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王子様との出逢い





「リサー?どうしたのー?」


「え、ああ、ううん、なんでもない!」



コテンと首をかしげるルーリアに、ルーリアの性格がゲームと違って…なんて電波発言出来ないリサは、慌てて取り繕う。



「そう?」


「うん!」


「そっかー、なら良かった!」


「心配かけてゴメンねぇ」


「いいよいいよー」


「ありがとー!」



明らかに挙動不審だったリサにキャメリアは気付いていたが、目の前で繰り広げられるお花でも舞っていそうなほんわかした雰囲気のやりとりに気が抜けて、深く追及する気が削がれてしまう。

ついつい興味本位で突っ込みそうになったが、気が削がれたとこで冷静さを取り戻し、出会って一時間もしていない人間を追求するなど不躾だと理性がストップをかけたのだ。



「さてと、私は部屋に戻るけど二人はどうするの?」



追及する代わりにそう言えば、リサとルーリアは顔を見合わせ、首をかしげる。



「どうしよっかー」


「どうしよー」



リサとルーリアは、同じ理由で悩んでいた。

そう、乙女ゲーム最初のイベント、メインヒーローのハミルド王太子との出会い。

ゲームでは、ルーリアが学園を案内し、庭園でルーリアが席を離れた時に出会う訳だが、あいにくと細かい時間指定はなかった。

リサは自然を装いつつイベントを回避したかったし、ルーリアはどの時間にハミルドが庭園に行くのかまで把握してなかったので、いつ行けば良いのか悩んでいたのだ。


悩んでいた、が。

ルーリアは早くも考えるのを放棄した。

とりあえず行こう。行って居なかったら足止めしとこう。

早々とそう結論付けたルーリアは早速行動に移した。



「それなら庭園にでも行こっか!」



だがそのルーリアの発言を聞いてリサは、これがイベントの付箋だと思い立った。



「いえ、その前に他の所を案内して欲しいな!」



そして逆にルーリアはリサの発言を聞いて、まだイベントを発動するには時間が早いのだと思った。



「うん、いいよ!」



その後、二人は色んな所を巡り、最後に庭園に来た。


茜色に染まり出した空。

柔らかい風が木を揺らし、葉は紙吹雪のように二人の出会いを祝福するように舞う。

幻想的な風景に佇む少年は美しく、まるで一枚の絵画のようだった。



「君は…」



よく通る声も穏やかで心地好い響きをして居る。


彼女以外にとって。



(スチルの空青かっただろぉぉぉおおおおお!!!!!何仕事してんだ!ゲーム補正!!っざけんなよ、くそったれがぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!

つーか、ルーリアどこ消えやがったぁぁあああああ!!!!!マジざけんな、くそが!!!)



そんな内心おくびにも出さず、イライラするリサは、その反面で冷静に分析していた。



(冷静になれ、私。ここで失敗したらハミルドルート突入の危険性が高まる。さて、どうやってフラグをへし折る?

ハミルドルート=王妃ルートとも言える。要するに国母になれる女じゃないといけない。

逆に国母にしたくない女は?

もちろん税金を私利私欲に湯水のように使う女。国の品位を貶める女。

よくある『婚約破棄ざまぁ』系のヒロイン悪女なら確実に周りも反対するだろうし、分かりやすい。

但し、ハミルドがゲーム補正でバカになった場合、廃嫡や身分剥奪程度なら未だしも、私共々処刑させる可能性もある。

それはイケナイ。

私は死にたくない。

ならどうする?

品位。

そう、国母に相応しくない品位。

それって庶民らしさじゃない?

無礼講をはき違えたバカな庶民。

そう、それだ!!)



1秒にも満たない時間でそう思い立ったリサは、不安げな様子を改め、にこやかにハミルドに挨拶した。



「ああ、私?私はリサ・フェルト。フェルトは村の名前だし、リサでいいよ」



村の男衆を相手にする時のような気安さとぞんざいさで応えた。



「そう。僕はハミルド・ジエルド。僕もジエルドは呼ばれなれないし、ハミルドでいいよ」


「ふーん」



気の抜けた返事をしたリサは、そのまま、もう用はないとばかりにきびすを返し、歩きだそうとした。



「ま、待って!もう少しおしゃべりしよ?」



そうリサの手首を掴みながら、へにゃりと笑うハミルドに、何だか良心が刺激され、物凄く断りづらいが、ハミルドは穏やかな反面、天然で押しが強い所がある。

嫌なことは嫌だと最初に言わなければ、なし崩しで仲良くされる可能性が高い。

少し怖いが仕方ない。


ーガッ


リサは勢いよく手首を自分の方に引き、ハミルドの束縛から逃れると早口で捲し立てる。



「私、友達探してるの。じゃ!」



そう言い終わるか終わらないかの所で走り出した。



(アイツもう一回私に手、伸ばして来やがった!!想像以上に押し強ぇーな!!)



リサの走り去った庭園で舌打ちが一つ響く。



「もっと話したかったんだけどね」


「残念だったな。ハミルド」


「ミルウェン」



庭園の奥から出てきたのは、ハミルドの乳兄弟のミルウェン。



「んー!んー!」


「ああ、悪い。大丈夫か?」


「ごほっ、うぃっす…」



ミルウェンの腕には口を塞がれたルーリアが居り、リサも立ち去り、バシバシと腕を叩き存在を主張した事でやっと解放された。

一応身分は上なので文句は言わなかったが、その目はありありと「ふざけんな!死ぬかと思ったんだからな!」と伝えていた。

小動物が必死に毛を逆立てるような姿は不快感よりも微笑ましさが勝る。



「いやー、ホント悪かったて!なっ!お願い一つ聞くしさ!」


「!それなら、マルンのクッキーが食べたいです!」


「え?そんなんでいいの?」



ミルウェンの言葉にキラキラした目でルーリアがお願いしたのは、王都でも有名なマルンというお店のクッキー。

貴族御用達なお店とはいえ、裕福な平民なら普通に買える代物である。



「そんなもの!?うちの貧乏さ舐めてます!?あれはお誕生日にしか食べれない特別なクッキーなんですよ!!」



クワッと勢いよく詰め寄るルーリアの気迫に押されミルウェンは戸惑ったような微妙な顔をする。



「お、おう、そうか…」


「そうです!」



歴史旧きメルセイ家は、代々お人好しでお金儲けに向かず、税すらも領民に還元しすぎて貧乏な事で有名だったが、まさかそこまでかとミルウェンは苦笑する。



「ルーリア嬢。ミルウェンが申し訳ない。マルンのクッキーは僕がきちんと届けさせるよ」


「ハミルド様!このご恩何と申し上げればよろしいか、言葉もございません」



花が舞っていそうなほどの満面で笑うルーリアにハミルドもミルウェンも思わずつられて笑う。

だが、王太子のハミルドへの挨拶もなく、クッキーをきちんと届けると確約したことへの感謝を述べるのは、本来不敬に近い。

今にも踊り出しそうなほどに無邪気にルーリアが喜んでいるからこそ、二人もその事に目を瞑った。



「もう下がっていいよ」


「はい!ミルウェン様、クッキー忘れないでくださいね!!」


「分かった。分かったよ」


「では、ごきげんよう。ハミルド様、ミルウェン様」



そう言ってスキップしながらルーリアは、庭園を後にした。



「………何というか強烈だったな」



ルーリアの姿が完全に見えなくなったことを確認してミルウェンはそう切りしだした。



「どっちが?」


「両方。

リサ嬢は、ハミルドの“ジエルド”って名字にも驚くもなく、元の性格なのか、関わりたくないからなのかは知らないけど、随分と素っ気ない。

ルーリア嬢は噂には聞いてたが、想像以上に貧乏で、なにより父親そっくりで空気が読めない」


「あー、こっちに全く気付いてなかったね」



そう、ハミルドは女性の好むロマンティックな出会いを作り上げるために庭園に待機していた。

まあ、来るのが夕方近くになるのはいい。

だが、ハミルドとリサのロマンティックな出会いにルーリアは、不要で何とか気付いて退いてくれないかとアピールしようとしたが、その前にリサが気付きそうになり断念すること数回。

諦めたハミルドとミルウェンは、ルーリアをミルウェンが強制的に木の影に引きずり込むことによって、ハミルドとリサ、二人だけの出会いを実現させた。

随分と素っ気ない出会いになってしまったが。



「何というか、一筋縄ではいかない予感だな」


「ホントにね。まあ、精霊姫の加護はそれを差し引いても有り余るくらいの利益があるよ」



そう言って不敵に笑うハミルドにミルウェンは、肩を竦めた。






ルーリア

・原作では空気が読める子だったので、自主的にハミルドと二人っきりにするためにリサを庭園で一人にした出来る子。




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