王都
「ベステン子爵。この数字はどういう事でしょう?」
王宮の一室。
本来、貴族のパーティー以外で王族と顔を会わせる機会などほとんどないベステン子爵は小さくなり、震えていた。
「ど、どうとは…」
ベステン子爵は出された紙、今年のベステン子爵領から国への納税をまとめた紙。
「た、確かに今年は例年に比べて少ないですが、それは天気によるもの!決して決して横領などーー」
「そうではない」
確かに今年の納税は昨年に比べて減ってはいたが、国全体で天候が悪かった為、それはどこでも同じだったと思うのに何故!?とベステン子爵は必死に頭を回す。
だが、ベステン子爵の弁解は、不機嫌そうな王の声によって止められる。
「逆だ。どれだけの重税を課した?今年にこれだけいれるなど正気か!?どれだけの餓死者を出したのか把握しておるのか!!」
「っーー!?」
ベステン子爵は息を飲む。
というのも、王が何を言っているのか訳が分からなかったのだ。
「日照り続きに早い冬の到来、どこも民の救済に必死で、国に上げれる税など雀の涙。
それを例年とほとんど変わらぬなど…。
何をしておるのだ!!」
ベステン子爵はさらに困惑した。
ベステン子爵は残念ながら情報収集が得意ではなかったのだ。
「何か申し開きはあるか」
尊大に侮蔑した目を向けてくる王を前にベステン子爵は倒れそうになる。
「も、申し訳ございませんが、何をおっしゃっておられるのか…」
「何…」
眉間にシワを寄せる王を見て、ベステン子爵は真っ青になりながら弁解する。
「た、確かに雨は少なかったですが日照りつづきなど大げさです!冬が早いなんて動物達の様子を見れば分かりきっていたこと!早くに冬支度を始めれば良いだけの話ではないですか!現に収穫の少なさと冬支度の手助けで例年に比べて税が少ないではないですか!」
そう言ってベステン子爵は震え、王や大臣は眉間にシワを寄せながら何かを囁き会う。
その姿にすでにベステン子爵は倒れそうであった。
「もしかして…精霊姫が居るのでは?」
そう言ったのは、母に似た柔らかい印象を与える美しい容姿を持つ幼さの残る少年、この国の王太子・ハミルドだった。
「なに…!」
決して愚かではないが、至って凡夫な王から生まれたとは思えない美しく賢いミハルドの言葉に次こそ大臣達はざわめきだした。
「静まれ静まれ!」
王の言葉に大臣達のざわめきも小さくなる。
「ベステン子爵」
「は、はい」
「貴方の領にいる変わり者の娘を洗い出してください」
「え、あの…」
穏やかな声でミハルドに呼ばれたベステン子爵は困惑した。
「地方神官達からの報告がないところを見るとどうやら擬態しているようです」
「せ、精霊姫が、擬態ですか…?」
「ええ、ですがこのような事態が起こったということは、向こうはまだまだ詰めが甘い」
「まだ幼い少女の可能性も…」
「いえ、ありえません。幼ければ、雨が降らない危険性も冬が早く来る危険性も予期出来ませんから。
それを予期し、精霊に救いを望むのはすでにその危険性を理解した上で必要な対策を思い付く必要があります」
「な、なるほど…」
ミハルドの柔らかくもしっかりした言葉に王達が納得した様子で頷く。
「さぁ、逃がさないよ。精霊姫」
その呟きは、誰に聞かれることもなく風に消える。
「ヤバイ、なんだろこの悪寒!?風邪??」
いや、風の精が一人の少女に届けていたが、あいにくと少女には伝わらなかったようだっだ。