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4、異世界なのはいいけれど

 予想外に深刻な事態に俺は頭を抱えたくなった。

 こんな状況でも取り乱さない俺を誰か褒めてほしい。

 いや事情がばれたら駄目なんだけどな。

 ラノベとかでよく読む状況にまさか自分がなるなんて思っても見なかった。

 ……でも女になるなんてもっと思わなかったけどな。

 魔術の授業は午後からなので折角異世界に来たのだから異世界モノのお約束がないか調べてみることにしよう。


 さすがに人目につくところでは無理なので人気の無い敷地の外れで行うことにした。

 辺りを見回して人がいないことを確認して、


「ここなら大丈夫かな? さてと……まずはやっぱり『ステータスオープン』」


 アーシェはステータスオープンを唱えた……しかしなにもおこらなかった。


 むう……駄目か。

 キーワードが違うのだろうかといってもこっちの言葉では知らないし。

 もしかしたら頭の中に表示されるのかもしれないな。

 よし、今度は念じてみるか。


 アーシェは一心に念じてみた……しかしなにもおこらなかった。


 キーワードも駄目、念じるのも駄目、じゃあ自分のことをじっと見つめてみるか。


 アーシェは自分の両手を見つめてみた……汚れや傷の無い綺麗な手だった。


 くっこれも駄目か。

 今度は方向性を変えてみよう。

「鑑定」ならあるかもしれない。


「スキル発動「鑑定」!」


 アーシェは辺りをじっと見つめた……しかしなにもおこらなかった。


 くっこれも駄目か、駄目なのか。

 何か、何か他にやり方はないのか。

 俺は思いつく限りの方法でスキルの発動方法を探した。

 その結果、そこには午前中いっぱいを使って厨ニ病のような行為をずっと繰り返していただけだという事実に気付き、羞恥のあまり蹲り悶えている美少女の姿だけがあった……まあ俺なんだけど。

 一旦スキルに関しては諦めることにしよう。

 でも魔術なんてものがあるんだから、きっと何か俺の知らない方法があるはずだ、あるに違いない、あって下さい。

 それにしてもなんで肝心のお約束がないんだよ。

 転生したら何かしらのチート能力を神とか管理者とかから貰えるんじゃないのかよ。

 あ、俺そもそもそんな奴に遭ってなかったな。

 もしかしたら前世の記憶のように忘れてるだけかもしれない。

 よし、頑張って思い出せ俺。


 少し落ち込みながら屋敷に戻るとアマンダに、


「おかえりなさい。あら、随分と元気がないわね。そんなにお勉強をするのが嫌なの? 駄目よ、お勉強は学園に通うのに必要なことなんですからね」

(そうだった。まだ魔術があるんだった。よし気を取り直して頑張ろう。とりあえずここは殊勝な返事をしておくか。)

「はい。頑張ります」



 午後になりいよいよ魔術の授業が始まる。


「今日こそはやっと授業を始められるのですね。今度こそ逃げないでくださいね」

「……はい」

(毎度「この子が代わりに受けるから大丈夫」といってぬいぐるみをおしつけて逃げ出してすみません。)

「今までは抜け出して授業を受けていなかったので今日は初めから始めますね」

「はーい」


 先生によるとこの世界には木、火、土、金、水、風の6つの属性のマナが存在し、お互いに相性が良かったり反発しあったりする相関関係にあるそうだ。

 魔術とは、構成術式にマナを流し込むことによって物理現象を発生させることをいうらしい。

 魔術にはマナの適正があり、適正があればその属性の魔術は扱いやすく、また無い場合はそもそも使えない場合もある。

 どの魔術に適正があるかはその種族、個人の才能によるそうだ。

 マナは誰もが体の中に持っており、生活魔術と呼ばれる簡単な魔術なら発動できる者もそれなりにはいるそうだ。

 また世の中にはマナを供給することで適正がなくとも魔術が発動する魔術具という便利な物もあるようだ。

 しかし魔術師を名乗れるほどのマナと適正を持っているのは一握りだそうだ。


「せんせー質問です。どうして学園に通うのに、一握りの人しか扱えない魔術をみんなが習う必要があるのでしょうか?」

「いい質問ですね。いくつか理由があります。まず魔術の才能があるかは魔術を教えてみなければわかりません。ただ学園に通う貴族の子女は魔術の素養があることが多いです。また魔術を扱えなくとも魔術に関わることは必ずあるのでその知識を得るのは重要です。最後に魔術師ほどの才能が無くてもある程度の魔術を扱えるというのは今後の人生において名実共に役立つからです」

「いろいろあるんですね。」

(ん? “学園に通う貴族の子女”ってことはこの家族は貴族だったのか。なるほど道理で屋敷とかが立派なわけだ。)


「魔術の素養を調べるにはマナの扱いを知らなければならないので、今日はまずマナの扱いを教えましょう。体内を流れるマナを感じるために私があなたのマナを活性化させて循環させます。両手を出してください」


 言われるままに手を伸ばすと、教師がそっと手を重ねてくる。


「今からあなたの左手にマナを送り込み、右手からマナが流れ出るように流れを作ります。目を閉じて意識を集中してください」


 目を閉じると、時折静電気のようなものが体を走りながら暖かいものが流れているのを感じる。

 これがマナだろうか?


「感じますか? しばらくこの状態を続けますのでこの感覚を覚えてください。マナの扱いの初歩は、この感覚を意識せずに掴めるようになるまでです」

(目を閉じ無言で手を取り合う少女と教師……傍から見たらおかしな光景だな。おっといけない集中集中。)


 それから5分程時間が経って、


「今日はここまでにしましょう。今教えた感覚を自分一人で掴めるようになるまでが来週までの宿題です。あ、それとこれは慣れるまで体に負担がかかるのでやりすぎには注意が必要ですよ」


 魔術の授業が終わったとき、立っていられないほどではないがどっと疲れが出るのを感じた。

 しかしそれはとても充実感のある疲労だった。


 アーシェは魔術の道を一歩踏み出した。


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