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13、買い物に出かけたのはいいけれど

 ユフィに相談した翌日の放課後、俺はユフィと二人で街へ買い物に出かけた……のはいいのだが、


「ねえユフィ」

「なあにアーシェ」

「どうして買い物に行くのに腕を組む必要があるのかな?」


 街に出ると何故かユフィは俺の腕を取って抱きかかえていた。

 ユフィの自己主張しない膨らみが、俺の腕に当たっているのだがユフィはそれを気にした様子もなく、


「アーシェが一人でどこかへ行って私を置いて行ってしまわないようにしているんです」

「そんなことしないわよ」

「フラメルから聞きましたよ。買い物に夢中になってどこかへ行ってしまって、さんざん探しまわったと」

「うっ」


 この前の買い物の時の話を持ち出されて、これは形勢が不利だと判断して、俺は大人しくユフィの望むままにしておくことにした。

 考えてもみればこのままでも俺にとって何の問題もないからな。

 自分に不利な話題を変えるために俺はユフィに改めて今日の買い物の目的の話をふった。


「ねえユフィ、街へ買い物に来たけど結局何を作るかまだ決めてなかったんじゃないかしら」

「そういえばそうでしたね。二人きりで出かけることに夢中でうっかり忘れていました」

「おいおい」

「あっ、アーシェ、あそこにお菓子のお店がありますからとりあえず入ってみませんか? 何かヒントになるかもしれませんし」

「わかったわ」


 俺はユフィと一緒に表通りにある小洒落た店の中に入ることにした。


「いらっしゃいませ。学園の生徒さんですか。いつもご贔屓にしてもらっています」


 店番らしきおばちゃんの挨拶を聞くと、この店はどうやら学園の生徒が常連客らしい。

 それならば、学園の生徒が食べるお菓子にも詳しいだろうと、俺はおばちゃんに質問することにした。


「ちょっと訊きたいんだけど、学園の生徒に人気のお菓子ってどんなのがあるかしら?」

「人気ですか? それでしたら今ならこの苺のタルトがお薦めですね」

「へぇーおいしそうね。んーじゃあ質問を変えるわ。お茶会で使う予定なのだけど年間を通して学園の生徒に人気のお菓子ってどれかしら?」

「年間を通してですか? そうですねぇ、ならこちらのクッキーじゃないですかね」

「なるほどクッキーね」


 お薦めされたクッキーは確かにおいしそうだった。

 学園の生徒の中ではクッキーがメジャーなお菓子のようだ。

 あとで買ってユフィと一緒に食べよう。

 そんなことを考えながら、俺はおばちゃんへの質問を続けた。


「いろいろありがとう。質問の続きなんだけど、実は今珍しいお菓子を探しているんだけど何かないかしら?」

「珍しいお菓子ですか? どういった珍しさをお求めなんでしょうか?」

「んー学園の生徒が食べたことない位の珍しさかしら」

「学園の生徒さんはうちのお得意様ですからそれはちょっと難しいです。そんなお菓子なんてあったらわたしも商品になるので知りたいくらいです」

「それもそうよねぇ」


 期待はあまりしていなかったが、残念なことにヒントになるようなものは簡単には見つからなかった。

 俺はとりあえず先程薦められたクッキー以外に何か目ぼしいものはないか商品を見回してふとあることに気付く、


「ねえおばちゃん、このお店は焼き菓子ばかりあるけど生菓子は置いてないの?」

「? 生菓子というのは何ですか? 焼き菓子と言ってますがお菓子は焼くものでしょう?」


 どうやらこの世界にはまだ生菓子は存在していないらしい。


「なんでもないわ。気にしないでちょうだい」


 これはいい情報を得た。

 流石にケーキなどはすぐに作ることはできないが、プリンやクレープなら材料さえあれば簡単だ。

 俺とユフィは情報料としてクッキーと苺のタルトを購入して店を出た。


「ねえアーシェ、さっきお菓子がどうしたとか言っていましたけど、何のことだったんですか?」

「それはねユフィ、珍しいお菓子に見当が付いたってことよ」

「本当ですか、それは良かったです。どんなお菓子なんです?」

「それは作ってからのお楽しみね」


 そして俺達は市場に行って材料と道具を買って寮にもど……れなかった。

 結論として生クリームなどの材料になる牛乳が売ってなかった。

 考えが浅かった。

 焼き菓子はあるのに生菓子が無い理由を想像するべきだった。

 ただ、バターやチーズなどの乳製品はあることから、牛乳それ自体が無いわけではないのは救いだった。

 まだどこかで売ってるかもしれないという僅かな希望を抱いて俺達は市場を探し回っていると、


「さっきからはアーシェは一体何を探しているんですか?」

「牛乳……牛の乳がないか探しているの」

「牛の乳ですか? うーんそれは郊外の農村にでも行かないと難しいですね」

「郊外かぁ、流石にそこまで遠出するのは厳しいわね」

「それに仮に遠出をして手に入れたとしても、戻ってくるまでもちませんよ?」

「そこはほら、物を冷やす魔術とかでなんとかならないかしら?」

「そういった魔術具はあるにはありますが、発動している間ずっとマナを消費し続けますから無理ですね」

「駄目かぁ」


 俺のマナ容量は、8歳の頃からずっと鍛錬し続けているのでそれなりに多い方なのでいけるかもしれないが、王都から出るというのがそもそも難しい。

 俺達学園の生徒が自由に行動できるのは、治安の行き届いた王都の中だけでまさか牛乳欲しさに王都から外に出るというのは許可が降りないだろう。

 お菓子探しが振り出しに戻ってしまったことで落ち込んでいると、


「ねえアーシェ、牛の乳じゃなくて山羊の乳なら王都でも手に入ると思うんですけど駄目でしょうか?」

「うん? 山羊の乳なんてあるの?」

「ええ、山羊はそこまで場所を取らないので王都近郊でも飼育されていたはずです」

「うーん、山羊の乳で出来るかわからないけど一応試してみるかな」


 俺達は山羊の乳を探すことにした。

 何軒かの店を廻って、ようやく1軒だけごく少量だが取り扱っている店を見つけた。

 その店は牛乳を探している時に一度覘いた店だったが、その店で扱っている山羊の乳も足が早いので午前中に売り切れる量しか扱っていなく、俺達が探した時には既に売り切れていた。

 俺達はその店に、山羊の乳を取り置いてもらうように前金を渡して明日買いに行くことにした。


「これで材料はなんとかなりそうだけどもう一つ問題があるのよねぇ」

「それは何ですかアーシェ?」

「これから作るモノは温度が大事だから物を冷やす方法が必要なのよ。そういった魔術具がないか探さないと」

「アーシェは魔術で冷やせないの?」

「……生憎とわたしの適正は土に偏っててね。他の属性の魔術は出来ないの」

「あら、でしたら私がお役に立てそうですね。私の適正は水と風ですから」

「ユフィも魔術が使えるの?」

「使える、というほどでもないですが、物を冷やしたり、氷を少量作る位は出来ますよ」

「ありがとう助かるわ。良かったこれでなんとかなるかもしれないわ」

「一応共同作品という予定なので私もお役に立てて嬉しいです」


 俺達は必要な材料と一通りの調理器具を買い揃えて帰路に着いた……のだが、


「ねえユフィ」

「なあにアーシェ」

「どうして帰るのにまだ腕を組んでる必要があるのかな?」

「秘密です」

「いや、お互い荷物を持ってるから歩きにくいんだけど」

「秘密です」

「……秘密なんだ」

「はい、秘密です」

(左様でございますかユフィさん。まったく女の子というのは秘密が好きだな。まあ悪くないしこのままでもいいか)


 牛乳と山羊乳を探すのに時間を取られたのと、ユフィと腕を組んでいたので歩みが遅くなったのも合わさって寮に着いたのは門限ぎりぎりの時間だった。

 俺とユフィは寮母のマレーネさんからあまり遅くならないように軽く釘を刺された。

 俺は床につくと明日の試作品のことを考えながら眠りに落ちた。


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