01話 自問自答
辺りには何も見えず、ただ静寂の中を漂っていた。
まるで、この世界にたった一人取り残されたよう……いや、違う。
取り残されたのだ。
魂が死を受け入れるまでの時間なのだろうか。
ただ流れに身を任せて、自らの見に起こったことを振り返る。
最後に俺の目が写し撮った一枚は、世界で唯一信じていた戦友の憎たらしい笑顔だった。
裏切られ、命を売られたのは火を見るより明らかで、しかし不思議と憎んではいない。
むしろ、とても穏やかな気持ちで、親友のこれからを心配してしまっている。
あいつは奥さんも子供もいるし、金が必要だったんだろう。
死ぬ前に理由だけは教えて欲しかったけどなぁ……。
まぁ、それを言うとあいつも辛くなって売れなくなるか。
独り身の俺はこの世に未練もないし、いつ死んでも後悔がないよう毎日を楽しんできたから良しとしよう。
最後のデータもくれてやる。それで家族サービスしてなかったら呪ってやる。(笑)
気分が晴れやかなせいか自然と軽口が弾む。
それにしても、これで人の汚い部分を追わずに済むと思うと自然と笑みが溢れてくる。
嫌いだったんだなこの仕事……死んでから気づくほどおかしくなっていたんだろうなぁ。
自分がしたい仕事とできる仕事は違うと言うけれど、これは極端過ぎはしないか。
神よ、流石にちょっと恨むぞ。
スコープを覗いて人を撃つ。
ファインダーを覗いてシャッターを押す。
俺の一生は小さな筒の中にしかなかった。
世界は……血飛沫と欲望に目が眩んだ醜い人の笑顔、人間の皮をかぶった鬼、冷酷無比な極悪人、蛆虫のような人間が蠢いていた。
考えれば考えるほど自分がいた世界の異常さと狭さに気づいてしまう。
もし人間に生まれ変われるならもっと綺麗で広い世界を見て過ごしたいなぁ。
《承りました》
何かおかしな声が聞こえた気がするが、死ぬんだから幻聴ぐらい聞こえるだろう。
《その世界は、あなた自身の努力で叶えるもの》
何を当たり前のことを……努力なしに与えられた幸せなんてまやかしだ。
反吐が出る。
《安心しました。それでは行ってらっしゃいませ。あなたの活躍に期待します。》
「どういうことだ!? 俺は死んだんじゃないのか? おい!待て! お前は……」
またしても俺は最後の言葉を言う暇もなく、目にしみるほどの強烈な光に包まれた。