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食堂





「はじめまして、私はキャメリア・ローレン。よろしくね」


目の前に座っている少女がにこやかに挨拶してくる。



「よろしくお願いします。ローレン様」



だからリサもにこやかに返す。



「ああ、いーのよ。キャメリアって呼んで。敬語もいらないわ」


「え、と…」



華やかな雰囲気とは反対に気さくな話し方をするキャメリアの言葉に戸惑う振りをする。

先程あっさりと納得したら驚かれたので、1度くらい食い下がるべきだと学習したのだ。



「フェルトって聞いたことないし、平民でしょ?

私も同じ、ローレン商会の娘なの」


「え!?学園って貴族が通うものなんじゃ??」



驚くリサにキャメリアは目を見開いてから、呆れたようにリサの隣を見る。



「ルーリア。説明してなかっわけ」


「ふぁふれふぇた」


「あんたね。それでも貴族令嬢なの…」


「ふぉふぃろん」


「ちょっ!飛んだんだけど!口閉じなさいよ!」



リサの隣にはルーリアが無言でアップルパイを咀嚼していた。

ほっぺを一杯にして食べる姿に貴族らしい上品さは皆無で、それどころか口に物を入れたまま食べる姿は下品なはずなのに、なぜだかそこにはリスやハムスターを連想させる愛嬌があった。


キャメリアも文句は言うが、呆れているだけで本気で嫌悪しているようではなかった。



「はぁ、このお馬鹿ちゃんに変わって説明するけど、なぜこの学園が国一番と呼ばれているかは知ってる?」


「ごめんなさい。分からないわ」



申し訳なさそうに眉を下げるリサの姿は、庇護欲をそそる愛らしさがあり、キャメリアはこの小動物コンビが変なオオカミに捕まらないように気を付けようと心に誓った。



「まず、学園と呼ばれる機関の下に初等園と呼ばれる学校があって、初等園には貴族用と裕福な平民用に別れているの」


「裕福な平民用?」


「そう。家庭教師にある一定以上を習っている事が初等園の入学条件。そして、リサの言った通り平民の大半は初等園を卒業すれば仕事につくわ。だって学園は貴族のものだから。

でもその例外がこのスヴェルブ学園。

スヴェルブ学園は貴族用、平民用すべてを合わせてその中のトップクラスの人にだけ入学が許される。平民が唯一通える学園なの」



ゲームでも国一番の学園とは呼ばれていたが、出ていたキャラは貴族階級ばかりで、この世界に転生して、学園は貴族が通うものと知ってゲームに貴族しか出てこないのに納得していたが、まさか平民も通える学園だったなんてと目を見張る。



「じゃあ、キャメリアも頭が良いのね」


「もちろん!学園に入学するために頑張ったわ」


「そんなに入学したかったの?」


「そうよ!だってこの学園を卒業すればマリスと結婚出来るもの!」



そう言って頬を染めるキャメリアは華やかな雰囲気がなりを潜め、恥じらう姿が可愛らしかった。



「マリス?」


「あ、うん。私の家と取引してる男爵家のご子息なんだけどね。幼い頃からの知り合いで、身分違いなのは理解してるんだけど、こ、恋人なの。

それでね、この学園を卒業した人は平民でも貴族に嫁ぐ事が出来るから…頑張ったの」



キャメリアの言葉にリサは驚いた。

この時代、貴賎はどこの国でもハッキリと別れていて、それはこの国でも同じ。

貴族と平民が駆け落ちするならまだしも、貴族に平民が嫁げるなんて考えられない。



「なんでまた…」



乙女ゲームのご都合主義(ほせい)だろうかと勘繰ってしまう。



「それは歴史のせいね」


「歴史?」


「そう、この国は大陸一古い歴史を持つでしょ」



へー。と心の中ではじめて知った事実を聞き流しつつ、キャメリアが当然のように話しているので、初等園で習う範囲なのだろうと納得する。



「その歴史の中では、血を尊いものとして近い血と交わり続けて子供が出来にくかったり、奇形の子供や欠陥を持った子供が生まれてくるようになった事があるの。

それを解決しようと外の美しい人を愛人に迎え入れて普通の子供は沢山生まれたけど、美しさを求めるあまり文武を疎かにして政が滞った。で、結果がこのスヴェルブ学園ってわけ。

外の優秀な血を貴族の血として迎えるためにスヴェルブ学園を卒業した平民は貴族に嫁ぐ資格を貰えるのよ」


「ついでに貴族に美人が多いのは、美しさを求めた時代の名残なんだってさ」


「ふうぉあっ!?」



突然隣から話しかけられたリサは飛び上がって驚く。



「あんた、やっと食べ終わったの」


「大変美味だったぞ!」



既にルーリアに対してデフォルトになっている呆れ声でキャメリアがそう言えば、キャメリアから強奪したアップルパイを食べ終わったルーリアは、満足そうに首肯く。

やっと情報らしきものを出したルーリアにリサは思わず、こんなキャラだったかと頭を傾げる。

真っ先に案内された食堂で、アップルパイを食べているキャメリアに話しかけ、無言で子犬の鳴き声のような切なげな腹の虫を鳴らしてアップルパイを譲り受けた後は、面識のない二人を放置して平すらアップルパイを味わっていたルーリア。

おかげで、あれ?サポートキャラってキャメリアだってけ?と頭を傾げたくなるほど、情報源がキャメリアだった。

情報通のルーリア。

情報は攻略キャラ限定なのかと勘繰ってしまうほどに情報らしき情報を教えてくれない。

ルーリアってこんなんだっけ?

この10年で薄れた記憶を必死に呼び起こしながら、リサは首を捻る。





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