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前章





『こんばんは、リサ』


『あら、こんばんは。リサ』


『リサー!こんばんはー!』


『ねぇねぇ、リサ!僕のお話聞いてよー!』


『リサ』


『リサ』


『リサ』


挨拶や呼びかけを無視して、家に帰る。


光の玉の声を無視することは10年前に決めた。


乙女ゲームで、国随一の学園に編入することになったきっかけは、精霊と話していたことだ。


それならば精霊と話さなければ問題は解決する。


幸い思い出すのが早かったので、子供の作り話として処理できた。


「ただいまー」


「はぁ…」


「おいこら、人の顔見て真っ先にため息吐くなクソ兄貴」


わざとらしくため息を吐くフェイにツッコミを入れる。


「ため息も吐きたくなるわ。愚妹め…」


「えー、ホントなんでそこまで言われるの?」


朝からのことを思い返してみるが、フェイに迷惑をかけたことが思い出せずに頭をかしげる。


「お前、早く結婚したいって言ってただろ…」


「うん。えっ、もしかして見つかったの!?」


「見つかってたらため息なんか吐くか!」


ースパンッ


「ですよねー」


(はた)かれた頭をさすりながら苦笑する。


田舎の成人は早く、13歳にもなると一端の大人として扱われる。


フラグを最も確実に折れる既婚者という立場を手に入れようと13歳になった日から縁談を持ちかけているが、中々結果には結び付かない。


「だからあれほど狩りはやめろと言っただろ」


「う…」


「どこに男より狩りの上手いじゃじゃ馬を嫁にもらう変人が居るんだよ」


「…き、きっとどっかに居るさ!」


「2つ先の村まで探したんだぞ?」


「ぐっ…」


「この先の村にツテなんてねぇからな?」


「うわぁん!そこをなんとか!!」


「なんとかって何だよ!」


「なんかない!?」


「ねぇ!」


フラグを折るために結婚を望んでいたが、兄に付いて回り、狩りの腕をメキメキ上げた結果、縁談を丁寧にお断りされているのである。


村の端から端に嫁ぐだけでも遠くに嫁いだと言われる閉鎖的なこの土地で、わざわざ2つ先の村まで探しに言ってくれただけでも感謝するべきなのだろう。


「まあ、それはどうでもいいとして」


「どうでもよくない、どうでもよくない」


「天気がなぁ…」


「聞いて、フェイ兄聞いて





って、天気?」


「ああ…」


深刻そうな顔をするフェイに頭を傾げる。


「爽快な狩り日和な日々じゃん?」


「だから困ってるんだろ」


もう一度頭を傾げれば、呆れたようにため息を吐かれる。


「日照り続きだって言ってんだよ、バカ」


「あれ?そんなに雨降ってないっけ?」


「お前は意気揚々と狩りに出かけてるから気付いてないかもしれないけどな、もう村じゃ問題になるくらい降ってないんだよ!」


皮肉混じりに言われ、ムッとする気持ちを抑えて言葉を紡ぐ。


「それは悪うござんした!


でも、そんなにヤバイの…?」


食料が減れば、人が減る。


餓死なのか、口減らしなのかは別として。


仕方がないとはいえ、ただでさえお腹が減ってみんなの元気が無いなか、食べ物を融通することも出来ずに餓死者が出てはお通夜モード。


捨てられただ、売られただしてもお通夜モード。


病死も増えてお通夜モード。


あいにくと人の不幸は泥水の味。


バッドエンドなんかくそ食らえ!という性分からすれば、その話題だけでも気落ちする。


「…このままいけばかなりヤバイ。うちも…口減らしを考えないとな…」


その言葉に目を見張る。


「え!?口減らしって…!」


「仕方がないだろ…。安心しろ…お前はうちの食卓を豊かにする存在だ。お前はねぇよ…」


そう自嘲するフェイに“よかった!”と笑えるほどバカではない。


きっとリサの代わりは、年老いた父か母か、まだ幼い弟、もしくは弟より幼い甥や姪だろう。


「…悪い、愚痴っちまった」


「…いいよ、フェイ兄がそれで楽になるのなら」


弱々しく笑う兄に頭を横に振って否定する。


「ん…」


「まだなあい?」


「もう大丈夫」


「そう。なら少し散歩してくるね」


「日が沈む前には帰れよ」


「もちろん!」


空元気なのか、本物なのかは分からないが元気に出ていく妹を見て苦笑する。


昔っから中の妹はとても話しやすかった。


年が離れてるにも関わらず、なぜだか話しやすい。


だからか、こうしてついついどうしようもない愚痴を呟くのは、父でも上の弟でも、ましてや女の母や上の妹、妻ではなく中の妹…。


と、まで、考えて苦笑する。


中の妹も女だった…。


食事で愚痴れば、いつも沢山の肉を狩ってくるから忘れかけてたけど女だわ。


そして、きっと今回も沢山の肉を狩ってきて、冬のために沢山沢山燻製肉を作るのだろう…。


「気が早い…」


それでもそう思うと少し心が楽になった。


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