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7、測ってみたのはいいけれど

 怒涛のごとく状況が変化していった1日からあれから1週間経った。

 今日は2回目の魔術の授業がある日である。

 あれから俺はいろんなことに打ちひしがれながらも魔術の訓練はやっていたのだ。

 さて、どんな結果が出るのか今からとても楽しみだ。



「ではお嬢様、まずはおさらいも兼ねて前回の宿題の確認です」

「わかったわ」


 俺は両手を差し出して、先生の手と重ねた。

 循環するマナは淀むどころかかなりの速さで俺と先生の間を廻り続けた。

 この成果は予想外だったらしく先生が顔色を変えたのを見て俺はちょっと得意気になって、


「どお? この一週間結構頑張ったのよ」

「これは……驚きました。たった一週間でこれほどとは、お嬢様は魔術の才能があるのかもしれませんね」

「えっほんとに? やった」


 どうやら俺の魔術師としての未来は明るいようだ、まあ折角異世界に転生したのに暗かったら悲しいけどな。

 俺は一先ず将来の先行きに明るい材料ができてとりあえずほっとする。


「では今日の授業はマナの放出から教えましょう。マナの放出操作は魔術具や魔術陣にマナを注いだり、魔術を放つ際に必要な技術です。こちらを手に持ってください」

「はい」


 先生から渡されたのを両手で受け取ると、それは握りこぶしより一回り大きい透明な珠だった。


「これは一種の魔術具です。これを持った状態でマナを体内で循環させると自動で珠がマナを放出するのでその感覚を理解して下さい。マナの放出は循環ができるならばさほど難しくないのですぐできるはずです」


 マナを循環させながら珠を持っている手に意識を集中させると手から何かが流れ出て行ってるのを感じられた。


(なんていうか気弾を放っているみたいなイメージだな、か〇は〇波とかできたりしないのかな。)


 などと考えて調子に乗ってマナを放出しまくっていたらちょっと気分が悪くなってきた。


「あ、マナを使いすぎるとマナ不足になって気分が悪くなったり、頭痛がしたり、最悪意識を失うので注意して下さいね」

(先生、それ……もう遅いです。)


 さいわい俺の症状はかなり軽度のものだったらしく、少し休むだけで回復するらしいのでマナの回復がてら座学での授業を続けた。

 内容は初心者が陥りやすいマナ不足の状況やその症状、対処法についてだった。


「さて、お嬢様のマナも回復したようですし次はお嬢様の魔術適正について調べてみましょうか」

「はい!」

(お、ついに来たか、これでどんな魔術師になるか方向性が定まるんだから頼むぜお約束!チートだって言われても俺は全然構わないんだぜ!)


 俺が心の中で喝采を送っていると、先生はなにやら溝や宝石が付いた八卦炉のようなものを卓上に置いた。

 それは八角形ではなく六角形で、中心に透明な珠がはめ込まれており、外周の六角形の頂点にはそれぞれ色の違う珠がはめ込まれていた。

 また中心の珠から葉脈のように溝が彫られており、まるで雪の結晶を俺に連想させた。


「せんせい、これは?」

「これは六花盤といいまして、これにマナを注ぎ込むことによってマナを注ぎ込んだ者の容量や適正がわかるのですよ」

「へー。この真ん中の珠にマナを注げばいいんですね?」


 俺が中心の透明な珠にマナを注ぎ込むと珠が明るく光りはじめた。

 やがてその光は溝を伝って各頂点の色の違う珠へと流れていき、珠へ到達すると今度は横の溝へと伝わっていった。

 全ての珠と溝が光で繋がると一瞬強く輝き、そこで先生にマナを止めるように言われた。


「はい、もうマナを注ぐのを止めても大丈夫ですよ。結果がでましたね。うーんこれは……」

「せんせいどうしました?」


 結果を言いよどんでいる雰囲気に俺は不安になって六花盤を見てみると、黄色い珠だけが大きく明るく輝いて他の珠は幽かに光っていた。

 とりあえず珠の反応はあるんだから何かしかの適正はあるようだが何が問題なのだろう。

 俺は不安げに先生を見上げると、


「ああすみません。あまり見ない結果だったものですからちょっと考え込んでしまって」

「そうなんですか?」

「まず六花盤の見方から説明しますね」


 そう言うと先生は六花盤の説明を始めた。

 まず中央の珠は六花盤にマナを行き渡らせる為の物なので適正云々には関係しないそうだ。

 適正に関係するのは各頂点の色の違う珠でこれはそれぞれ緑が木、赤が火、黄が土、黒が金、青が水、白が風を表しているそうだ。

 六花盤に彫られている溝はマナを各珠に伝わらせるのと同時にその容量も示していて光っている溝の面積が広ければ広いほどいいらしい。


「ではこの場合は、わたしは土の適正があるということなのでしょうか?」

「簡単に言えばそうなんですが、ことはそう単純ではないのですよ」

「というと?」

「マナの属性は魔術の適正だけではなく、生物なら必ず命の属性である木属性を、水棲ならば水の属性をというように私達を構成する根源的な存在なんですよ。例えば魚ならば、少なくとも木と水の属性というように複数の属性を持っていることは当たり前なんです。お嬢様は土属性だけが極めて強く持っており他の属性がかなり低いという随分と珍しい属性をお持ちのようです」

「えーとつまり?」

「土属性がこれだけ強いということは土の魔術の適正はかなり高いのですが、他の属性の魔術の習得は難しいでしょう」

「そんな……」

「ま、まあ適正がなくても可能性はありますし、これだけ土の適正があるならかなり高度な魔術も努力次第で使えるようになりますよ。魔術で大事なのは適正を知り長所を伸ばすことですから、では今日は最後に初歩的な土の魔術を教えましょう」

「はい」


 その日の授業は土操作で泥団子を作る魔術を習って終了した。




 あの日から数週間が経った。

 ちょっと不本意な結果でもあったが、自分の魔術の適正が分かり、初歩的ながらも魔術が行使できるようになると俺は楽しくなってどんどん魔術にのめり込んでいった。

 それはもういつもは可愛らしいはずのディノスが放置されて怒ってやきもちを焼くくらいに。

 そして俺に新たな苦難が降りかかったのはそんな時だった。


 それはとある日の朝食の後の母からの一言からだった。


「そういえばアーシェは最近では随分熱心に魔術の授業を受けているそうね」

「はい。毎回できることが増えて楽しいです」

「そう。あなたはじっとしているのが苦手みたいだったから、きちんと授業が受けられるのか心配だったわ」

「ご心配をおかけしました」

「これなら魔術の授業の他にも淑女としての勉強を始めても大丈夫ね」

『え゛?』

「大丈夫、まだ学園に行くまでにはたっぷり時間はあるからその間にヴィクトワール家の娘として恥ずかしくない淑女になりなさいね」

「えっあの……お母様……」

「何かしら?」

「……いえ、なんでもありません」



 淑女としての勉強って……嫌な予感しかしないんですけど。

 「結婚したくないのでそんな勉強要りません!」ってわけにはいかないんだろうなぁ。

 ハァ逃げたい。

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