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14、作ってみたのはいいけれど

 翌日の放課後、俺とユフィは取り置きを頼んだ店に山羊乳を買いに行った。

 俺一人でも十分だったのだが、何故かユフィが一緒に行くと言って聞かず二人で行くことになった。

 店で手に入った山羊乳の量はあまり多くなく1リットル程度だったが、試作には十分なので問題ない。

 昨日購入した食材も、一晩間借りして置かせてもらっていた寮の保管庫から持ってきた。

 材料を揃えた俺とユフィは、お菓子の試作の為に寮の自室のキッチンに立った。

 よく考えたら女の子と一緒に料理って、なんだかまるで恋人同士みたいだな。

 ……いいじゃないか夢くらい見たって、どうせ俺ももう女の子なんだから友達感覚なのは自分でも分かってるよ。

 さてと気持ちを切り替えてお菓子作りを始めるか。


「山羊乳も手に入ったことだし早速試作品を作ってみようかな」

「楽しみですねアーシェ」

「何を作ろうかな? 2人分……いやもう一人くらい実験台……じゃなくて味見してくれる人がいた方がいいから3人分にしておくか。試作だから種類はあった方がいいし3種類くらい作ってみるかな」

「3種類ですか? 何を作るんです?」

「山羊乳で生クリームが作れるか知りたいからクレープと、あとはプリンと、それからこの二つが駄目だった時に保険でクッキーも作ろうかな? クッキーなら多少問題あってもナッツやジャムを添えれば誤魔化せるしね」

「クレープとプリンっていうのはどんなお菓子なんです?」

「それは出来てからのお楽しみということで」


 まずは山羊乳を生クリームとして使う分とその他に使う分に分ける。

 たしか生乳から生クリームを作るには、数時間置いた生乳の上澄みを使うはずなので、朝絞ってから今は昼過ぎなので時間的に大丈夫だろう。

 俺が山羊乳の上澄みをボウルにすくっている間に、ユフィには常温において柔らかくしたバターを砂糖と一緒に別のボウルに入れて混ぜてもらった。

 生クリーム用の山羊乳を取り分けたら、ユフィに魔術で山羊乳の入ったボウルを冷やしてもらいながら、俺が泡だて器で砂糖を追加した山羊乳を攪拌する。

 ……までは良かったのだがこれが大変な重労働だった。

 なにせいくら泡だて器でかき混ぜてもなかなか固まらず、途中でユフィと交代してもらいながらやっと固まった。

 俺はぱんぱんになった両腕をさすりながらハンドミキサーがいかに便利だったかを痛感した。

 苦労して出来上がった生クリームを、ちょっとだけユフィと一緒に味見してみる。


「これは! 舌の上で蕩けてとても不思議な感じですけど甘くて美味しいです」

「うーんちょっと臭みが強いなぁ。でもこれ位なら香りの強い果物やジャムで誤魔化せるかな?」

「そんなことないですよアーシェ、これはとても美味しいですよ」


 牛乳で作った生クリームを知っている俺には物足りない完成度だが、初めて生クリームを知ったユフィにはとても好評のようだ。

 ただ、これをお茶会の人数分用意するとなるとなぁ、正直ハンドミキサーがないとやってられない。

 完成した生クリームが入ったボウルを、ユフィに頼んで作ってもらった氷水を入れた、大きめの鍋の中にいれて浮かべる。

 これで生クリームはとりあえずクレープが焼けるまで放置しても大丈夫だろう。


 お次はクッキーの番だ、魔術具製のオーブンにマナを注いで起動させて予熱をする。

 ある程度余裕をもってマナをオーブンに注いでから、オーブンの状態を見るのをユフィに代わってもらってクッキーの生地を作り始める。

 砂糖とバターが混ざったボウルに卵黄と山羊乳を少しずつ注いでかき混ぜる。

 山羊乳を注ぎ終わったら、次はふるった薄力粉をこれも少量ずつ入れ、ダマにならないように切るように混ぜる。

 生地ができたら、麺棒と台に打ち粉をふって生地を5ミリ程度の厚さまでのばし、型抜きをして油を薄く塗ったトレイに並べる。

 トレイにクッキー生地を並べ終わった頃には、オーブンの予熱もできたようなのでトレイを入れてユフィにオーブンの様子を見ていてもらう。


 クッキーを焼いている間にプリン作りを始める。

 まず卵を割ってボウルに入れる。

 殻座は前世では面倒だからそのままだったけど今回は取り除く、ついでにクッキーで出た卵白も一緒にボウルに入れる。

 そして卵を泡だて器でひたすら攪拌する。

 生クリームの時の悪夢がちらりと脳裏をかすめたが、あそこまで大変ではないので問題ない。

 白身と黄身がよく混ざったら砂糖を追加する。

 泡だて器でこのままかき混ぜてもいいけれど、砂糖は底に沈殿するのでオタマで底をさらうようにしてかき混ぜる。

 砂糖が全て溶けたら今度は山羊乳を入れる。

 本当はここでバニラエッセンスを入れたかったんだが、残念ながら市場を探してもそれらしいものは見当たらなかった。

 まああれは香り付けだけで味は一切影響しないので問題ないだろう。

 でもあると香りが違うので何かで代用できないか今度探してみよう。

 鍋に水を4センチほどの深さまで入れて、蒸す時に使う蒸し目皿を敷き、水滴が落ちないように鍋の蓋を布巾で包んでから鍋を火にかけて沸騰させる。

 鍋の水が沸騰したら火をとろ火に変え、プリン液を注いだカップを蒸し目皿の上に並べ蓋をする。

 この時大事なのは、時間がかかってもひたすらとろ火で蒸し続けることだ。

 時間をかけてゆっくり蒸すことで、プリンにすが入らず滑らかな舌触りになるのだ。


 時間がかかるものはひとまず終わったので、ユフィにクッキーの様子を聞いてみることにした。


「ユフィ、オーブンの中はどんな感じ?」

「赤くて暗くてよくわかりません」

「……焦げてる臭いはないんだよね?」

「おいしそうな良い匂いならしてますよ」

「焦げてなければいいよ。こっちも一段落ついたからわたしが見てみるよ」


 オーブンを開けてみると、焼き色が付き始めたころだったのでトレイの向きを前後逆にしてオーブンに戻した。


「もうちょっとで焼けそうだね。この砂時計の砂が落ちきったら教えてくれる? ユフィ」

「わかりました」


 オーブンの様子を再びユフィに任せて俺はクレープの生地を作り始めた。

 卵を割ってボウルに入れよくかき混ぜてから、山羊乳を入れ軽くかき混ぜてふるった小麦粉を少量ずつ加える。

 あまり小麦粉を入れて粘性が上がると、薄く綺麗に焼くのが難しいのでもんじゃ焼き程度の粘り気で止める。

 熱したフライパンを、水で湿らせた布巾で軽く一撫でして温度を冷ましてから、クレープを薄焼き卵の要領で焼く。

 本職は書道の文鎮みたいな道具を使って薄く伸ばすけど、使わなくてもちょっと生地が厚くなるだけなので俺は使わない。

 生地が焼けたら皿に広げて粗熱をとっておく。


「アーシェ、砂が落ちきりましたよ」

「わかった。ありがとう」


 クレープ生地を焼いてるうちに時間になったようなので、一旦作業を止めてオーブンの様子を見に行く。


「どれどれ、うん、いい感じ」

「わあ、おいしそうですね」


 オーブンからトレイを取り出すと、きつね色に焼けたクッキーから芳ばしい香りが辺りに広がった。

 俺は粗熱をとるためにクッキーをトレイごと鍋敷きの上に置いた。

 個人的に焼きたてのクッキーの方が、俺はバターの香りが強くて好みなのだが、さすがに焼けた直後では熱くて食べられないので味見は我慢した。

 ついでにプリンもそろそろ固まる時間なので、蒸している鍋の蓋をとって中の様子を見てみた。

 プリンは完全に固まると滑らかさが落ちるので、固まる直前に鍋から取り出すのが理想的だ。

 確認の為に軽く揺すってみると、波紋が立ってすぐ消えたのでプリンを鍋から取り出した。

 プリンも粗熱をとってから、ユフィが作った氷水を入れたバットに入れて冷やしておく。

 残りのクレープ生地も焼いて、あとは全部冷えるのを待つだけになった。


「とりあえずこれでみんな完成かな。あとは冷めるのを待って試食だね」

「どれもおいしそうで楽しみですね」

「さてと、待ってる間にもう一人のじっけ……味見をしてくれる人を呼んでこようかな。ユフィは誰がいいと思う?」

「そうですね……件のお茶会の主催であるレオノーラ先輩はどうでしょう? アーシェのお姉様でもありますからお声掛けもしやすそうですし」

「それがいいかな。じゃあわたしはちょっとレオノーラお姉様を呼んで来るね」

「じゃあ私はその間にお茶の準備をしていますね」

「お願いユフィ」


 俺はお茶の仕度をユフィに頼んで、レオノーラを探しに部屋を出た。

 おいしいと言ってお茶会に出すのに合格を貰えればいいんだけどな。

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