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8、勉強するのはいいけれど

「待って! お願いちょっと待って!」

「大丈夫大丈夫、慣れれば平気になりますから」


 俺の困惑の混じった制止の声は無視され、拘束されて動けない俺の身体はさしたる抵抗もできず相手の思うがままだった。

 8歳の未成熟な少女の股間を無理矢理押し広げる、今まで感じたことの無い痛みに俺はたまらず悲鳴を上げた。


「いたいっ、もう無理! 裂けちゃうっ裂けちゃうから!」

「もうちょっとなので頑張ってください」


 俺の必死の哀願はにべもなく却下された。

 こうして叫んでいる間にも全身をバラバラに引き裂かれるような激痛に俺は苛まれ続けた。


「やめて……おねがい……もう……やめて」

「はい、これでおしまいです」


 声に嗚咽が混じったころようやく俺は解放された。


「……ひどい。あんなにやめてって言ったのに」


 俺の涙混じりの非難の声に、


「今日の柔軟はこれくらいにしましょう。柔軟は毎回やるのでそんな目をしても駄目ですよ。柔軟は大切ですから後でご自身でも自主的にやって下さいね」

「……そんな」


 あんな痛い思いを毎回しなければならないなんて俺の心は早くも折れそうだ。


「では身体も解れたことですし、まずは基本のステップから始めましょうか」

「……はい」


 俺はまだ痛む身体を支えながらダンスの授業を続けた。

 なんでこんなことをしているのかといえば、先日のアマンダの言葉である「淑女としての勉強」ということで淑女としての嗜みを毎日勉強させられているのだ。

「俺は淑女になんてなりたくないからやらない!」なんて言えれば楽なんだけどな。

 俺の勉強の時間はどれも午後からで、これは3つ上の姉のミフィスが午前中に受けた授業の家庭教師がそのまま午後に俺に勉強を教えているかららしい。

 ダンスの他には音楽、刺繍がメインの裁縫、貴族として必要な礼法を教わっている。

 あと基礎教育も始まって読み書きや算術、歴史、宗教なんてのも勉強して忙しい。

 ついこの間までの遊ぶか魔術だけやっていたころが懐かしい。

 ああ、あのころよもう一度カムバックしてくれ。




 淑女としての勉強と基礎教育で忙しくなってからはや数ヶ月が経った。

 この生活に慣れてきたせいか女性としての行動に違和感がなくなってきている気がする。

 ただ、最近どうも調子がおかしい、身体じゃなくて精神のほうだが。

 なんというか元気というか覇気みたいなのが無くなってきてる気がする。

 感情の起伏が平坦になったというか、自分が自分じゃないというか、自分という意識が希薄になってる気がする。

 何と言えばいいのだろう。

 淑女としての教育を受けていく中で次第に(アーシェ)である自分を受け入れていって、(土井宗太)である自分を忘れていっているような感覚がある。

 そういえば俺の前世の名前なんて数ヶ月ぶりに意識したな。

 うーむ、これってまずいような気がするな。

 このままだとそのうち(土井宗太)がいなくなってしまいそうだ。

 さてどうしよう。

 うーん、女らしいことばっかしていたからこうなったんだから、男らしいことでもしてみるか?

 とはいっても男らしいことねえ……完全に身体は女だしなぁ。

 いやいやいや俺だって前世では16年間男だったんだし何かあるはずだ。

 16年……思えば短い前世だったなぁ。

 って違う!しんみりしないで何かいいアイデアがないか考えろ!俺!!

 そういえば、あと1月位でレオノーラと脳筋……じゃないシアートが冬季休暇で学園から帰って来るんだよな。

 ん? シアート?

 シアートといったら脳筋、脳筋といったら男らしい……これだ。

 シアートがやっていたことをやってみるか。

 さて、問題は誰に訊けば怪しまれないかだな。

 アマンダ? 却下、ミフィス? 前回のレオノーラで微妙だったからなぁ、あとは……ディノスか。

 うーん、ディノスは訊くにはちょっと幼すぎる気もするがまあ怪しまれる心配はないからとりあえずいっとくか。

 俺はディノスを探しに行くことにした。



 通りすがりの使用人にディノスの居場所を聞くと庭にいるそうだ。

 なんだかディノスと個人的に会うのは庭ばかりな気がするな。


「こんにちわ。ディノス」

「あ、ちいねえさまだあそぼう」

「ええ。いいわよ」


 最近忙しくて構ってやれなかったし、まずはディノスの遊びに付き合って機嫌をとることにしよう。

 ひとしきり一緒に遊んだ後、俺はディノスに当初の目的を実行することにした。


「ねえディノス、ちょっと訊きたいことがあるんだけどいいかしら?」

「なあにちいねえさま?」

「シアートお兄様についてちょっとね」

「むーどうしてシアート兄様のことが気になるの」


 何故だか不満げに頬を膨らませている。

 今の会話で何が悪かったんだろうか?

 意味が分からないのでとりあえずスルーして話を続けることにした。


「えっと……ちょっと身体を鍛えようかと思って、シアートお兄様はどんなことをなさっていたのか知りたくて」

「なあんだそういうことですか」


 俺の返事に何故か安心したようなディノス、よく分からないが機嫌が直ったからよしとするか。


「それで話の続きなんだけど、シアートお兄様はどんな鍛錬をやっていたの?」

「えーと、まず剣の稽古だったかな。あとは馬に乗ったり走ったり組み手をやっていました。僕もやりたいってお母様にお願いしたんですけどもうちょっと大きくなったらねって断られちゃったんですよね」

(ふーん、剣術に馬術に体術か。走りこみはまあ体力造りだな。ディノスもやりたがっている……か、これらを習うには母親を説得する必要がありそうだしこれは使えるかもだな。)


 俺はそんな思惑はおくびにもださずに優しげにディノスに話しかける。


「ねえディノス、おねえちゃんも一緒にいってお母様に、ディノスが鍛錬を始められるようにお願いしに行きましょうか?」

「ほんとにちいねさま?」

「ええ。ちょうどわたしも習ってみたかったし、わたしと一緒ならもしかしたらお母様も聞いてくれるかもしれないしね」


 という建前でお願いすれば俺も習えるかもしれないからな。

 末っ子特権を利用しつつ弟の為に付き合いで習うことを前面に出せば怪しまれずに説得できるかもしれない。

 ついでに鍛錬の時間を午後にして勉強の時間を減らしてもらおう。

 一石二鳥だな、ふふふ俺の策士としての腕前を見せてやるぜ。



 ディノスという強力な助っ人を伴って俺はアマンダの説得を試みてみる。


「あら、二人で私のところに何かしら?」

「お母様、今日はディノスのお願いを聞いてもらいたいの。さ、ディノス」

「お母様、僕のお願いを聞いてください」

「何かしら?」

「僕もシアート兄様のようになりたいので僕に鍛錬の先生をつけてください」

「あら、そのことでしたらあなたにはまだ早いからもう少し大きくなったらと言ったでしょう」

「お母様、僕はあのときから少し大きくなったから大丈夫です」

「ホホホ、面白い冗談ですこと。でも駄目ですよ、鍛錬はあなたが思っているよりもずっと厳しいものですからすぐ根をあげてしまって続きませんよ」

「……でも、お母様」


 ディノスの縋るような眼差しもアマンダには効果が薄かった。

 まあ予想はしていたが旗色は悪いようなのでここで俺が助太刀に入る。


「まあまあお母様、ディノスもやる気があるみたいですし一度やらせてみてはどうです?」

「アーシェ、あなたまで」

「ちいねえさま」

「確かにディノス一人では鍛錬を続けるのは大変だと思いますから、ディノスが頑張れるようにわたしも一緒にやりますから。ディノスもわたしと一緒なら辛くても頑張れるわよね?」

「はい!」

「そうはいってもねえ」

(うーん、もう一押しでいけそうだけど、さて何で説得するかな。ここは男の子を強調してみるか。)

「ディノスも男の子ですし、姉のわたしが見ていれば頑張れると思います」

「はい!ちいねえさまの前でかっこわるいところは見せられません!」

「うーん。ディノスがそこまでいうなら仕方ありませんね」

「「やった」」


 渋々ながらもアマンダから許可がおりた。

 まずは一安心、そして俺のもう一つの目的である勉強時間の削減はここからだ。

 ここでさりげなく鍛錬の時間を午後にすることであっちの勉強の時間と被らせて減らしてもらおう。

 俺は感謝の笑顔を見せながら鍛錬の時間を指定しようとして、


「お母様、お願いを聞いてくれてありがとうございます。じゃあ鍛錬の時間はご……」

「アーシェの時間が空いている午前にしましょうね」

「え?」

「あらどうかしたの? 淑女としての勉強で忙しいのに、弟の鍛錬にも付き合ってあげるなんて優しいお姉さんで良かったわねディノス」

「はい! ちいねえさまと一緒にがんばります」

「……はい」

(ちくしょうこれじゃあ策士策に溺れるじゃねえか。)


 俺の(土井宗太)としてのアイデンティティーは一先ず守られたのかもしれないが、代わりに俺の大切な自由時間が守れなかった。

 俺はこの後淑女としての勉強で(アーシェ)を磨きながら、鍛錬をすることで(土井宗太)を保つという忙しい二重生活が始まるのだった。

リアルプリンセスメーカー なお 育成対象は自分自信 _(:3」∠)_

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