ひと夏の事件
やっと夏休み明けの初日が終わった。
全校集会もあってまああんな事があって凄く疲れた。長かった。ぼーっと帰る準備をしていると
「わ!!」
どんと肩を叩いて驚かせてきた。
「うぎゃあ!?」
後ろを向くと面白そうに笑った祐奈がいた。
「も、、やめてよー」
「めっちゃびびるじゃん!てか、今日部活オフっしょ、どっか寄ってかない?」
2人でゆっくり歩いていく。校門先で皆が祐奈に男子も女子も関係無く話しかけてくる。
(人気者なんだなあ)
お洒落で明るくてスタイルもいいから人気が出るのは分かる。
(それに比べて私は…)
自分は勉強も運動も出来ないし太ってるし可愛くもない。何にも取り柄ないと思うと自分が本当に嫌な人間に思えた。
「はああああ」
「なに、またなんかあったの?」
にやにやしながら聞いてこないで欲しい。
「もうさやばいの」
割と遠い道のりなのにあっという間に看板が見えた。
「なるほどね〜そりゃ気まづいわ」
聞いてもらうだけで割と気持ちが落ち着いた。でも、さっきから少し気になる事がある。
「祐奈なんでそわそわしてるの?」
後ろを確認したり手をゆらゆら動かしていた。
「…なんか気配感じるの。おばけかな、、
よしどっちか早く着くか競争ね!」
スタートの合図も出さずに全力ダッシュする。
「ちょ、待ってよおおお」
着いた頃には汗をかいてぐったりだった。
「お腹空いたーポテトとシェイクにしよ」
先に席に着いている祐奈の所に行った。
「え、サラダと炭酸水?!」
「最近太っちゃってさあちょっと食事制限しないとかなって」
こんなに痩せているのに、すごいストイック。SNSには美味しそうな食べ物ばっかりあげて太らない体質なのかと勝手に思ってただけで、細い人は影で頑張ってる事が分かった。
なんか自分が急に恥ずかしくなった。
「まっずうううあたし強い炭酸無理」
やっぱり凄いと言おうとしたのに祐奈はあげると言って炭酸水をこっちに差し出してくる。
「やだよ、自分のあるもん」
「いーじゃん飲んでよお」
小声でぎゃーぎゃー言い合ってると後ろから急に声が聞こえた。
「それ飲むよ」
知らない男の人の声だった。
声のする方に顔を向けた。
「飲まないなら俺飲むよ」
にやっと笑ったのは30後半くらいの太った男の人だった。祐奈の知り合いかと隣を見ると体は小刻みに震えて真っ青な顔をしてた。
(もしかして…)
夏休みの最終日、あんな近い距離なのに車で迎え呼んだり、ここに来る時何回も後ろ確認して私を心配させないように競争とか言って走ってたのも全部
(この人のせい?!)
目の前の男の人は怯えてる祐奈を見て、にやにやしながら舐め回すようにじっとり見ていた。
そして、飲みかけの炭酸水に手を伸ばした。この人のせいで祐奈はずっと怖い思いをしていたのになんで笑ってるのかと考えると腹が立って仕方無かった。
そして気づいた時には声に出していた。
「やめて!!!」
思ったより大きな声が出ていて周りが少しざわついた。
男の人からスッと笑みが消え、睨んできた。
(怖い、殴られるかも。殺されるかも知れない。それでもそれでも…)
「黙って見過ごすなんて出来ない!付きまとったりするの辞めてください!嫌がってるじゃないですか」
「なんだこいつ」
少しずつ前に出てくるのが分かった。怖くてぎゅっと目を瞑った瞬間、
「お客様、大丈夫ですか!?」
気付いた店員さんが駆け寄ってきた。
近くに居たおばさんが私達の手をぎゅっと握ってくれた。
「もう大丈夫だからね」
その言葉と温かい手で強張っていた体が解きほぐされ涙が止まらなかった。