12、お茶会なのはいいけれど
レオノーラから呼び出された場所へ行くと、そこには10人ほどの女生徒が3つのテーブルを囲んで談笑していた。
「何の御用でしょうか? レオノーラお姉様」
「やぁよく来たねぇ、お菓子なお茶会にようこそぉアーシェ」
俺が声をかけると、レオノーラは席から立って俺の横に立ち、
「皆様紹介しますねぇ。こちらは私の妹のアルシェイルですぅ。今後とも妹共々よろしくお願いしますねぇ」
(え? 何これ何の集まりなんだ?)
俺がいぶかしんで動きを止めているのを察してかレオノーラが俺を促す、
「さっアーシェ、恥ずかしがってないで皆様にご挨拶なさい」
「えっとアルシェイル・ドゥ・エラ・ヴィクトワールと申します。不束者ですが皆様よろしくお願いします」
「レオノーラさんの妹ですか私は…………」
「こちらこそ…………」
「私は…………」
俺が挨拶をすると女生徒達は次々と挨拶を返してくれた。
挨拶を返してくれた女生徒の名前を一人一人覚えていると、驚いたことに全員爵位持ちなことに気付く、
「あの、レオノーラお姉様ここは一体……?」
「妹のアーシェの紹介も済んだことですし、皆様お茶会の続きを始めましょうかぁ」
俺の質問は聞き流され、俺は促されてレオノーラの隣の椅子に座った。
俺は時折かけてくる声には、今の状況がわからないので曖昧に応えながら、周りで賑やかに話される会話に聞き耳を立てる。
「そういえばお聞きになりましたか? レガード男爵家のオットーさんが婚約を決めたそうですのよ」
「まあ、相手はどなたなのでしょう?」
「それが…………」
「ヴァナード殿下といえば…………」
会話の内容の大半はどこかの誰かの婚約相手が決まったとか、どこそこの誰が誰を狙っているなどの恋バナ(?)だった。
次に多かった話題はさっきまで一緒のクラスにいた第一王子のヴァナード殿下に関することだった。
……というかほぼこの二種類の会話しか聞こえないな、結局なんなんだこのお茶会は?
俺の疑問に答えてくれる人はお茶会がお開きになっても現れなかった。
お茶会が終わり後片付けしている様子をレオノーラと二人で眺めながら、俺はレオノーラに疑問を投げることにした。
「……それでレオノーラお姉様、結局これは一体何だったのでしょうか?」
「これは私が主催するお菓子好きな女性の為のお茶会だよぉ」
「……そうではなくて、何故わたしを、何の為に、このお茶会に呼んだかということです」
「……まったく、(アーシェは本当にこういうことに関して察しが悪いわね。それとも演技なのかしら?)」
「? すみませんレオノーラお姉様、小さくてよく聞き取れなかったのですが」
「なんでもないわぁ。ねえアーシェ、あなたは今日の午後はどうするつもりだったのぉ?」
「? 魔術の修練をするか、選択授業の魔術の応用を受けてみようかと思っていましたが」
「……ハァ、いい? それをするなとまでは言わないけれど、爵位持ちの子女が放課後に優先するべきことは何だったかしらぁ?」
「えっと……」
俺が言い淀んでいると、レオノーラは畳み掛けるように続けた。
「人脈作りでしょ、前にも教えたでしょうに。手始めに同好の士や爵位が近い者とか、何がしかの共通点を持つものから交流の輪を広めるのよ。このお茶会もその一環よ」
「えっと、でも何故わたしを?」
「アーシェが自分でそういうことをしなさそうだからよ」
「うっ」
図星を指されてたじろぐ俺にレオノーラは追及の手を緩めずに続けて、
「本当はこういうお茶会に入るのも自分で探して見つけるものなのよ? まあ今回みたいに兄姉からの紹介っていうのもなくはないけどね」
「……はい」
「それに折角苦労して作ったお茶会なんだからこのまま消えるのは勿体ないしねぇ。アーシェが入学してきてくれてよかったわぁ」
「……レオノーラお姉様」
「まあこういった交流は、自分で主催するか既にあるものに参加するかの違いはあるけど、複数に所属しているのが普通だからアーシェも何か気になるモノがあったら参加してみなさいね」
「あの……わたしまだこのお茶会に参加するとは……」
「うん? なあに? 主催の私がみなさんに紹介したのに参加してくれないの?」
「……いえ、レオノーラお姉様のご厚意に感謝します」
「どういたしましてぇ」
俺はなし崩し的にレオノーラが主催するお茶会のメンバーにされてしまった……貴重な放課後の時間がぁ。
心の中で黄昏ているとレオノーラからさらなる追い討ちがかけられた。
「あ、そうそう、うちのお茶会では新しく参加した人は、お菓子をお茶会でみなさんに振舞うのが通過儀礼だからよろしくね」
「え、そんな説明聞いてないんですが」
「今説明したから、一応お菓子なお茶会って題目だからお茶菓子は必須なんだよねぇ。そうそう珍しいお菓子だとみなさん喜ぶから期待しているわねぇ」
「珍しいってそんなこと言われても」
「お茶会は毎週のこの日に催されるからそれまでに用意してね」
「してねっていわれましても」
「じゃあそういうことでよろしくね」
俺の抗議の声が一切無視されて話が打ち切られてしまった。
珍しいお菓子って言われてもなぁ、とりあえず寮に戻るからユフィに相談してみるか。
俺は女子寮の自室に戻ると、同室のユフィに先程の顛末を話して相談をもちかけた。
「お菓子のお茶会なんて素敵ですね。アーシェが参加するなら私も参加してみたいです」
「お菓子なだけどな。お菓子なだけにおかしな面倒をつきつけられたが」
「「珍しいお菓子だと喜ぶ」程度なんですからそこまで面倒じゃないですよ。それより私も参加したいのですけれどよろしいですかアーシェ、私も爵位持ちの貴族ですし」
「まあ参加を決めるのはわたしじゃないけど、主催のレオノーラには話しておくよ」
「ありがとうアーシェ」
「それにしても珍しいお菓子ねぇ、ユフィは何か知らない?」
「私が実家で食べていたのはクッキーとかパイとかタルトですね。アーシェはどうですか?」
俺も実家で出されたお菓子を思い出してみると……ユフィと似たり寄ったりだった。
「ユフィとあまり変わらないなぁ」
「王都のお菓子屋さんで聞いてみるとかはどうです?」
「それが無難だよなぁ。ただ……参加してるのは学園の先輩達だから目ぼしいお菓子は食べられてそうなんだよなぁ」
「それはありそうですね」
「それにわたしもユフィもそこまで王都に詳しくないからまず店の情報を知ってそうな人間を探さないとなぁ」
「そうでしたね……。ねえアーシェ、思いついたんですけどいっそのこと自分で作るというのはどうでしょうか?」
「自作かぁ……なかなか難しいと思うよ。相手はさんざん王都のお菓子を食べてきた先輩達だし」
「確かにそうでしょうけど、自作なら誰も食べたことがないお菓子で珍しいとは思いますよ。備え付けのキッチンもあることですし一応作れないわけではないですよ。それに来週ですから時間はまだありますし試してみて駄目だったら王都に詳しい方を探しましょうよ」
(自作……自作ねえ、前世では料理が趣味だったからお菓子もそれなりには作っていたけど材料と道具がそろうかなぁ。)
俺は備え付けのキッチンの設備を思い浮かべた。
コンロが二口にオーブンにシンクが備え付けられており、しかも流石は貴族用の寮、どれもマナを動力とする魔術具製で火を扱うのに問題はなかった。
しかし電子レンジと冷蔵庫の類はついてなかったのが不安要素だ。
「まあ……自作もなんとかなるかもしれないな」
「そうですよね! じゃあ明日は二人で一緒に放課後に街へ買い物に行きましょうね!」
「あ、ああでもいいのか? こっちの用事に付き合わせることになるけど」
やけに嬉しそうに乗り気なユフィに若干気後れしながらもそう詫びると、
「大丈夫です。この前一緒に出かけようって約束したじゃないですか。それに私も参加する予定のお茶会なんですから共同作品ということにするつもりです」
「なるほど、じゃあ明日はよろしくね」
「はい、こちらこそ」
ユフィがとても楽しみにしているので次第に俺も明日の買い物が楽しみになってきた。
ユフィみたいな美少女と二人きりでお出かけ……まるでデートみたいだな。
ああこれが前世か、せめて俺が男だったらなぁ。
俺はままならぬ世の理不尽をわずかに嘆きつつ、ユフィと二人きりで買い物という行為を楽しみにして床についた。
タグつけが難しいのです
こんなタグつけたほうがいいよ等ありましたら活動報告で教えて頂けるとありがたいです
あ、変なのは駄目ですよ 魔王 とか言われてもそんなの出ませんから




