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首輪つき

サブタイトル:首輪つき

作者:砂塵精魔

「この峠を越えれば目的地という所で逃げられてたまるか」


迂闊だった。 まさか奴の檻の錠が知らない間に外されていたとは


「これなら直に縄で縛っておくべきだったな」


草の根を掻き分けながらアールは呟いた。 赤い髪と茶色のローブに落ち葉がまとわりつく。


「護衛は頼まれたが、追跡の話は聞いてないぞ」


相方のイワンが吐き捨てる様に言う。 彼は皮の鎧を着ているため、アールよりも装備が重い。それでも追跡に加わってくれている のは、単にアールとの個人的な付き合いがあるからだけである。


「武器も持たずに街道から外れたんだ、もうモンスターの餌になってるんじゃないか?もし くは奴の仲間が助けに来たか」


「……その可能性もあるな」


イワンが身も蓋もない事を言うが、自分の経験則から言うとその線もあり得ない事では無 い。


「あまり奥に行くと商隊に戻れなくなる。この辺りで切り上げるか」


探索を切り上げようかと思っていた矢先 突如前方に光る物を見つけた。 二人共、腰の得物に手を伸ばす。


その方向に行くと目の前にターゲットの少女はいた。 エルフにはよくある緑髪、細身の体を木にもたれかけさせている。 外傷の方はボロボロだった服が更にボロボロになり、履かせていた靴の靴底は破れたようで あった。


「いた、ようやく見つけたぞ」


草木をかき分けて奴隷の方に近づく。


「来なかった……呼んだのに……」


アールには少女がうつ向きながらそう言ったように聞こえた。 そんな事はお構い無しに乱暴に手を掴んで立たせようとするが、それをイワンが止める。


「待て、かなり疲弊している。水位は飲ませておいてやろう」


そう言って自分が持っていた水筒のコップに水を注ぎ奴隷に渡す。


「ほら、飲みな」


しかし、コップを受けとろうとしなかったので、イワンは水を飲ませようと奴隷の口元を 覆っていたスカーフを外す。 スカーフの下から緑色の首輪が光る。 外傷とは裏腹に首輪は綺麗なままなのが対照的であった。


「こりゃ……」


イワンは思わず絶句する。 アールは奴隷が装飾具を身に付けている事はよくあるので気にならなかった。


とりあえず水を飲ませておとなしくすると、もう一度スカーフを巻いてやった。 その作業が終わった後、イワンは奴隷を背負いながら言う。


「こいつは俺が背負っていく、アールは先導を頼む」


「了解、早く戻らないと、頭の機嫌は悪いだろうな」


追ってる最中にも目印を残しておいたおかげでキャラバンには迷わずに帰る事が出来た。


「よくやったお前ら、これが無事でなによりだ」


そう言って頭は奴隷のスカーフを取ると太い指で奴隷の首輪に触った。


「今度は足枷を鉄製にしておけ、もうヘマするんじゃねえぞ」


「へぇ」


そう言って奴隷を見張り役に渡す。


「しかし惜しいなあ」


「何がです?」


アールは頭に尋ねる。


「そうだな、お前らには話しておくか 今回の依頼人の目当てはあの奴隷の首輪だけで他はいらないと言う話なんだが」


「首輪だけ?」


「だが、あの首輪はどういう訳か接合部が見当らない。首輪に傷を付けずに外すには首をこ う……」


と言って自分の首を切る動作をした。


「だが、死体じゃ値段が下がる。まあ、表向きは一度『商館』を通してから依頼人に引き渡 す事になっているから、それまでは体の方も必要だがな」


そう言った後、頭は確認のために檻の方へ歩いて行った。 ともかく予定の日時までには商館に着けそうだ。


ーーーーー


夕刻の街 フォードラム 町の周囲を石壁で囲んだ城下町であり、 夕暮れ時の町並みが綺麗な事で知られている。 今の時刻は昼前辺り、なんとか予定の日時には間に合う事が出来た。


「『商館』の指定してた時刻には間に合いましたね」


町の入り口にある石のゲートをくぐった後、馬車の中でアールは言った。 荷物と言うのはもちろんあの奴隷の事である。 程なく道を進むと商館の裏に着く。


「アール、あの商品を連れておれの後に来い、足枷だけは外しておけ」


「分かりました」


頭に指示されるとアールは荷車の奥に座っていた奴隷の足枷を外して「外に出ろ」と手を引 いて連れ出した。 少女はうつ向きながらも抵抗するそぶりは見せない。


ーーーーー


いつも通り頭からは今回の報酬の手切れ金が渡され、明日の出発まではフリーということに なった。 とりあえず見つけた酒場に入る。


「イワン、どうしたんださっきから?」


アールはイワンの様子が普段と違うことを口にした。


「……あの奴隷の首輪の事について考えていた」


「そうか……最初に護衛の依頼をする時、お前には運ぶ荷物の事に関して説明したつもり だったんだが」


アールは少々うんざりしたと言う表情を浮かべる。

今さらこの稼業の事についてとやかく言われる筋合いは無いと思っていたからだ。 そんなアールの様子を察したのかイワンは言葉を付け足した。


「違う、仕事の内容に関して言ってるんじゃない。あの首輪、あれはかなり危険だぞ」


「危険って?」


「あんたの頭はあの首輪をただの希少な装飾具とでも考えているんだろうが……あれは」


突如、大きな振動が伝わる。 テーブル置かれていた食器がカタカタと揺れ出す。 回りにいた他の客も何事かと外に逃げ出す。 アールとイワンも同じ様に外に出ると誰かが叫ぶ。


「何だあれは!?」


そう言って人々指差す先には火に包まれた商館と得体のしれないモンスターの影があった。 イワンは遅かったかとでも言うようにポツリと呟く。


「俺がもっと早く気づくべきだった。あれは召喚用の祭具なんだよ……」


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