいた。

 そして国王の厳かな一声が上がった。


「まずは皆の卒業を祝おう。ぞんぶんに楽しんでくれ」


 すぐに軽やかなワルツが奏でられ、城仕えのお仕着せを着たメイドたちが飲み物を配る。あちこちで歓談が始まったが、ロバーツとカミラに近づく者はいない。


「あの女のせいよね。悔しい。ロバーツ」

「後で懲らしめてやるさ。とりあえず踊ろう」


 努力しない二人のダンスはぎこちなく周囲の失笑を買った。


「カミラ。父上と母上に君を紹介したい。未来の娘ですってね」

「嬉しい。ロバーツ」


 二人からは見えなかったが、近づいてくる二人を見て王妃が国王の脇腹を小突いたのだ。急に咳払いした国王が大きく声をあげた。


「さて、宴もたけなわであるが重大な発表がある。リリアナ・シュバルツ公爵令嬢。これへ」


 割れた人波を凛と歩き、美しい所作でカーテシーをするリリアナ。鮮やかな赤い髪はシャンデリアに輝き、宴の為にと淡く差した口紅が瑞々しい。そのドレスもまた素晴らしい。首元の淡い緑から裾に徐々に新緑へと移り変わるグラデーションに紅薔薇のコサージュ。マーメイドラインはスタイルの良さを引き立てる。まさに公爵家が誇る薔薇そのものだった。

 学生も招待客も感嘆の声を上げる中、カミラは歯軋りした。

(悔しい悔しい。私より上等なドレス!それにちょっと胸があるからって見せびらかして!)

 カミラはやや凹凸に乏しかった。


「はい。御前に」

「主席卒業おめでとう」

「ありがとうございます」


 今度はロバーツが歯軋りした。

(小賢しさを鼻にかけて!)


「生徒会の運営手腕も素晴らしいものであった」

「生徒会長はこの俺です!」

 たまらずロバーツが声をあげた。


 国王とリリアナが固まったのは僅か一秒。何事も無かったように二人は続ける。


「リカルド殿下が助けてくださったお陰です」

 第二王子リカルドが微笑みながらリリアナの傍らに立った。


「そなたは王太子妃としての資質を見事証明した」

 その言葉を聞いたリリアナは花がほころぶように笑った。


「お待ちください父上!こんな女との婚約なんてとんでもない!俺には愛するカミラがいる。そのカミラをこいつは虐めぬいたんです。悪い噂を流して孤立させ、顔を見れば嫌味を言いカミラを泣かせる。こいつは冷血女です!」

「ロバーツの言う通りですわ。あたしはさんざん嫌がらせを受けてずいぶん辛かったんです」

 ロバーツが吠えカミラが涙ぐんだ。


「チッ!」

 どこからか聞いてはいけない舌打ちが聞こえたような…。

 王妃の目が笑っていない。僅かばかり国王が青ざめた。


「衛兵。この二人を連れ出しなさい」

 冷たい王妃の一声で待ち構えていた兵士が二人を拘束する。


「母上っ!何を!」

「何であたしがこんな目に遭わなきゃならないの!」


「ちょっと黙らせておきなさい」

 雷雲を背負った王妃がにこやかに言う。もちろん逆らう人間はいない。二人はまぁちょっと猿ぐつわをされただけである。


「皆のものに宣言する。第一王子ロバーツは廃嫡。王太子は第二王子リカルド、王太子妃はリリアナ・シュバルツ公爵令嬢とする。長年互いに想い合い手を取り合って歩み続けたその姿を皆も見ていよう。二人は本日この場で婚約を結び成婚は一年後とする」


 割れんばかりの拍手と喜びの歓声が轟いた。

 もっとも退出させられた方の二人には、歓喜で頬を上気させ見つめ合うリカルドもリリアナも見えはしなかったが…。

お読みいただきありがとうございました。

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