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とある獣人奴隷の1

サブタイトル:とある獣人奴隷の(全4話)

作者:ブービー

……なぜ、こんな事になったのだろう。



テントの入り口に立つ武装した男を横目で見ながら、気付かれないように小さくため息をつく。

周りを見れば、両腕を縛られ、首輪で自由を奪われた女性が何人も目に入った。


その殆どが人間だが、私と同じ獣人族も見える。

皆、薄いぼろ布を一枚身にまとっているだけの状態だ。


隅のほうには一人だけエルフ族の女性が立っているのが見えた。

こちらは両手両足を縛られた上にさるぐつわで口を封じられている。何かの間違いで魔法を使われてはたまらないという事なのだろう。



ここは人間の町の中にある奴隷市場の一角。


私の名はルシア。今年で16歳になる獣人族の女だ。

故郷の森で狩りをしていたところを奴隷商人に捕まり、こうして売り物にされている。

一緒に狩りをしていた友達のうち一人は、矢で射抜かれた傷が悪化し、ここに着く前に命を落とした。

もう一人は二日前、護衛を連れた身なりの良い人間に買われていった……

残ったのは私だけだ。


両親の言いつけを破って、森の外れまで狩りに行ったのが悪かったのだろうか。

あの日の決断が悔やまれてならない。

そもそも遠くに行こうと言い出したのはカルミラなのだが……いや、死んでしまった友達の事を悪く言うのはよそう。

人間の恐ろしさは皆、両親から聞いていたのだ。

こうなっているのは油断をした自分の責任以外の何物でもないのだから。


とにかく、この両手が自由になったら何としてでも逃げ出そう。

それが出来ないなら……せめて戦って死のう。


もう何度目になるだろう、決死の決意を固めたその時、テントの幕が開き、人間が入ってきた。


「どうぞこちらです旦那、お眼鏡にかなう娘がいるといいんですがね」


最初に入って来たのはこのテントの主である奴隷商人だ。

正直なところ顔も見たくないが、あまり敵意をむき出しにしていると仕置きと称した鞭が飛んでくる。

それに、ずっと売れ残ってしまったら行く先は娼館か魔獣の餌だ。

それでは戦うどころの話ではない。


「お邪魔します……」


努めて平静を装っていると、奴隷商人に続いてもう一人の人間が入ってきた。


背は少し低めの、30歳くらいの男だ。

人間の顔はどれも老けて見えるので正確な年齢は分からないが、そう若くはないだろう。

髪は黒く、全体的にぽっちゃりしていて何とも覇気のない目をしている。

どこかの貴族のバカ息子だろうか。それにしては随分低姿勢だ、さっきから奴隷商人に向かって意味もなくペコペコ頭を下げている。


「うわぁ……」


その男はテントに入って周りを見るなり、目を丸くして立ち尽くしていた。

場慣れはしていない様子だ、やはりどこかの貴族のお坊ちゃまなのだろうか。

しかしそんな人間が護衛も付けずにこんな場所に来るとは思えないけど……まあそいつの素性なんてどうでもいいか。


「おいお前ら! こちらの旦那は身の回りの世話をする奴隷をお探しだ。買われたい奴はしっかりアピールしろ!」


奴隷商人が声を上げると、周囲にいた奴隷達の何人かが媚びた声を上げ始まる。

この男に買われたほうがここよりマシだと考えたのだろう。

確かにぼーっとしていて覇気がない、御しやすそうに見える男だ。

動きもトロそうだし、外に出れば簡単に逃げられるかもしれない。


……でも、人間なんかに媚びたくない。


甘ったるい声で囁いたり、自身の売りをアピールしたり、境遇を語って同情を引いたり……

私も少しでも早く自由になりたいならそうするべきなのだろうけど、そんな事はしたくなかった。


男は半裸の女性たちの前でだらしなく鼻を伸ばしている。

その様子から、求めているのは愛玩用の奴隷なのだろうと推測できた。

なら私は選ばれないだろう。

愛玩用で獣人族が選ばれるとは思えない。



「……あれ? ネコミミ!?」


この男には買われないだろうと早々に見切ってそっぽを向いていた私のほうに、男がよくわからない言葉を発しながら寄ってくる。

そうして、私の目の前まで来ると突然目を輝かせ始めた。


「うわぁ! 本物のネコミミだ、これが噂に聞いていた獣人族?」


「ええそうです。最近仕入れたんですが……まさか旦那?」


「決めた、この子にするよ!」


「それは……この娘は獣人族なんで、旦那のご希望とは少し離れますよ。しかもまだ調教もしていないからかなり反抗的です。

獣人族は素の戦闘能力が人間よりも高いので、調教なしでは愛玩用としてはちょっとお勧めできませんが」


「調教って何をするんだい?」


「まあ、人間に反抗しないように躾をしたり、牙やツメを抜いて危害を加えにくくしたりと色々ですね」


「そんなの可哀そうじゃないか!」


「ですがねえ、獣人族は素のままだと扱いにくいですよ、戦闘の際の盾にするっていうならまだしも、家事や愛玩用となると元の気性が荒すぎますぜ」


当たり前の事のようにそう説明する奴隷商人を見ると、怒りで眩暈がしてくる。

気性が荒いから扱いにくいなんて何様のつもりだろう。

森で狩りをしていた私達を大勢で囲んで追い立てたこいつらは何なのだ。

それに私は村で一番の器量良しと言われてたんだ、家事だって礼儀作法だって同年代の誰よりも上手いんだぞ。

気性が荒いだと? 当たり前だ!

この状況で人さらい相手に媚びを売るような獣人がいてたまるか!


もう半歩前に踏み出すことが出来たなら、躊躇いなくこの男の喉笛を食いちぎってやるというのに……

私の首に巻かれた強固な首輪がそれをさせてくれない。

それがますます私を苛立たせた。



「よし、この娘に決めた。 ご主人、この娘をもらうよ」



目で射殺さんばかりに奴隷商人を睨みつけていると、そんな場の空気を全く読まない声が聞こえてくる。

声の主は一人しかいない、あの奴隷を買いに来た男だ。


「ええ? いいんですかい?」


「うん、この娘さっきから凄く怯えているようだし、可哀そうだよ。

ネコミ……獣人には元から興味があったし、丁度よかった」


私はこの突然の男の申し出が理解できずに、しばらく思考が停止した。


怯えている?

どこをどう見たらそうなるのだろうか。

この男はバカなのか?


……しかし同時にこうも思う。

本当にこの男が私を買うなら、これはチャンスだ。

このボケっとした男からなら、いくらでも逃げ出す自信はある。

この拘束さえ解かれればこちらのものだ。


「はぁ……確かに見てくれはそれなりに整ってはいるんで、愛玩用奴隷の檻に入れたんですがね。

まあどうしてもというならお譲りしますが、気を付けてくださいよ。

ゴードン様から紹介された方がウチの奴隷でケガしたなんて事になったら笑い話じゃ済みませんからね」


「それは大丈夫、僕のことは彼から聞いてるんだろう?」


「……分かりました、でも念のため奴隷紋だけは入れておきますからね」


「複雑なことは良くわからないから任せるよ」


しかし喜んだのもつかの間。

話が進むにつれて出てきた奴隷紋という単語に体が強張る。


私も聞いたことがある程度だが、奴隷紋とは契約に使う魔法を変形させた強力な呪いの事だ。

主に魔獣など、自分よりも肉体的に強い者などを強制的に従わせる際に使用するらしい。


「奴隷紋の術書は高いんですが、まあ初めての取引って事でサービスしておきますよ」


「ありがとう、これからも贔屓にさせてもらうよ」


「へへっ、良いお付き合いをお願いしますぜ旦那」


奴隷商人が下卑た笑みを浮かべると、私を拘束している革紐がきつくなり、身動きが取れなくなる。

そうして懐から取り出した禍々しい光を放つ呪符を私の腹部に押し当て……


私はこの男の奴隷となった。



――――



「ルシア、ちょっと出かけてくるから留守を頼むよ。何か買ってきてほしいものある?」


「……いいえ特にはございません、行ってらっしゃいませご主人様」


「そうか、じゃあ夕方までには帰るからね」


そう言って私の主人であるタクト様が軽く手を振って屋敷を後にする。

私はその姿が見えなくなるまで玄関でお辞儀をする。



「ふうっ」


タクト様の姿が見えなくなったことを確認して、私は大きく息を吐いた。

そして二、三回体を伸ばして大きく伸びをする。

今日もいい天気だ、空には雲一つない忌々しいくらい綺麗な青空が広がっている。


「……さて、お掃除でもしますか」


誰にともなくそう呟き、振り返った先には貴族が住まうような大きな家がそびえ立っていた。


ここはタクト様のお屋敷。

どうやら私の主人であるタクト様は、超がつくレベルの魔法使いらしい。

もともと流浪の身だったが、この国の大臣であるゴードン侯爵の目に留まって地位と屋敷を与えられ、国の仕事をしているのだそうだ。


そう聞くと物凄い人だと誰もが思ってしまいがちだが、普段一緒に生活している私から言わせてもらうとそれは大きな間違いである。


まずタクト様は、家事の類は一切できない。

男性なので家事が出来なくても問題はないのだが、タクト様は元流浪人のはず。

旅の途中の雑事はどうやっていたのだろうか……何しろ火のおこし方すら知らないのだ。

以前火打石を渡して火おこしを頼んだ際、二時間かかっても火を付けることが出来なかった。

その間ずっと、マッチがあればとかよく分からないことをブツブツと呟き、最後には結局魔法で火を付けたのだ。

魔法使いだから魔法で何とかなるとはいえ、ちょっと常識が無さすぎると思う。


あとは他人に対する態度も、何となく違和感を感じる。

タクト様はよく私と一緒に食事をしたがる。

家長が奴隷と一緒に一緒のものを食べるなどありえない事だ。

だがそれをおかしいと感じていない様子。

まあ私としては、主人が食べるような上等な食事を取れて良い部分もあるのだが、圧倒的に立場が上の人間と一緒に食事をするものだからせっかくの食事を味わって食べられない。

一人、台所で余りものを食べていたほうがよほど気が楽というものだ。


「……はぁ、疲れる」


私は肩を落として、今日の雑事をこなしに館へと戻る。


この館に来てそろそろ一か月。

仕事にはだいぶ慣れた。

タクト様は三日に一度はほぼ一日中家を空けるし、普段も何やら調べ物をしたりであまり顔を合わさないから楽には楽なのだが……

いや、奴隷という身分からしたらこの扱いは恐らく破格なのだろう。

だがそれでも、私は帰りたい。

生まれ育ったあの森に、私の故郷の村に、帰りたいのだ。


ならば逃げ出せばよいだろうと誰しもが考えるだろう。主人は昼の間ずっといないのだから。

しかしそれは出来ない。


私は唇を噛んで、腹部に手を当てる。

服に隠れてはいるが、私のへその少し下には、奴隷紋がしっかりと刻まれている。

これのおかげで、私はこの国から出ることが出来ないのだ。



ここに来た当初、私はさっそく逃げ出そうとした。

何しろタクト様は私を鎖で引くことはせず、自分の意志でついて来いと言ったのだ。

もちろん私はこれ幸いと、人が多くなってきた通りに入った時に全力で逃走を試みた。

しかし次の瞬間、全身の骨が砕けたような激痛が走り、逃走どころでは無くなってしまったのだ。


痛みが引いた頃、振り返るとそこには薄ら笑いを浮かべたタクト様がいて、こちらに手を差し出していた。

「まだ慣れてないから仕方ないけど、逃げたらダメだよ」

などとヘラヘラ笑いながら言っていたが、私はその顔を引き裂いてやりたいと本気で思ったものだ。


その後も何度か逃走を試みては同じように失敗し、私は逃走を一旦諦める事にした。

そして次に思いついたのが暗殺だ。

タクト様は私に対して全くと言っていいほど警戒をしていない。

湯あみをする時も、夜寝る時も、誰も護衛などを立たせたりしないのだ。

最も、今この屋敷に住んでいるのは私とタクト様だけなのだが……


ともかく、警戒心が全くないとなれば暗殺など簡単に行える。

私はある夜、就寝中のタクト様を襲撃しようと刃物を手にタクト様の寝室へと向かった。

しかし、その部屋に入るか入らないかくらいのタイミングで、またしても私の全身に強烈な痛みが走ったのだ。

結局暗殺は失敗し、私は息も絶え絶えになりながら後始末をした後に自分のベッドまで戻ってそのまま気絶した。


奴隷紋は主人に対しての殺意や強い害意にも反応する。

奴隷紋で登録した主人が死ぬと、奴隷紋を付けた奴隷も死亡する。


その話を聞いたのは、暗殺失敗から数日経った夕食の時だった。

一瞬、私の行為が知れたのかと緊張したが、どうもそうではないらしい。

例の奴隷商人から聞いた話を私にも伝えているといった風だ。


主人を暗殺しようとしたなどバレたらさすがに私も生かしてはもらえまい、その点は助かったが……

そういう大切なことはもっと早く教えてほしかった。そうすれば無駄な努力をせずに済んだのに……

消沈する私を見ながら何を勘違いしたのか「僕は死なないから心配しなくていいよ」とタクト様が言っていたが、そうじゃないと叫んでその顔をぶんなぐってやりたかった。




そんなこんなで、いつも通りの仕事をしていると日が傾き始める。

私は暗くなる前に台所に火を入れ、夕食の準備に取り掛かった。


「ただいまー」


煮物を作っていると、玄関から間の抜けた声が聞こえてくる。

タクト様が帰ってきたのだ。

私はパタパタと玄関に走り、タクト様を出迎える。

これもいつもの日課だ。


「おかえりなさいませご主人様」


「やあ、今日は急な魔獣退治を頼まれて、北の山まで行ってきたんだ……あ、これお土産」


通常ではありえない事をさらっと言いつつ、タクト様は懐から一輪の青白く輝く花を取り出した。


「これは……」


「ルナール草っていうんだって、この辺では珍しい花らしいから、部屋に飾っておくといいよ」


「あ……ありがとう、ございます……」


やっとの事でぎこちないお礼の言葉を吐くと、私は震える手でその花を受け取った。

タクト様はその様子を見て思惑通りに事が進んだかのように満面の笑みを浮かべる。

大方どこぞの輩から「女を落とすなら花だ」みたいな事を吹き込まれたのだろう。

残念だがそれをやってうまくいくのは元々好意を持っている相手のみだ、私はタクト様に好意はない、残念でした。


手が震えたのは別の理由がある。

このルナール草……万年雪が降る険しい山の頂上付近に、月の光とマナを蓄えて咲く花だ。

獣人族の里では万病の薬として有名で、小指の先ほどの欠片で一月分の稼ぎが消えるほどの値がする。

それがこんな完全な形で……しかもこの光り方はマナを十分に蓄えた最高級品のように見える。

これを売れば、ウチの家族は十年は遊んで暮らすことが出来るだろう。


タクト様は、戦闘に関しては本当に強い人間なのだ。



それからいつもの通り夕食を取った後、ルナール草を自室の鉢に活けて眺める。

青く光るその草は、確かに綺麗で心が和む。

まさか自分がルナール草を部屋に飾る日が来るとは思ってもみなかった。


「タクト様か……」


ぼそっと呟き、あの頼りなさげな中年の顔を思い浮かべてみる。

こんな高価なものを貰ったばかりだというのにちっともときめかないし、感謝も好意も全く湧いてこない。

……でも、悪人ではないのだと思う。


地位があり、力があり、それでいて私に何を強制する訳でもない。

ただそこそこの仕事とそこそこの自由を与えられ、この町で過ごす日々。

人間に買われた獣人奴隷の末路としては、結構上等な部類なのではないだろうか。

そう思わなくもない。


しかし……時々思う。


なぜあれだけの地位と力があって、まだ独り身なのだろうか。


日々の会話でタクト様の身の上はある程度聞いた。

本来ならどうでもいい事だったが、長期戦になる以上は相手の情報は必要だからだ。


聞いたところによると、タクト様は31歳らしい。

獣人なら余程特別な事情がない限り家族を持っている年齢である。

人間だってそう変わりはないだろう。


「結婚はしないのか」と聞いた事があるが、タクト様は笑いながら「そういう事は得意じゃない」と言っていた。

得意とか得意じゃないの問題ではないと思うのだがと呆れたのを覚えている。

しかしそれも今では好都合。

この家に、私よりも間違いなく立場が上の女が四六時中いるなんて考えただけでゾッとする。


だが縁談の話はいくらでもあるらしい。

タクト様と懇意にしているゴードン侯爵は、自分の縁者をここに入れたいようだし。

うかうかしていると、この家に見知らぬ女が増える日もそう遠くないのかもしれない。

貴族の娘なんかがこの家に入ったら、間違いなくこの生活は終わるだろう。

それを考えると得体のしれない恐怖がふつふつと湧いてくる。

身動きが取れなくなる前に何としなくては……



思うに、タクト様は女性に全くと言っていいほど慣れていない。


私に何もしてこないと言ったが、正確に言うとそういう事をしたい素振りはある。

私が掃除や料理などをしていると、挙動不審気味に近寄ってきて、肩や頭などに手を当てようとするのだ。

しかし私が避けるように少し体をずらしたり、振り返って「何か御用ですか?」と言うと、すぐに手を引っ込めてしまう。

そして何やら良くわからない言い訳をしつつ、また挙動不審気味に去っていくのだ。


私としてはどこを触ろうが気にしない。

不本意とはいえ奴隷と主人という関係だし、触られるくらいならうざったいだけで特に実害はないからだ。

逆に、神のような立場の主人が何をそんなに恐れているのかと思う。

私は仮に主人に死ねと言われても拒否できない立場なのに……


タクト様を見ていると、里にいる弟達を思い出す。

一番下の弟は8歳だが、丁度女性の体に興味を持ち始めた頃合いだ。

他の兄弟と一緒に隙あらば私の入浴をのぞき見しようとする。

好奇心と罪悪感がまぜこぜになって、ビクビクしながら私の裸を覗き見る様子は可愛いものだ。

本人はバレていないつもりなのだろうが……


タクト様の行動はその弟とよく似ている。

ただしこちらは全く可愛くない、うざいだけだ。


「はぁ……」


これからの事を考えると気が重くなる。

この生活がいつまで続くのか分からない以上、私の立場が劇的に悪化するような状況には持って行きたくない。


「やるしかないか……」


逃亡も暗殺もできないとなれば、もう残された手段はそう多くはない。

そして都合がよいことに、何不自由なく欲しいものを手に入れられる立場にあるタクト様は、よりによってこんな愛想のない獣人奴隷にご執心だ。

だけどこの状況も長くは続かない。いくら他に例を見ないヘタレ男であるタクト様でも、いつかきっとこの状況に慣れてしまう。

そうなってからでは遅い。


唇をきゅっと噛んで、目を強く閉じる。

脳裏に浮かぶのは一人の獣人男性だ。


「……ごめんね、アルノン」


誰にともなくそう呟き、私は残された僅かな可能性に賭けることを決意した。



そう、何としてでもタクト様を篭絡し、この楔を解いてもらう以外に私が自由を得る術はないのだ。


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