1話
仕事から帰り、部屋着に着替えると、冷蔵庫から缶ビールを取り出してテレビのスイッチをつけた。
テレビの中では、サングラスをかけた老人と女性のアナウンサーが高尾山を登っていた。
高尾山といえば俺も一度だけ行ったことがあるが、いつ行ったかは思い出せない。
テレビの前でしばらくくつろいでいたら、携帯電話の着信音が鳴った。高校の同級生の高木からだ。
「もしもし」
「もしもし、光一?俺だけど。もう飯食べちゃった?」
「用意すらしてないけど」
「ならちょうど良かった。急で悪いんだけど、話したいことがあるから今から飲まない?」
「えー、今日は仕事で疲れてるし、外も寒くなったから家を出たくないんだけど」
「そこをなんとか。ほらあれだよ、サタデーナイトフィーバー」
「何がフィーバーだよ。俺なんかフィーバーどころかオーバーヒートしそうだよ」
「じゃあ今日はゆっくり飲んで冷却しようよ。頼む」
「はあ、そこまで言うなら行ってやるか」
「待ってました。じゃあいつもの店にいるから、またあとで」
俺は残っていたビールを飲み干した後、軽くシャワーを浴び、身支度を済ませた。
外に出ると風が思った以上に冷たく、飲む約束をしたことを若干後悔したが、諦めて四十分前に通った道を再び歩き始めた。
しかし、この辺の街灯は最近妙に明るくなってしまったものだ。
夜空で輝く星を一つ見つけることさえ困難になった。
一方で、どんなにうまく隠れても、悪事を働けばすぐに露わになるような気がした。
もちろん、後ろめたいことなど何も思いあたらないが、どこか不安になった。
駅に着き電車に乗っていつも高木と飲む店がある二駅先まで行った。
駅から数分歩き、店にたどり着くと、そこにはすでに高木が待っていた。