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15、呼んでみたのはいいけれど

 俺は試作品のお菓子を食べてもらう為に、レオノーラを探しに自室を出た。

 さてどこから探そうか?

 寮のレオノーラの部屋は俺の自室と同じ4階で近いし、居なくても居場所が分かるかもしれないから、俺はまずはそこを訪ねてみることにした。

 扉の前で軽く身嗜みを整えてから2,3度ノックをして声をかける、


「レオノーラお姉様、アーシェです。いらっしゃいませんか?」

「はぁい。今開けるねぇ」


 運が良いことにすぐ見つけられたようだ。

 扉が開くと私服姿のレオノーラが立っていた。


「どうしたのアーシェ? とりあえず中へどうぞぉ」

「お邪魔します」


 俺はレオノーラの招きに応じて部屋の中へ入ると、そこには同室の娘だろうか、見覚えのある女性が窓際のテーブルの椅子に座っていた。


「あら、いらっしゃいアルシェイルさん。レオノーラにご用かしら?」


 自分の名前を呼ばれた拍子に、姉のお茶会に参加していた一人であることを思い出した。

 たしか名前は、


「ええちょっと相談したいことがありましてイクシード先輩」

「同じお茶会のお友達ですから、アメリアと名前で呼んで頂いても構いませんよ」

「ではお言葉に甘えてアメリア先輩」

「はい。それで相談とはどんなことでしょう? 差し障り無ければ教えて頂けません?」

「お茶会のお菓子についてレオノーラお姉様に相談しようかと思いまして」

「なるほどそのことでしたか。私も次のお茶会は楽しみにしていますよ」

「ご期待に添えるよう頑張ります」


 そう応えるとアメリア先輩は優しく笑みを返した。


「それでぇアーシェ、お茶会のお菓子で相談っていうのは何かなぁ?」

「お茶会で皆様にお出しするお菓子の試作が出来たので、レオノーラお姉様にも試食して頂きたいと思いまして」

「んんん? お菓子の試作? これはまた随分と面白いことをしてるねぇ」

「そうなんですか? 学園の生徒だと大抵のお菓子は食べたことがありそうなので、食べたことのない珍しいお菓子なんて見当がつかないので自分で作ってみたんですが」

「あははは、それは深読みしすぎだよぉ。食べたことのない珍しいお菓子なんてそうそうあるわけないじゃない。ただ単純に珍しければそれで良かったのに」

(なっなんですとっ!?)

「しかもそれで見当がつかないから自分で作るなんて、入学したてなのにもうこんな面白いことをするアーシェはお母様の予想を超えてるわね」

「そっそうですか」


 俺は引きつった笑みを浮かべながら、この二日間の苦労は何だったんだと軽く落ち込んだ。


「アルシェイルさんはご自分でお菓子を作れるんですね。私もご相伴に預かりたいです」

「アメリアもアーシェが作ったお菓子に興味があるのぉ?」

「私もお菓子なお茶会に参加しているくらいですからね」

「それもそうだねぇ」

「申し訳ありませんアメリア先輩、お気持ちは嬉しいのですが、なにぶん試作ですので数がありません」

「それは残念です」

「それじゃあ後でどんなお菓子だったかアメリアにも教えてあげるねぇ」

「仕方ありませんね。アルシェイルさん、次のお茶会を楽しみにしていますね」

「はい」

「それで場所はどこへ行けばいいのかなぁ? 1階の食堂?」

「いえ、寮の自室です」

「そう、それじゃあ行きましょうかぁ」


 俺がレオノーラを連れて自室に戻ると、


「お帰なさいアーシェ、随分早く戻りましたけど、もうヴィクトワール先輩をお呼びになったんですか?」

「ただいまユフィ、居場所を訊きに寮の部屋を訪ねたら運よく部屋にいてね」

「お邪魔しますねぇ。あなたがユフィーリアさん? 初めましてレオノーラ・ドゥ・エラ・ヴィクトワールです。お話はアーシェから聞いていますよぉ。今後ともアーシェと仲良くしてやってくださいねぇ」

「ユフィーリア・ドゥ・ネル・アーヴィンといいます。こちらこそアーシェさんとはこれからも仲良くしていきたいと思っています」

「それでアーシェ、作ったお菓子というのはどれかしらぁ?」

「すみませんこんなに早く呼べるとは思っていなかったので、今最後の仕上げをしますね。ユフィ、悪いんだけどレオノーラお姉様のお相手をお願いしてもいい?」

「わかりました。ヴィクトワール先輩こちらへどうぞ」


 ユフィがレオノーラの相手をしている間に俺はクレープの仕上げを始める。

 苺を水で洗ってからへたを切り落とし、綺麗な布巾で拭いて水気を取って縦に四分の一に切る。

 ついでにクレープの生地、プリン、クッキーの温度をそれぞれ確認したところ、プリンはもうちょっと冷やしておいたほうがよさそうだ。


「ユフィごめん、ちょっとプリンを追加で冷やして欲しいんだけどいいかな?」

「え、ですが……」

「私のことなら気にしないでいいよぉ」

「ごめんなさいオレノーラお姉様、ユフィを借りますね」


 プリンをユフィに頼んだところで、一つ忘れ物をしていたことに気付く。


(しまった、カラメル作るの忘れてた。カラメルは好きじゃないからいつも作ってないから忘れてた。すぐできるから今からでも作って、プリンの上にかければ大丈夫……だよね?)


 急遽カラメル作りを始める。

 フライパンに水を少量入れそこに砂糖を加えて火にかける。

 砂糖がとけ色がつき始めたら焦げ付かないようにフライパンを揺する。

 香ばしい匂いがして飴色になったら火を止めお湯を少しずつ注いでのばしてから放置して粗熱をとる。

 あとはもう少し冷めたらプリンの上にかければいい。

 カラメルを作った後はクレープの仕上げを再開する。

 クレープ生地の上に山羊乳で作った生クリームを置き、苺を並べさらに臭み消しでマーマレードを少量添えてから包む。

 クレープは手で持って食べる包み方のが俺は慣れているが、流石に相手は貴族のお嬢様方なので、そんな食べ方は薦められないので皿に載せるやり方で包んだ。


「アーシェ、言われたとおり冷やしましたけどどうですか?」

「どれどれ……うん、これなら大丈夫かな」


 プリンも冷えてきたのでいよいよ準備は調った……おっといけないもう一つ確認しておかないとな、


「ねえユフィ、レオノーラお姉様を呼んで来るのが随分早くなっちゃったけど、お茶の準備は出来てるのかな?」

「準備出来てますから大丈夫ですよアーシェ」

「それじゃあ試作品の試食を始めましょうか」

「ええ」


 俺とユフィはお菓子の試作品とお茶を持ってレオノーラが待つ窓際のテーブルへと向かった。


「お待たせしましたレオノーラお姉様」

「待ってたよぉアーシェ」

「ではお出ししますね。ユフィはお茶をお願い」

「はい」


 俺がテーブルの上へお菓子の試作品を並べると、


「へぇ3つもあるんだ。1つはクッキーだから分かるけど、あとの2つは見たことないわねぇ」

「こちらはプリン、こっちはクレープといいます」

「プリンにクレープねぇ……」

(ん? 何だこの間は?)


 レオノーラの妙な反応に俺がいぶかしんでいると、


「ヴィクトワール先輩、アーシェ、どうぞ」

「ありがとう」

「あ、ああ、ありがとう」


 ユフィの淹れてくれた紅茶が並べられて、俺とユフィも席に着く。


「それではお茶会に出す予定のお菓子の試食を始めましょうか」


 さあいよいよお菓子の試食の時間だ。

 どんな味がするだろうか?

 上手くできてればいいな。

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