第10話:朝になって
眩しさにまぶたが上がる。
見上げた天井はまるで知らない。
そしてすぐに思い出す。
ここは、ゲームの世界だってことに───
「……はぁ……」
私は肩から流れた銀色の髪をつまむ。
そう、私はレイヤだ。
「やっぱ、不思議だな」
ガサついた声でつぶやき、ベッドから足を下ろすと、ひざまづく人影がある。
思わずのけぞった私を見上げたのは、オフィクスだ。
「お、お、おはよ、オフィクス」
「おはよう、レイヤ」
どうも昨日の夜のことがあんまり思い出せない。
なんか叫んだ記憶はあるけど………んー???
「ねぇ、オフィクス、」
「なんだ?」
「私、なにかしたよね?」
「……どうだろうな。俺は楽しかった」
「そう」
私は気を取り直して、シャワーを浴びに浴室へと移動し、改めて着替えをすませると、朝食を食べに食堂へと移動する。
しっかし、よく歩くところだ。
朝日を浴びてキラキラとする館は美しいのだが、どこへいくにも時間がかかる。
「オフィクス、やっぱりここ、広いね」
「そうか? レイヤの屋敷も広かった」
「そうなんだ。……そうだね」
「疲れが取れなかったか?」
「ううん。ぐっすり寝れたよ。夢を見ないで寝れるのは、すごく助かる」
「それならよかった」
今日初めてのデコツンです!
デコとデコをくっつけることを、デコツンと呼ぶことに今、決定しました!!!!
いやぁ、デコツン、いいわぁ……
朝から、なんか胸いっぱいでいい。
ニヤニヤしながら歩いていると、前からソフィアが歩いてくる。
どうも右翼と左翼というように私たちの住む場所が区分けされていて、それこそ食堂や、学び舎、謁見の間などが中央に位置しているのだ。
なので部屋に戻れば会いに行かない限り会えない間取りになっている。
それがいいのか悪いのか。
でもおタイの居住空間として区別するなら、いいことなのかも。
「レイヤ、おっはよー!」
「ソフィア、おはよ」
「レイヤ、昨日、すごかったね」
「え? 何も覚えてないんだよね」
「うそ! かっこよかったよ!」
2人でわいわいとしゃべり、席に着くと、すぐに朝食が滑り出てきた。
私の斜め後ろにオフィクスが、ソフィアの後ろにコメット君がついている。
私はふりかえり、オフィクスに尋ねた。
「一緒に食べない?」
「……いや、それは」
「一緒にゆっくりたべよ、オフィクス」
言うと、私のとなりに腰掛ける。
すると彼の元にも朝食が届く。
今日の朝食はベーコンと目玉焼き、サラダと、トーストしたパン、あと野菜スープである。
簡単な料理だけれど、朝はこれぐらいがちょうどいい!
どれもいい匂いでたまらないっ!
私はスープを飲みながらオフィクスをチラ見する。
彼は長い指でフォークとナイフをつまむと、ギコギコなんかせず、スッとベーコンを切り取った。
本当に、スッと!
すごい………
そして、大きな口でそれを頬張る。
半熟の目玉焼きの黄身をソースにして、また頬張る。
口の端に着いた黄身をぺろりと舐めて、今度はパンに手を伸ばす。
その指がまた綺麗!
いやぁ、イケメンが食べる姿って本当、いくら見てもいいものですね!!!!
オフィクスの食べる姿をおかずに、私もパンに手を伸ばす。
目が合い、思わずにっこり笑うと、オフィクスもにっこりと微笑でくれる。
私、今日、死ぬんじゃないかな………
この私の行動に感化されたのか、ソフィアもコメット君を呼び、朝食を摂り始める。
彼もまたソフィアに優しい笑顔を向けて、朝食を頬張る姿は、これもおかずになります。
十分なおかずです。
白飯5杯はいけますね!!!!
これまじ今写真に撮ったら美しすぎる光景なんだろうなぁ………
だって、今の自分、レイヤだし!
「こんなご飯、初めて」
バターがたっぷり染み込んだパンを頬張った私に、ソフィアが笑う。
「あたしもだよ。こんな豪華な朝食、食べたことないもん!」
2人で笑ったとき、颯爽と現れたのは、アリエスだ。
「朝から楽しげで何よりだ。今日から君たち2人は、夢の国の女王候補であり、我々星座の神々と共に夢の国の再建をしてもらう」
こんなシーンあったっけ?
そう思いながらコーヒーをすする私に、アリエスの視線がぶつかる。
「貴様の昨日の態度、どれほどの自信があってのものか、見させてもらうぞ!」
………なんのことだろう。
怒鳴ったのが、原因かな………?
入れ替わりで来たのはタウラスだ。
私の肩をガバリと掴み、
「いやぁ、昨日のお前の一言は響いた! お前みたいな嬢ちゃんに言われるとは……だけど俺はお前に惚れた! なかなかいいな、女に怒鳴られるのも!」
また豪快に去っていくが、私が怒鳴ったのは間違いないようだ。
次にジェーとミニが走ってくる。
「ジェー、夜のご飯は走らないことにする」
「ミニも走らない。だから、レイヤ、仲良くしてね!」
そう言って走り抜けていった。
「一体、何これ……」
そう思ったのは私だけじゃない。ソフィアも首を傾げている。
「レイヤ、これ、好感度に関係するの?」
「わかんない。ね、ソフィア、好感度のパラメーターってどこかで見れた?」
「そう、それさ、全然ないし見れないし、コメット君にも聞いたけどわかんないって」
「……どうしよ」
私たちは食後のデザートに出された果物を頬張りながら、このゲームの本質を、もう一度見直すべきだと思い始めていた。




