17、お風呂に入るのはいいけれど
レオノーラが部屋を出て行ってから、俺はどっと精神的に疲れを感じた。
「はぁ、なんだか疲れたな」
「あれだけ作ったんですから、お疲れ様アーシェ」
「いや、肉体的じゃなくて精神的な疲れなんだけどね」
「?」
「まあいいや説明するのも億劫だし気にしないで」
「そうですか」
時刻は昼過ぎというには遅く、夕方というには早い、そんな時間だった。
夕食の時間にはまだ早いので、調度いいので俺は一人で寮の浴場に行くことにした。
「ユフィ、わたしはちょっとお風呂に行って来るね」
「こんな時間にですか? そういえばアーシェはいつも随分早い時間にお風呂に入りますね」
(そりゃ気まずいからね、俺が! だってまだ他人の裸に慣れてないんだもん)
「うん。他の人が入ってると、ちょっと気恥ずかしいから人がいない時間に入ってるんだ」
「? よくわかりませんが、アーシェは人見知りする方なんですか?」
「まあそんなところかな」
(いいえ、女性の裸に慣れてないからです)
「じゃあ私なら一緒にお風呂に入ってもいいですよね」
「うぇっ!?」
「私ならアーシェとお友達ですし、同室ですから問題ないですよね」
「いや、まあ、そうだけどさぁ」
「私と一緒はお嫌ですか?」
そんな悲しそうな顔はしないで欲しい。
そんな顔をされたら駄目だなんて言えないじゃないか。
仕方ないここは俺が腹をくくるしかないか。
大丈夫、大丈夫、そもそも俺だって今は女なんだし問題はない……ないはずだ。
「はぁ、分かったよユフィ」
「よかった。では早速二人で行きましょう」
俺はユフィとなし崩しに浴場へ行くことになった。
「そういえばアーシェは初めて会った日から毎日お風呂に入ってますね。そんなにお風呂が好きなんですか?」
「まあね。折角毎日入れるのなら入りたいじゃない」
この世界では風呂は贅沢らしく、実家でも3日に1回程度で入らない日は清拭で済ませていた。
風呂好きの日本人としての記憶を持つ俺にとっては、正直不満で仕方なかったが毎日入りたいとも言えず我慢していた。
しかしこの学園の寮では、さすが貴族を相手にしているだけあって毎日昼過ぎから夜まで浴場でお湯が沸かしてあるのだ。
これを利用しない手はないので、俺は毎日浴場を利用していた……出来るだけ人がいない時間に。
脱衣所に入って服を脱いでいると、
「はぁ……アーシェは胸が大きくて羨ましいです」
「そうかしら? 大きいと運動する時邪魔になるのよね」
「それは贅沢な悩みですね……私なんて」
そう言ってユフィは自分の胸元に視線を落として溜め息を吐く。
釣られて俺も視線を向けると、雪原を思わせる白い滑らかな肌の先に、同世代と比べるとやや控えめな盛り上がりが映りそしてその頂に見える蕾が……と慌てて視線を逸らす。
「? 何を慌てているんですアーシェ?」
「いや、なんでもない」
疑問に思っているユフィの気を逸らす為に、俺はユフィに浴場へ入るよう促した。
「それより、もう服を脱いだんだから入りましょうよ」
「そうですね」
浴場に入ると予想通りこの時間は誰もいなかった。
「誰もいませんね」
「そうだね」
「二人きりだとまるで貸切みたいですね」
「そうかな」
浴場には二人しかいないのに何故か寄り添って離れようとしないユフィ、このままだと先日の買い物の時のように腕を組みかねない雰囲気に焦りながら、
「じゃ、じゃあ私はそっちで身体を洗ってから湯船に入るから」
「あっ」
そそくさとユフィから逃げ出す俺、だってしょうがないじゃんそんな免疫ないんだから!
俺は毎日利用しているので慣れたもので、手早く身体を洗うと湯船の中に身体を沈めた。
嗚呼、生き返るなぁ今日も色々あったけどこれがあるから頑張れる……頑張れるかな……頑張ろう。
などと考えていると、
「となり失礼しますね」
ユフィも身体を洗い終えたのか、俺の隣に身を沈めてきた。
「ふう、それにしてもここの湯船は広いですね」
「まあ大人数が暮らしている寮の設備だからね」
「アーシェは毎日ここを利用しているんですか?」
「まあまだ毎日というほどは利用してないけど、毎日利用するつもりだよ。ユフィはここを使ったことあるんだっけ?」
「ええ、これで二度目ですね」
「他の生徒はそんなものなのかな」
「アーシェみたいに毎日利用する人は珍しいですね」
「そうらしいね」
それから俺とユフィは、広い浴場を二人だけで独占ということもあって、湯船に浸かりながら色々と話し込んだ。
「それにしても、折角こんないい浴場があるんだから、もっとみんな利用すればいいのに」
「私みたいにあまり使い慣れていない人の方が多いんじゃないですかぁ。私もちょっと頭がぼうっとしてきましたしぃ」
そう言われてユフィを見てみると、脱衣所では雪原のように白い肌だったのが、今はほんのりと桜色になっていた。
意識が朦朧としているせか妙に艶かしい表情に、湯気によってしっとりと濡れた艶やかな唇に目を奪われ……ている場合じゃねえ!
「ごめんユフィ長湯しすぎた!」
俺は慌ててユフィを抱き抱え、俗に言うお姫様抱っこで脱衣所へと連れて行った。
脱衣所に備え付けられた長椅子の上にユフィを寝かせ、団扇のようなものでユフィをあおいでいると、
「……ん、あれ?」
「気が付いた? ああ良かった。ごめんねユフィ、のぼせるまで長湯につき合わせちゃって」
「いえ、大丈夫です」
「誰かと一緒にお風呂に入るなんて久しぶりだったから、つい長話になっちゃってごめんね」
「いえ、こちらこそ」
「もうちょっとしたら動いてもいいから、今はまだ寝ていてね」
「わかりました」
「またこんな事にならないように、今度から一人で入るようにするよ」
「そんなことないです。私の方こそアーシェに心配をかけてしまってすみません。でも、一人で入るなんて言わないで下さい」
「でも……」
「私は大丈夫です。私ものぼせないように気をつけますから……駄目ですか?」
「……分かった。今度一緒に入る時はわたしも気をつけるよ」
「はい。それじゃあ明日も一緒に入りましょうね」
「……え?」
「だってアーシェは毎日浴場を利用するつもりなのでしょう?」
「そうだけど、ユフィは毎日は利用していなかったんじゃ……」
「いけませんか?」
「……いや」
「では明日も一緒に入りましょうねアーシェ」
「……はい」
なんだか良く分からないが、明日もユフィと一緒にお風呂に入ることになったようだ。
……なんだか毎日一緒に入ることになりそうなのは気のせいだろうか?
その日の夜は、ユフィののぼせた時の表情が脳裏にちらついてなかなか寝付けなかった。
俺はもう女になっているのに、こんなにドキドキするのは何故だろうか?
いつになったら慣れるのだろうかと悶々としながら寝返りを打つのだった。
……あれ?
これ慣れちゃ駄目なやつなんじゃないのかな?
まあいいや早く眠れ俺。
アーシェの会話口調を
心の中の俺口調
通常の会話の女の子口調
ユフィと寮の部屋の中だけの男の子っぽい口調
の3つに分けて書くことにしたのをちょっと後悔中w
たまに混乱する作者
まあこれはこれでそのうちアーシェの内面に合わせて統合したりする……かも?