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パパラッチの書庫  作者: サンタ
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プロローグ

砂浜の上で焚き火が燃え、乾いた木がパチパチと心地よいリズムを刻む。

焚き火の音に呼応するように波の音が響き、風のささやきが聞こえる。


男はじっと火を見つめ、重厚で耳に残る声で静かに話し始めた。


「書かねばならぬーー死の意味を、命の尊さを。」

「伝えねばならぬーー生きる価値を、喜び怒り哀しみ楽しむ、普遍の生活を……。」


これは、俺がここ数ヶ月で頻繁に見る夢のワンシーン。

とある廃ビルの屋上でターゲットを待つ間は、特にやることもなく暇なので思い出してみた。

あの場所はどこなのだろうか……。

焚き火の炎を囲む数人の男と女。その中に明らかに人ではないシルエットが写っていた。


「UMA(未確認生物)か……。夢があるね。こいつをはっきりと撮ったら大金持ちにでもなれそうだ。

それとも、どこかの秘密組織に追われる日々の始まりかな……。」


そんな甘い妄想を考えている内にファインダーに人影が映る。

ファインダーの中には、次期大統領との呼び声が高い若手実力派の青年政治家と、

一斉を風靡した大物女性歌手。


「二人ともお偉い立場で不倫とはよくやるねぇ。やるなら時と場所を選びなさいよっと!」

嬉々とした声とともにシャッターを押す。


撮り終えると颯爽と身を隠してカメラのデータを確認。

鮮明に写った写真に笑みを抑えることができないまま、データの送信処理を終えるとその場を後にする。


暗い階段を音を立てないよう、しかし素早い足取りで駆け下り廃ビルの外に出ると、

待ってましたといわんばかりに一台の車が寄ってきた。


「与一、どうだった?」

「バッチリだ。これで当分は食いっぱぐれずにすみそうだ。」


簡単な質問に答えながら車に乗り込む。


「そいつは朗報だな。さて、それじゃあ次の現場に急ごうか。」

「次?」

「俺にもとうとうツキが回ってきたよう……だ!」


そう言いながら、急ハンドルを切ってUターンすると、相棒のビルは次の仕事の話を始めた。


「さて、次のターゲットだが……。こいつの薬の現場を抑えるぞ。」


ビルから渡された一枚の写真を見る。


「おいおいマジか……。今をときめく大スターの俳優さんじゃないか。こいつが何かしたのか?」

「何かしたんじゃなくて、これから何かするんだよ。」

「何かって?」

「本当にお前は昔からレンズを覗く以外は無能だな。」

「ほっとけ。」


そう言って、俺は車の揺れを体に感じながら仕事終わりの一服を始めた。

緊張から解放された後のこの時間は、何物にも変えがたい幸福感がある。

いい女を抱いても、豪華な食事をしても、この暗闇に浮かぶ煙のゆらめきには敵わない。

達成と高揚……言葉にしてしまえば簡単だが、この瞬間を得るのは簡単ではない。


「その一服する癖は、まだ続いてるんだな。」

「あぁ……。始めた時も隣にはお前がいたな。」


遠くを見つめながらビルとの過去に思いを馳せた。


回想


俺とビルは元々軍人だ、狙撃兵とスポッター。

俺が銃のスコープを覗き、ビルがサポートする。この関係はパパラッチになった今も変わらない。


「……ファンッ! 聞いているのか! ステファン・与一狙撃兵!」

「イエッサー!」

「では、お前の役割を説明してみろ。」

「スコープに映った敵を狙撃することです!」

「当たり前だ馬鹿者! そこで腕立て100回だ!」

「イエッサー!」

「……ビル。後で作成内容を相棒に説明しておけ。」

「イエッサー!」

「解散っ!」


「「イエッサー!」」


この時の戦場は最悪だった。極寒の森でかじかむ手。

降り積もる雪は視界を奪い、横殴りに吹き荒れる風は弾道を曲げる。

時折、木霊する銃声とともに訪れる銃弾に味方は倒れ、身動きも取れない。


「そんな時もスコープを覗いたお前は一切動じなかったな。あの時ほどお前の存在を頼もしく感じたことはなかったよ。そして、それ以上に恐ろしくもあった。」


ビルが笑い飛ばす。


俺が仕事後の一服を初めて吸ったのは、そんな地獄を生き残りベースキャンプに戻った夜だった。

自分が生き残った幸福感と戦場で仕事をやり遂げた達成感。あの日から虜になってしまったのだ。


「さて、着いたぞ。 次の仕事場だ。」


そう言って案内されたのは、さっきの仕事場と似たような廃ビル。


「今回は、ここに何日だ?」

「3日以内だ。」


3日分の携帯食料を手渡しながら答える。


「了解。 これが終わったらゆっくりと休暇を満喫するよ。」

「そうだな。 その時は俺の家族も連れて行っていいか?」

「もちろんだ。」


そう言い残して俺は廃ビルの中で指定されたポイントに潜み。

スコープを覗いた。


「……おかしい。ビルのやつ、ガセネタをつかまされたんじゃないのか。」

俺が違和感を覚えたのは、5日間が過ぎ、6日目に入ろうとしていた夜更けだった。

指定された部屋には動きが一切ない。それどころか周囲の全ての部屋に明かりも人気もない。


「昼まで動きがなければ一度戻るか……。ここ2日間はろくに食べていない。さすがに限界だな。」


その時だった、突如目標の部屋の二つ上の階に明かりが灯った。


「そっちかよ!」


突然の出来事に慌ててフォーカスを合わせる。

空腹による一瞬の集中力の途切れ、普段なら警戒してフォーカスを合わせる前に安全を確認するはずなのに……怠った。

そして、目に飛び込んできたのは信じられない光景だった。


こちらを見て笑うビル。

その横には、今回のターゲットだった俳優の姿もある。

そして、何よりも信じ難いのはこちらに向けられている銃口……。


冷や汗が頬を伝う。そして同時に現実を理解する。


「売られ……」


ドンッ!


最後の言葉も発する間もなく、一発の凶弾が俺の脳天を貫いた。

初めて小説を書きました。

稚拙ですが、お暇な時に読んでいただけると幸いです。

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