冒険
「あっ!あそこの焼き鳥美味しいんだよー!」
話は終わったとばかりにルーリアは、リサから離れてパタパタと出店の方へ向かった。
「焼き鳥を売ってるのか…」
「逆に売ってなかったらどうやって食べるの?」
「狩って捌いて素焼きで食べる」
「素焼き!?」
「素焼き。香辛料なんて贅沢品使えるわけないでしょ」
「マジっすか…」
自分は中々の貧乏だと自認していたルーリアは、本物のド田舎育ちのリサの話になんとなく恥ずかしくなった。
「じゃあ、もしかして香辛料の使われた料理って食べたことない…?」
「ハーブなら自生してるからあるよ」
「おお…」
意外と自分は贅沢者なのかも知れないとルーリアは再認識した。
「なら、初香辛料付き焼き鳥だね!」
「あー…」
微妙な気持ちを吹き飛ばすように明るくルーリアがそういえば、リサは微妙そうな顔で応えた。
「ごめん。食べれないわ」
「え?」
「学費は無料だけど、仕送りがある訳じゃないからお金がない」
何でもないようにそう応えたリサだったが、ルーリアは顔を青くした。
「ごめん!気付かなくて!」
「いや、別に良いよ!」
その反応にリサの方が戸惑った。
お互いに気の知れてる貧乏な村では、「お金がない」は良い笑いのネタでしかなかった。
今回もそのノリで言ったら、こんなに反応されると思ってもみなかったのだ。
「いや、でも…」
それでも食い下がるルーリアの扱いに困りつつもリサの頭にある名案が浮かんだ。
「なら、一番割りの良い仕事、紹介してよ!」
気に入ればやれば良いし、気に入らなければお礼だけ言えば良いとリサは軽く考えていた。
「そんなことで良いなら!」
ルーリアも軽く返事していた。
「ココかな!」
だから、まさかこんな所を紹介されるとは思ってもみなかった。
「は…」
「一番ハイリターンな仕事だよ!」
ニコニコと笑うルーリアに悪意は見えない。
(いや、悪意がない方が怖いかもしれない…)
リサはそんな思いを抱きつつ、その建物にでかでかと書かれた看板を読んだ。
「ここ冒険者ギルドじゃん!!」
確かにハイリターンな仕事ではある。
が、同時にハイリスクで、同級生のましてや女子に勧める仕事ではない。
そう、決して。
決して、同級生の女子に勧める仕事ではないとリサは声を大にして主張したかった。
「ダメだった…?」
本当に何がダメか分かりませんとばかりに眉を下げてシュンとするルーリアにリサもそれ以上責める気にはならなかった。
「他の子には、しないように気を付けなよ」
「…はーい」
「じゃあ、入ろうか」
「え!?」
スタスタと冒険者ギルドの扉を開けて中に入るリサをルーリアは慌てて追いかける。
「ねぇ、ダメなんじゃなかったの!」
「他の女の子にはね。私はセーフ」
「そっか、良かった!」
何もよくないとツッコミを入れる人間は、残念ながら居らず、ギルド内に居た酒も入っておらず、朝から仕事を探しに来る比較的に良心的な人達は、野暮ったい少女と身なりの良い少女の乱入に瞠目した。
「すみません、仕事をしたいんですが」
「リサ、まず、冒険者ギルドに登録しなきゃダメなんだよー」
「ああ、そうなんだ。
すみません、登録手続きお願いします」
予想外のお客様にギルドの受付嬢も一瞬戸惑ったが、そこは流石にプロ。
事例が少ないだけで過去にも少女が冒険者ギルドに加入した例はある。
何より、そういう少女は多かれ少なかれ才能がある場合が多いのだ。
もちろん口外などしないが…。
少女の身でありながら、汚く危険な男仕事を選ぶ時点で、すでにある程度の戦力を有している可能性が高いだけで、女性が冒険者に向いているわけではないのだ。
だが、中にはそれを勘違いする人間も出てくるため、ハイリスクな仕事柄、勘違いによる油断が命に関わる。
故に決してこの事実を口外してはならないのだ。
「かしこまりました。こちらへのご記入お願い致します。
代筆はご利用されますか?」
中世風のこの世界はもちろん、識字率は高くない。
だが、ヒロイン補整のかかったリサは村からの移動中に騎士達に読み書きを習い、すでにマスターしていたので問題ない。
「大丈夫です」
断りをいれるとリサは、さらさらと羊皮紙に記入していく。
「これでよろしいですか?」
「はい、ありがとうございます。では、こちらが証明書になりますので無くさないようにしてください。
もし無くした場合、再発行には銅貨3枚が必要になるためお気をつけ下さい」
「はい」
「では、冒険者ギルドの説明をさせていただきます。
冒険者ギルドは、上からA、B、C、D、Eランクに別れており、Eランクは見習いとなり、まだ採集しか出来ません。
達成度によりランクが上がるシステムとなっています。
仕事を受ける場合は、あちらの掲示板からやりたい仕事の紙を持って受付にて許可してからするようになっております。
任務達成にはなりませんが、材料などは常に取引しております。
何か質問はありますか?」
「ありません」
「そちらの方は…」
「あ、私は違います」
チラリと受付嬢に見られたルーリアは、軽く否定し、リサと一緒に掲示板を見に行った。
「どの採取が割りがいいかな?
この辺りの生態系が分かんないから難しいな」
「だねー」
二人は掲示板の前で頭を傾げていた。
「おい」
「んー」
そんなリサ達に厳つい顔の男達が声を掛けて来たが、ルーリアは聞こえなかったのか頭を傾げたままだった。
リサは気付いたが、明らかに絡みに来た男達にどうしようかと様子を見ることにした。
「おい!」
「割りが良いものかー」
さっきより大きい声だがまだ気付かない。
「おい!!」
「まさか最初から狩りが出来ないなんて…」
更に大きい声だがまだ気付かない…。
「おいっつってんだろ!!!」
「ふぉぶばっふぁぁああ!!?」
最後には、キレてルーリアの方を掴んだが、驚いたルーリアの声に厳つい顔の男達の方が驚くはめになった。
「ちょっと!突然大きな声を出さないで下さいよ!ビックリするじゃないですか!!」
「は?ずっと呼んでただろ!?」
「聞こえなかったです!」
「それはお前の都合だろ!?」
「いいえ!聞こえてなかったということは言ってなかったも同じです!」
「いやいやいや!なんだよその超理論!?」
「逆に言ったという証拠はあるんですか!」
目の前で繰り広げられる低レベルな言い争いにリサはどうしようかと傍観する。
「言ったよ!なぁ、お前ら」
「ああ!」
男の言葉に同意する取り巻きの男達。
「仲間の言葉なんて信用ならないです!口裏合わせてる可能性だってあるんですから!」
まず、男達にルーリアを驚かせるメリットはないと思うと心の中で呟きつつ静観するリサ。
「姉ちゃんは、俺らが呼んでたの聞こえたよな!!」
「あー…」
唐突に来た流れ弾をどう処理するか悩む。
聞こえてはいたが無視していた以上、下手に同意するのも厄介である。
だが、わざわざ嘘を吐く必要性も感じなかったので、リサは素直に頷くことにした。
「聞こえてましたよ」
「ほらなぁ!だろう!」
「なん、だと…!?」
リサの予想通り、男達の意識は完全にルーリアに向いており、意図的に無視されていた事に気付いていない。
「くっ…!そ、それはそうと、乙女の肌に軽々しく触るのはいかがなものかと思いますが!!」
「おと、め…?」
「ちょっと!待て!今、どこ見た!!ちょっと!目をそらすな!!」
ルーリアの言葉に男達の目が思わず慎ましやかな胸元に向いたことを察したルーリアがキレる。
「お嬢ちゃんこそ、現実から目をそらすなよ!」
「喧嘩売ってんの!?」
「受付のお嬢ちゃんほどなんて無茶ぶりはしない。だが、せめて、せめて、隣の嬢ちゃんくらい成長してから言ってくれ…!」
「待ってや、何その唐突の流れ弾」
思わずツッコミを入れてしまったリサだったが、あいにくとヒートアップしていくルーリアと男達との会話の声に揉み消されてしまった。
ひとつ断っておくなら、受付嬢は中々の巨乳で、リサは普通である。
「俺達にだって選ぶ権利があるんだ!!」
「待って!ねぇ!待って!私じゃ不満だと!?」
「俺は巨乳派なんだ!」
「俺もデカ尻派なんだ!」
「俺は足派だからイケる!」
「最後アウトー!!」
なんだかおかしな流れになったこの空間をどうするべきかとリサ悩む。
悩む…。
悩んだが行動した方が早いと結論を出し、ルーリアの服を引っ張る。
「ん?どうしたの?リサ」
「早くお金を稼ぎたい」
流れをぶった斬る身も蓋もないセリフだったが、ルーリアは気を悪くした様子もない。
実際、実家への仕送りをしたいリサはさっさと採取に出掛けたかった。
「了解!ねぇ、おっちゃん達、この辺りで割りの良い採取って何?」
「あ…?」
キラキラした目で見上げて来るルーリアに断ろうとしたが、なんとなく断りづらい。
「え…もしかしておっちゃん達知らないの…」
と、思えばドン引きした雰囲気でそんなことを言われるので、気の短い男達はあっさりと口を開いた。
「ふざけんな!何年冒険者やってると思ってんだ!!知っとるわ!」
「でも、採取かぁ」
「最近は狩りばっかりだったからなぁ」
「探すのが楽って意味ならルデ草なんてそこら中に自生してっから数取れば中々の金になるんじゃねぇか?」
「珍しいもんならライトダケはかなり高価で取り引きされるな」
男達の言葉にふんふんと頷き、掲示板からルデ草とライトダケの紙を取ったルーリアからリサはライトダケは紙だけを奪う。
「へ?」
「ライトダケは珍しいなら見つからないかもしれない。依頼失敗は評価性なら避けた方がいい。珍しいものなら依頼じゃなくても材料として買い取ってくれる可能性が高いから、わざわざ依頼を受けなくていいよ」
そう言ってライトダケの仕事依頼の紙を掲示板に戻すリサを見て、パチパチと目を瞬かせたルーリア。
「へー!そうなんだ!」
「出来ないことは安請け合いしない方が身のためだよ。出来ないことは出来ないって言わないと」
「はーい!じゃあね!おっちゃん達!仕事教えてくれてありがとう!」
満面の笑顔でそう言って手を振って離れていったルーリアに残された男達は首を傾げる。
そう言えば、何で俺達は彼女と親しげに話していたのだろう?と。
リサは、ルーリアの後を追いながらその様子を観察していた。
なるほど、ルーリアの情報収集はこうやって行われるのかと。




