コンビニ
深夜のコンビニアルバイトでいつものように人がいないためにレジでボーッとしていると、女性が慌てた様子で駆け込んできた。
派手なおばさんだな・・・。一体何なのだろうか? おばさんは僕のほうへ駆け寄ってきて切羽詰まった思いで聞いてきた。
「ごめんなさいアナタ! 私の指輪を知らなくて!?」
「指輪ですか・・・?」
店内で落としたのだろうか? しかし少なくともこんな印象深い人は僕のアルバイト中は見なかったし・・・
日中に気づいたのかな?
「すみません。店内のどのあたりに落としたか見当はつきますか?」
僕は探すためにおばさんに大体の場所を聞く。
しかしおばさんは予想外の答えを出してきた。
「なに言ってるのアナタ!? 外で落としたに決まってるでしょう!? コンビニなんだからアナタ一緒に探しなさい!!」
「え?」
何を言ってるのか分からなかった。店内で落としたわけじゃないならなんで聞いてくるんだよ・・・。
深夜特有の疲れとストレスから若干不機嫌になる。
「アナタ聞こえなかったの? コンビニエンスストアって何でもやってくれるんでしょ? だったら私の指輪を探してちょうだい!」
「あの・・・そういったことはやっておりませんので・・・」
「んまぁ! あなたなにを言っているの! コンビニエンスは便利って意味でしょう? コンビニは便利屋なのでしょう? お金が欲しいならキチンと払いますから探して!」
「いやですから・・・」
「なによ! コンビニっていう店はこんな不親切なところなの!? なんて最悪なのかしら!! 分かったわよ! もう頼まないわ! 夫に言いつけてやるんだから!」
怒ったおばさんはさっさと去ってしまった。
「なんだったんだ一体・・・」
いつもよりも疲れてしまい帰ったあとはビールも飲まずに爆睡してしまった。
朝方、目覚まし時計がなるよりも早く電話が鳴り響いた。
「なんだろ?」
起こされて受話器を取って返事をする。
「ああ、木戸くんかね?」
「あの、はいそうですが・・・」
聞いたこともない声だった。知り合いにこんな渋い声の人はいない。どうして僕の名前を知ってるんだろう?
「木戸くん・・・妻が迷惑をかけたね・・・どうか気にしないでくれたまえ・・・お詫びとして給料をアップしておいたからそれで許してほしい。本当にすまない」
「え、ええ」
何がなんだか訳が分からずとにかく相槌をうった。
電話が終わり、受話器を戻してしばらく考えた。
「バイト変えようかな・・・」