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16、食べてみたのはいいけれど

 次のお茶会で出すお菓子の試食を始めるとレオノーラが、


「ねえアーシェ、食べるのはいいけど3つもあるからどれから食べればいいのかしらぁ?」

「そうですね。ではまずはこちらのクッキーからいただきましょうか」

「クッキーからなのぉ? てっきりこっちの見たこと無いお菓子からだと思ったけど」

「慣れてるものからの方がいいかと思いまして。それにその2つの後だとどうしても慣れてる分評価が厳しいものになるでしょうし」

「それもそうだねぇ。じゃあいただこうかしら」


 俺達は皿に盛られたクッキーを一枚ずつ手に取り一口齧った。

 山羊乳を入れているせいか、いつも口にしているクッキーよりさっくりとしていた。

 まあいつも食べてるのはクッキーというよりビスケットに近かったからな。

 焼きたてなのでバターの風味が強くそれが食欲をそそり1枚、もう1枚と手をのばさせる。

 前世で食べた市販品には勿論劣るが、これはこれで素朴な味わいがした。

 ユフィとレオノーラの評価はどんな感じだろうと様子を窺うと、


「いつも食べているクッキーよりサクサクしていますね」

「そうだねぇ。たしかにおいしいけど、見た目はいつも食べているクッキーとそう変わらないから珍しさには欠けるかもねぇ。あとちょっと焼き色がバラバラなのが気になるかなぁ」

「そこは慣れないオーブンで作りましたしお店ではないので仕方ないですね」

「まあクッキーはクレープとプリンが駄目だった時の為だし、いざとなったらお菓子屋さんに頼んで作ってもらえばいいかな?」

「それは止めたほうがいいねぇ」

「? どうしてです? レシピを渡して作ってもらった方が楽じゃないですか?」

「はぁ、いいかいアーシェ、誰でも金で買える物と自分しか作れない物では雲泥の差があるんだよぉ。有効に使えそうな情報をわざわざ無条件で公開する貴族がどこにいるのよ」

「……そういうものですか?」

(お菓子のレシピなんて独占したところで、自分で作って食べる位しかないとおもうけどな)

「……はぁ、アーヴィンさん、アーシェはこういう子なのでどうかよろしくお願いしますねぇ」

「はい勿論です」


 レオノーラの頼みに嬉しそうにうなずくユフィ、俺には会話の意味がよく分からなかった。

 よく分からなかったことは置いておいて、そろそろ次のお菓子の評価に入ろうと思う、


「そろそろクッキーの評価は一旦切り上げて、今度はこちらのクレープを食べましょうか」


 そう言うと俺は自分の分のクレープの皿を取るとナイフとフォークを手に持って、


「これはナイフとフォークで切り分けて食べます。中にとても軟らかい物が入ってるのであまり強く押さないで下さい」


 と説明してから自分の分を一口サイズに切って口に運んだ。

 舌の上で溶ける生クリームの甘みと苺の酸味がなかなかおいしい。

 山羊乳の臭み消しでいれたマーマレードの柑橘系のさわやかさもアクセントになっている。

 今後も山羊乳生クリームを使う場合は柑橘系を添えることにしよう。

 問題は、生クリームを作るのに大変な労力が必要なことだな。

 ハンドミキサーの代わりになるような改善案が見つからない限りもうやりたくない。

 そんなことを考えながら、二人の反応を窺うと、


「これはなかなかおいしいねぇ。こういう軟らかいお菓子っていうのは食べたことが無いねぇ」

「苺と一緒に食べるとさっき味見したときよりも一層おいしく感じられますね。これは他の果物を入れても合うのでしょうかアーシェ?」

「そうね。季節の果物を入れると色々な味が楽しめるわよ。ただ……作るのがね」

「ああ、確かにそうですね。生クリームを作るのに毎回あんな作業をするのは大変ですものね」

「何やら複雑そうな顔をしているけどどうしたのぉ?」

「このクレープの中にある生クリーム……白い軟らかい物なんですが、作るのがちょっと大変でして」

「そうなんだぁ」


 3人でクレープの評価をしながら食べ終わると、ユフィが淹れてくれた紅茶で口直しをしてから、


「では最後のプリンを食べましょうか。プリンはコレをかけるのでちょっと待ってくださいね」


 そういうと俺はキッチンからカラメルを持ってきた。

 カラメルの様子を見てみたが十分冷めてるようなので問題ない。

 俺はカラメルを、苦手な俺の分には二人より少なめにして、プリンの上にかけた。


「アーシェこの茶色いのは何かなぁ?」

「これはカラメルといって砂糖をわざと焦がしたものです」

「なんでわざわざ焦がしたものをかけるのかなぁ?」

「その方が風味が出るそうです。あとただ甘いだけよりほのかな苦味を追加することでアクセントになるそうです」

「へぇぇよくしっているねぇ」

「ええ、まあ」


 何故だろうか、さっきから度々レオノーラの言動が何か含みがあるのは気のせいだろうか?

 まあよく分からないので放置してプリンの評価に入ろう。


「よくわかりませんが、プリンの試食を始めませんか?」

「まあいいけどねぇ」

「ではいただきますね」


 俺のプリンのカップを手に取りスプーンですくって一口食べてみる。

 ゆっくりととろ火で時間をかけた甲斐もあって、とても滑らかでカスタードクリームを食べてるようだった。

 懸念していた山羊乳の臭さもカラメルの苦味で大分抑えられている。

 これなら今度から俺の分もちゃんとカラメルを入れることにしよう。

 惜しむらくはバニラエッセンスが入ってないので香りが足りないことだな。

 これはまあしょうがないので代わりになるものを今後も探してこよう。

 さてさてユフィとレオノーラの様子はどうだろうか、


「これもさっきのクレープとかいうのと同じで舌の上で蕩けるねぇ」

「クレープよりも甘さが控えめで私はこちらの方が好みですね」


 二人とも好評のようだが、あまりカラメルの苦味に言及してないな。

 もしかしてこれは……俺が子供っぽいってことか?

 いや……そんなことはないよな。


「ね、ねえ二人ともカラメルの苦味についてはどうかしら?」

「ほろ苦い感じが甘さを引き立てていておいしいねぇ」

「ほのかな苦味がアクセントになっていて私は好きですよ」


 ……うん二人とも大人な味覚なようで好評で何よりだ。

 俺はそっと現実から目を背けることにした。

 気分を変えて評価の方に戻るとしよう。


「お菓子の試食も済んだことだし、レオノーラお姉様、ユフィ、評価のほうはどうでしょうか?」

「そうですね私はどれもおいしかったので、ここはお茶会を主催しているヴィクトワール先輩にお任せします」

「そうねぇ。それじゃあ食べた順に評価するねぇ。まずクッキーは見た目はちょっと不恰好だったけど味は十分だったわぁ。新しい材料で作ったクッキーとして珍しさも十分でしょうねぇ。ただ、残り2つと比べると目新しさに欠けるわねぇ」

「そうですか。見た目に拘るのでしたら、お茶会でクッキーを出す場合はレシピを渡して作ってもらうことになりますかね」

「だからそれは駄目だって言ってるでしょう? もし出すのならお茶会に出すのに問題なくなるまで、アーシェが練習して作ることになるわねぇ」

「うっ、それはちょっと時間的な意味も含めて難しいですね」


 お店にクッキーのレシピを譲って、作ってもらって楽をしようというのはどうやら駄目のようだ。

 仕方ないので残り2つのどちらかを自分で作ることになりそうだ。


「次はクレープだったねぇ。とても軟らかくて甘くてとても珍しかったよぉ。お茶会に是非出してほしいねぇ」

「そ、そうですか。」

「うん? なんだか微妙に嬉しくなさそうだねぇ」

「先程も言ったとおり、作ってみたらかなり大変だったのでできればプリンの方がいいかなぁと」

「ああそういうことかぁ。まあプリンも十分美味しかったしアーシェがそうしたいならそれでいいよぉ」

「よかった」


 俺はあの重労働をしなくてすんでほっと一息した。

 なんにせよこれでお茶会に出すお菓子はプリンで決まったので後は練習をすればいい。

 俺は試食に付き合ってくれたレオノーラに礼を述べるついでにもう一つの頼みごとをすることにした。


「レオノーラお姉様、本日はわたしの用事に付き合って頂きありがとうございました」

「私もなかなか楽しかったよぉ。まったく新しいお菓子に出会えるなんてそうそう無いからねぇ」

「そう言っていただけるとこちらも嬉しいです。そしてもう一つレオノーラお姉様にはお願いしたいことがあります」

「何かなぁ? アーシェ」

「実は同室のユフィもレオノーラお姉様が主催するお茶会に参加を希望していまして、今回のお菓子もユフィとの共同作品ということにしたいのですが宜しいでしょうか?」

「私からもどうかお願いいたしますヴィクトワール先輩」

「そういうことなら大歓迎ですよぉ。これからよろしくねぇアーヴィンさん」

「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いしますヴィクトワール先輩」

「そういえばアーシェ」

「なんでしょうか?」

「生クリームを作るのが大変って言っていたけどどう大変なのかなぁ?」

「それですか。山羊乳から作るんですが、生クリームになるまで攪拌するのがかなり大変なんですよ。今回の分を作るだけでも腕が動かなくなる位でしたから」

「なぁんだそういうことかぁ。だったらアーシェは確か土の魔術の適正が高いんだから強化魔術をすればいいじゃない」

「……レオノーラお姉様」

「なあにアーシェ?」

「一昨日のことを覚えていらして?」

「何のことかなぁ?」

「レオノーラお姉様に呼び出された時、わたしは強化魔術を覚えようとしていたところなのですが」

「……」

「……」

「じゃあ今度、魔術の応用授業を受けて強化魔術を覚えてくればいいねぇ。頑張ってねぇアーシェ」


 そういうとレオノーラは部屋を後にしていった。

 ちくしょー面と向かって文句が言えない自分自信が情けない。

 はぁなんだかどっと疲れたわ。

飯テロならぬ菓子テロになったらいいなぁと思いつつ書いてみました。

秋も終わりに近づき家でとれる栗の収穫も終わりました。

栗の渋皮煮はおいしいのですがとても面倒なのでもう来年からはやめようかなぁ。

今年はまだ秋刀魚食べてないなぁ……じゅるり。

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