第一王子の桃色の日々
少し改稿しました。
今日も今日とて王立学園は第一王子と庶出の男爵令嬢が繰り広げる謎の桃色空間が広がっていた。
第一王子ロバーツは王妃から美貌と黒髪黒目を受け継いだ凛々しい少年だ。一つ年下の第二王子リカルドを平凡と蔑み、次期王太子そして次期国王となるのは自分だと思い込む傲慢さが表情にも見て取れる。
男爵令嬢カミラ・バートリーはピンクブロンドの髪にピンクの瞳の少女。男爵が侍女に生ませた庶出の娘で、その愛らしい容姿から引き取られたとのもっぱらの噂である。マナーは付け焼き刃で学力も落第スレスレだが、良い縁談を得る為にとごり押しして貴族子息の通う学園に入れたのだ。
学園で出会った二人は互いに一目で惹かれ合った。
その結果今や人目もはばからず手を繋ぎ腕を組むバカップルだ。互いに逢瀬に夢中で他のことは全く目に入らない。
周囲は触らぬ神に祟りなしと遠巻きにし、それがまた二人きりの世界を作り上げる。
だが、それを見過ごせない立場の者もいる。
「失礼いたします」
二人の前に進み出たのは第二王子リカルドと王子妃候補のリリアナ・シュバルツ公爵令嬢。
リカルドは柔らかな茶色い髪にヘーゼルの瞳。ロバーツはリカルドを平凡と蔑むが、その容姿には気品と理性と穏やかさとがにじみ出ている。
リリアナは日に透かすと燃えるように煌めく赤い髪と少し吊り上がり気味の猫のような新緑の瞳で正に薔薇のように美しい少女だ。ただロバーツの好みではなかった。
「何の用だ。リカルドとリリアナ・シュバルツ?」
応じるロバーツは目も声も氷のように冷たい。だがそれに動じることなくリリアナは凛として続けた。
「生徒会の打ち合わせの時間です。お呼びに参りました」
「俺は忙しい」
「生徒会長たる殿下にしか下せぬ判断もあります。業務が滞っているのです。どうか、お願いいたします」
リリアナは低く頭を下げた。
「そのような些末事項はお前がやっておけ。何の為の副会長だ?」
「ですが…」
「リリアナの言う通りです。兄上が為すべき公務も滞っているのです」
傍らのリカルドがリリアナを庇うように続けた。
「ええいっ!しつこいっ!そのくらい無能なお前たちにもできるだろうっ!鬱陶しい顔を俺の前に見せるなっ!」
吐き捨てるようなロバーツの言葉をカミラも肯定した。
「そうよそうよ!あなたたちなんかがロバーツを煩わせないで!」
「言い過ぎです。兄上。それに…」
「わかりました。お騒がせしてすみませんでした」
尚も言い募ろうとしたリカルドをリリアナがとめた。
「さすがは無能王子と冷血女ね」
カミラはロバーツにしなだれかかった。
「ねぇ。ロバーツ。あの冷血女があたしにずっと嫌がらせして辛いの。あたしに嫌味ばかり言うのよ」
リリアナは貴族令嬢としてのマナーを注意しただけだが、問題などないとロバーツが切り捨てた。もともとカミラにとって注意は単なる嫌がらせにしか受け取れていなかった。
「まだそんなことをしているのかお前はっ!」
「ですが兄上!」
「もういいのです。リカルド殿下」
憤り怒鳴るロバーツの言葉を聞きリリアナは青ざめたが、それでも凛とした姿を無くさず一礼してリカルドに庇われながら去った。
「ロバーツばかり押し付けられて責められて、ずっと辛い思いをしてきたのに。なんて酷い人たちなのかしら」
「ああ。わかってくれるのはカミラだけだ」
「あんな女と無理矢理結婚させられるなんてロバーツがかわいそう」
「それに関しては俺が手を打つよ。俺が愛してるのはカミラだけだからな。あんな身分だけで選ばれた女じゃない」
「ロバーツ。あたしも愛してるわ」
「今日は街で評判のパンケーキを食べに行こう。カミラ好きだろ?」
「嬉しい。ロバーツって何て優しいのかしら」
「俺が優しいのはカミラにだけだよ」
邪魔者が消えた恋人たちは満面の笑みで手を取り合い、いつもの場所に向かう。情熱を遂げる為の場所に…。
お読みいただきありがとうございました。