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そこまでだ

サブタイトル:そこまでだ

作者:ボボブラジル





――いつからか、逃げる努力もしなくなっていた――





 ジョージアラナ州の南部大型農園で働くシーラは、足首の枷すら気にならなくなっている自分が嫌になっていた。


 摘み取ったコットンの塊を運ぶ荷馬車から、大柄な黒人が降りてくると、シーラは体をこわばらせて直立する。


「ボサッとしてるな雌豚。今日の出荷に間に合わせなきゃならねーんだ。急いで運べ」


 シーラは奴隷監督者の黒人の鞭で頬を叩かれ、後ろによろめいた。


「おやめくださいご主人様」


 白人の奴隷仲間であるエレンが、シーラを庇うように前に出た。


「これで最後です」


 ロープでぐるぐる巻きにした麻袋の中は、綿繰り機で種を取り除いたコットンの塊が詰め込んである。


 奴隷監督は舌打ちし、荷台に顎をしゃくった。エレンは頷いて荷積みの作業に入ろうとしたが、辛そうなシーラを見て黒人の大男に訴える。


「シーラの旦那の代わりの分は、俺が働きます。だからシーラを小屋に返してやってください」


 刹那、エレンの体が吹っ飛ぶ。


「俺に指示してるんじゃねえっ」


 奴隷監督がわめき散らす。アルビノどもめ、魔術の生贄にしてやるぞ。


「出荷が終わってもこいつにはまだやってもらうことがある」


 ぎょろりと白目が光り、下卑た笑みでシーラを舐めまわすように眺めた。


「農園主がお呼びだシーラ」


 怯えて肩を抱きしめるシーラ。エレンが地面から起き上がりながら、気遣う視線を投げた。


 シーラの夫であり、エレンの親友であるデイビットは、過酷な労働の末、ついに体を壊してしまった。夫の代わりに力仕事までこなしたあげく、プランターからも目をつけられたシーラが気の毒でならなかった。


 ぎりっと奥歯を噛み締めるエレン。引きずられるように連れて行かれるシーラの華奢な後ろ姿を見て、その白い背中が鞭の跡で真っ赤に染まるところを想像した。


(何でこんなことになった)


 見渡すと、奴隷仲間は皆、白人である。そして農園の持ち主はというと――。






※ ※ ※ ※ ※




 頭に羽飾りをつけた男が、屋敷に戻ってきた。マラ族の酋長であり、この綿花農園の主であるチンコッティ――チンコが誰よりもでかい――である。戦化粧をしているが、別に戦をしてきたわけではない。彼にとっては、完全にファッションの一貫である。


 円柱に囲まれた白い屋敷は、元はデイビットとシーラの住まいであった。しかし、保留地の先住民が各地で反乱を起こし、立場は逆転。海外からやってきて勝手に土地を奪い合っていた農業資本家なる白い人種が、今は奴隷として働かされている。


 元々彼らの動産であった黒人奴隷は先住民によって開放されたが、自身が買い取られた値を稼ぐまで、まだ農園で働かなければならない。年季明けまで自由になれないとは言え、賃金労働者である分、立場は奴隷である白人より上であった。


 奴隷監督は媚びへつらうように、チンコッティの前までシーラを引っ張っていった。ちょうど馬から降りたこのマラ族の酋長は、シーラを見ると目元を和ませる。


「コレ、一番オッパイでっかい奴隷女マスか?」

「さようでございます、チンコッティさま」


 赤茶色の肌の酋長は奴隷監督の手からシーラを奪い取り、屋敷に連れ込む。シーラはかつて知ったる我が家の変わり果てた様子に目を見張った。海外からの高価な輸入家具がすっかり取り払われ、あちこちに三角錐のテント――ティピー――が置かれている。ひょこっと先住民の子供が顔をのぞかせた。チンコッティには妻が八人、子供は六十人いるらしい。


 しかしチンコッティはシーラを引きずったまま螺旋階段を上っていった。夫婦の寝室だったところに入ると、大型の四柱式ベッドに彼女を放り投げる。


「ここ、いい、ふかふか」


 ずっと白人の奴隷だった黒人の使用人より、農園主の方が言葉が拙い。子供のような片言で油断しそうになるが、その目は欲望でぎらついている。


「すぐ脱ぐスル。全裸、おまえ俺の子供作るスル」


 言うが否や、木綿のブラウスを引き裂く。シーラは悲鳴を上げた。白い膨らみが溢れるように現れ、チンコッティはそれを見てますます興奮したのか、奇声を放った。


「ハワワワワワワワ!」


 シーラはどんどん衣服を裂いていく相手の手を押さえ、必死に抵抗を試みる。やがて赤茶の節くれだった手が、スカートの中に入り込み、内腿をまさぐりだす。シーラは奴隷小屋で、今まさに熱病に苦しんでいるはずの夫を想い、泣き叫んだ。


「抵抗するダメこれ!」


 チンコッティは腹を立ててシーラを殴りつけた。うつ伏せになったシーラのむき出しの背中に目が行く。真っ白だ。真っ白な灰になっちゃうくらい真っ白だ。チンコッティは我慢出来なくなった。再び雄叫びをあげ、ベッドサイドに置いてあった鞭を手に取る。女の奴隷をいたぶるのは、これが初めてではない。


 室内に肉を打つ音が響き渡り、女の悲鳴があがった。


「もっと! もっといい声出す白豚っ!」


 チンコッティは再び鞭を振り上げた。



「そこまでだ」


 寝室の扉が開き、ショットガンを持った男が現れる。


「エレン」


 シーラがパイオツを隠しながらも、嬉しそうに振り返る。


「その女から離れろ野蛮人、そいつは俺が寝とってやろうと思ってたのさ」


 シーラが愕然とする。夫のいい友人だと思っていたのに!


 マラ族の酋長が両手を挙げ、ゆっくりシーラから離れる。エレンはニヤニヤしながらシーラに近づいた。


「ほう、毎日想像していた服の中身より、もっといいじゃないか。デイビットにはもったいない」


 シーラはガクガク震えながらも、ベッドから滑り降りて逃げ道を探す。


「さあ、ゆっくりその手を外してごらん? 俺にその素敵なパイを――いや、パイは二つだからパイパイだな。パイパイを見せるんだ」


 優しかったエレンは、もはやけだものと化していた。


 後ずさるシーラにジリジリと近づくエレン。



「そこまでだ」


 ライフルでエレンに狙いをつけながら、奴隷監督が入ってきた。


「馬鹿め、野蛮人やアルビノにできて、黒人に農地経営ができないと思っているのか?」


 先住民が取引きを始めたことにより、綿花の市場価格がぐっと下がった。このチンコッティめ、金の代わりにビーズを貰って満足しやがって。


「俺たちの賃金が干し肉とイナゴってどういうことだ、酋長」

「ホエ?」


 チンコッティは首をかしげている。ぜったい経営破綻するこれ。奴隷監督は戦化粧の施された男の、赤茶色の顔を見ながら毒づいた。


「俺がこの農園をもらう。あとその女もブェードォェ教呪術の材料に使う。切り刻むからよこせ」


 エレンが喚く。


「バカ野郎、このパイパイは俺のだ。切り刻むとかバカじゃないの? それから訳の分からん神を崇めるなっ。神は創世女神一人しかいないっ」


 白人は、先住民や黒人奴隷に自分たちの宗教を押し付けてきた。だったら逆も然りだ。今度は奴隷監督が藁人形を差し出して主張する。


「ばかめ、神はこの方だけだ、さあ敬え」

「ちがうマスっ、神は大地の精霊、ぜったい。偶像崇拝禁止っ」


 酋長も負けてはいられない。なぜならこの大陸は、白人や黒人が来る前からずっと精霊の大地なのである。


「そんな五寸釘打ち込みたくなるような藁人形より女神だ! あと大地が神とか、おまえ神を足で踏みつけて許されるのかっ」


 エレンは勝ち誇ったように、胸の上に両手を置く。そのままワシワシ動かした。創世女神は、立派なパイオツを持っているというのに。……彼は自分が一番神を冒涜していることに気づいていない。



 俺の神がすごい、いや、おれの精霊がすごい、という言い争いの中、シーラはこっそり逃げ出していた。



 屋敷の外に出ると、黒人白人先住民が殴り合いの大喧嘩をしていた。何が引き金になって暴動になったのか。取りあえず頭に血が上りすぎて武器を使うことを忘れているようで、おおごとにはなっていないが、それも時間の問題だろう。


「デイビットを連れて逃げよう」


 足枷を隠して、北の自由国へ逃亡するのだ。


 やっと、分かった。『奴隷』とは、他者に強要されてなるものではない。己の心が隷属を認めてしまってからが『奴隷』なのだ。心だけは、気高くいなければ。逃げることを諦めた瞬間が、試合終了だ。


「デイビット!」


 オッパイを両手で隠しながら奴隷小屋に飛び込む。


「あ……」


 デイビットは頭だけむくりと起き上がる。その上に股がる先住民の女。チンコッティの娘の一人、マンチョティだ。ものすごい美少女である。


「デ、デイビットどういういこと? 熱で伏せっていたはずなのに」

「ちがっ、これは――逆レイプ、そう、強姦されてるんだ!」

「えぇええひどいマス」


 マンチョッティは可愛い頬を膨らませる。


「君トテモ可愛い、嫁より若い子好き、俺とイチャイチャしよー言ってくれてたマス」


 シーラの髪が怒りでふわっと浮き上がる。


「違うんだ、シーラ、俺はマラレアで熱がひどくて」

「嫁に種無し言われて傷ついた言ってたマス。だからパヨーテ一緒にやったマス、パヨーテ、気持ちよくなる幻覚シャボテンます。ちょと熱っぽくなるするけど、病気違うよ??」


 とろんとした目で、マンチョッティはデイビットにしなだれかかる。


「ああ、ま、まあ、子供が出来ないのは俺のせいじゃないのに――おっふぅ、髪の毛がくすぐったいぞマンチョッティ」


 デレデレなるデイビット。シーラは着替えの服を引っつかむと、泣きながら奴隷小屋を出た。


 つまり気持ちよくなる植物でラリって若い娘とイチャイチャしている夫のために、自分は重労働を課せられていたというのか。


 こんな土地、捨ててやる。あんな種無し婿養子の夫捨ててやる。


 そう、北部に行くのだ。北部の自由国、ハゲリカ合掌国へ。




※ ※ ※ ※ ※




 ただひたすら荒野を北上する旅は、元々裕福な資本家の出であるシーラにとって辛く長い道のりとなった。


 奴隷狩りの先住民やオオカミ、コヨーテに追われて、ボロボロになりながら、それでも逃げ切った。馬を盗んでこれたことと、乗馬が趣味であったことが彼女を助けた要因であった。


 そして、ついに国境らしき有刺鉄線と、木の立板を見つけたのだ。


 その反対側には合掌国の旗が立った砦がある。


 馬の足音が近づいてくる。砦から、灰色の軍服を着た騎兵が出てきた。人影を見つけて、馬を駆って近づいて来る。


「止まれっ」


 銃で狙いを定められ、シーラは息を呑んで立ち止まる。首の赤いチョーカーがオシャレな軍人だ。しかもなかなかのイケメン。ここから新たなロマンスが――。


「なにものだ?」  

「南部奴隷国――ハゲリカ連盟国の綿花農園からやってきました、シーラと申します」

「何? 敵国の人間が何をしにきた」

「お願いします、わたくしを匿ってください。北部に亡命したいのです」


 シーラはしなを作って懇願する。騎兵はシーラの巨乳に見とれながら、もじもじと辺りを見渡す。


「う、うむ。では、合掌国首都まで俺がお連れしよう。そ、その代わりその、りっぱなおチチをだなぁ」


 すると、パーンと音がして、イケメン騎兵が馬から落ちる。撃たれたのだ、と気づいたときはシーラも馬から降り、地面に伏せていた。


「ハワワワワワワワ!」


 奴隷狩りの先住民だ! 三人も追ってきた。


 シーラは有刺鉄線の下から手を伸ばして、死んだ騎兵のライフルに手を伸ばす。そして振り返りざま、先住民に向けてぶっぱなした。新大陸の女はこれくらいできなければ、と練習していた甲斐があった。


「ぎやっ」


 先頭の辮髪べんぱつの先住民が、馬上から吹っ飛ぶ。銃を持っていたのは、その男だけだ。アフロヘアの先住民は、銃の使い方が分からないらしい。トマホーク片手に迫ってくる。シーラがまた銃を向けた。その手に鋭い痛みが走り、銃を落としてしまった。


 見ると、ドレッドヘアの先住民が指先で銀の輪を回している。先住民の飛び道具、戦輪チャクラムだ。彼はゆっくり馬から降りた。木綿で出来た衣服は出回っているはずなのに、鹿革のチョッキだけ着て、下半身はペニスケースのみである。しかも必要以上に長い。


 アフロも馬から降りた。彼も同じような格好だ。確か、この特徴はモーホー族。お互い目配せし、ゆっくりシーラに近づいて来る。ドレッドがチャクラムを飛ばす。シーラが身構えたが、それは大きく弧を描いて跳び、アフロのペニスケースにスコッと収まった。


「ナイスキャッチます」


 ドレッドに言われて、ちょっと照れたように赤くなるアフロ。次の瞬間、アフロが股間を大きく回しだす。それは、初めはゆっくり、しかし、じょじょに加速していった。やがて、高速回転でペニスケースが回り始める。


 ぶんっぶんっぶんっぶんぶんぶんぶんぶん――。音がどんどん速くなり、目で追えないほどのスピードで、ペニスケースとその先に収まっていた戦輪が回りだす。


 ついに尖端から、弾丸のような高速で飛んでいった銀の輪。冷たい輝きがシーラの目前に迫る。布を裂く音がして、シーラのブラウスが弾けた。飛んでいった戦輪は、ドレッドのペニスケースにスポッと収まる。今度はドレッドがぶんぶん腰を回しだした。再び飛んでくる戦輪。そしてまたしても衣服を裂かれる。その繰り返しの末、シーラのパイオツはまた外にこぼれ落ちていた。


「オッパイあるからっていばるなマス」

「女より、モーホー族の方が、魅力的マス。雄ッパイ流行ってるマス」


 二人で憎々しげにシーラを罵り、再び戦輪を構えようとしたその時、


「そこまでだ」


 有刺鉄線の向こうの砦から、今度は不思議な格好の小柄な男が出てきた。悠々と歩いてくる。そこまでだ、と言う割に、銃を構えていない。腰にあるサーベルに手をかけてはいたが……。


(変な服)


 シーラはおっぱいを隠しながら、戸惑ったように男を見つめた。シーラより背が小さいが、やけに堂々としている。その頭部に目がいった。モーホー族二人も、つい彼の頭に目がいってしまったらしい。少なくとも、モーホー族の二人には言われたくないだろうが、変な髪型をしている。


「おまえ、恥ずかしくないマスか? 頭にチンコ乗っけて」


 先住民の一人が、おずおずと尋ねた。男は首をかしげる。


「チンコ?」

「チンコ頭に乗っけて、妙な服着て、ある意味尊敬するマスけど……肌黄色い、初めて見た。お前何者マスか?」


 男は突然腰のサーベルを抜き放ち、有刺鉄線を薙いだ。目の前の柵が綺麗に分断される。


「か弱き婦女子を切り裂き、あまつさえ二つの乳房を丸出しにするとは、男子にあるまじき下劣な行為」


 カチャと鍔鳴りをさせ、男は腰を落としてサーベルを構えた。


「出稼ぎに来たちんの国の人間マスか? でも髪型が違うマス」


 すっかり困惑するアフロ。


「あいつらの辮髪べんぱつ素敵、だから彼、真似したマス」


 撃たれて倒れていた辮髪の先住民が、ムクっと起き上がり、三つ編みを撫でながら照れている。生きてたんだぜ、彼。


陳人ちんじんは、そんなチンコ乗っけたような頭はしてないマス」

「これはチンコというものではない。チョンマゲと言うものだ。拙者は珍撰組ちんせんぐみ膝方ひざかたと申す」


 ハッとシーラが息を吸い込んだ。


「た、たしか、珍撰組は、東にある火の元の国の、シャムライとか言う部族ですわね」


 シーラが祈るように胸の前で手を組み、懇願した。シーラよりチビだが、なかなかのイケメンだ。


「お願い、助けておシャムライさん」


 膝方はシーラの、組み合わせた手によって強調されたパイオツから、無理やり視線を剥がした。


「分かり申した。武士に二言は無い。必ずお助け申――」

「ブスっていったかこら?」


 シーラが気色ばむ。


「武士だ」


 膝方はふっと笑い、シーラに自分の後ろに回るように指示した。


「我が名刀、和泉羽元野彌兼母――之母の切れ味を、ご覧にいれよう」





※ ※ ※ ※ ※ ※




 奴隷の立場に甘んじるものが、奴隷なのだ。



 シーラは二度と、誰にも隷属はしまい、そう誓っていた。


 しかし、目の前に広がる光景に、もはや自分に逃げ道が無いことを知った。


 膝方が連れてきた合掌国――奴隷制に反対し、工業化と保護貿易を貫こうとした、南部連盟国の敵――の白人たちは、皆、奴隷に成り下がっていた。石炭のすすに塗れて、今や黒人並に真っ黒になっている彼らとすれ違うたび、ぶつぶつボヤキが聞こえた。


「これが本当のブラック企業じゃね?」

「金もらってないからブラック奴隷じゃね? ファッキンイエローモンキー」


 鉄道敷設用の枕木を運びつつ、頭にマゲをつけた猿たちに聞こえないように吐き捨てている。


 そんな開発地帯や工業地帯を通り抜け、膝方は海岸沿いの議事堂にシーラを連れてきた。


「火の元の男は、寛容だ。所有者の印を付けていれば、奴隷の身分でも入れる。ただし女子おなごは常に男の三歩後ろを歩いてもらおうか」


 さっきまで、か弱き婦女子扱いしてなかったっけ? シーラは腹を立てつつも差し出されたチョーカーを受けとった。ああ、あのイケメン騎兵も付けてたやつ。え? なにこれ? 首輪? 犬用じゃね?


「あの……これ?」

「パイパイは 三つあっても パイパイだ」


 膝方は突然そう叫ぶと、発句集にまとめなければ、と懐から出した手帳に何か書いている。




 白い石造りの議事堂内は、人で溢れていた。膝方なる人物を待っていたようだった。


「お待たせし申した。南部の視察が長引き、失礼いたしたで早漏」


 壇上に立ち、頭を下げる。再び顔を上げたとき、その目がギラっとその場にいるものたちを射すくめた。故郷では鬼の副長と呼ばれていたオトコである。議事堂が静まり返る。


「火の元新政府はハゲリカを拠点に、世界を制服する!」


 膝方は、自分のサーベルを持ち上げ、その場にいる者たちを鼓舞した。


 彼と同じく黄色い猿のような見た目の、頭にチンコ乗っけた者たちが沸き立つ。背後に控えていた灰色の軍服の白人たちも、渋々頷く。その首には『忠犬』と書かれた犬の首輪がハメられている。何でも無理やり外すと爆発する――わけではなく、ハチという名の犬の呪いがふりかかるそうだ。


 そうやって脅されて彼らは奴隷になっている。呪いとか祟りとか、ハゲリカ人には馴染みがなくて「なんか怖い」という理由だそうな。


「まずは、故郷を奪還するのだ。薄幸館戦争の雪辱戦でござる。憎き森永政府から帝を奪還し、ハゲリカのエンペラーにしようぞ同志たちよ!」


 うぉおおおおと盛り上がるその場から、シーラはそそくさと立ち去った。サルがキャッキャしてるようにしか思えない。


 犬の首輪を外して地面に叩きつける。


「……いや、ばっかばかしいわ」






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