梅岡桃李
続きです。これからじわじわと投稿しようと思います。
本が好きだ。
漫画とかも好きだけど、一番好きなのは図書室とかに置いてある本。芥川龍之介、夏目漱石のようなものから、特に意味もなさそうな雑学が書いてある本、昆虫、動物の生態など、興味を持ったものは片っ端から何でも読む。
その中で特に好きなのが植物図鑑。
きっかけは自分の名前。苗字は「柳」で、幼稚園の時にどんな植物なのか調べた。名前も植物で、「葵」っていう。
「柳葵」、女のようだが、俺はこの名前をわりと気に入っている。
空がオレンジに染まってきた頃、俺はパタン、と本を閉じた。
「あまりおもしろくなかったな……」
今読んでいたのは「桃の花」。内容はそう、なんていうか――どこにでもあるような、ベッタベタな恋愛小説である。せっかく借りたし、途中で読まないでおくのもあれなので、俺は借りた本はちゃんと最後まで読んでいる。しかし、小説は「最初の一行ですべてが決まる」と言うが、俺はそうとは思わない。やはり序盤がどれだけ使い古された展開であっても、最後まで読まなければ面白かったかどうかわからないだろう。
これの次ハリー・ポッターでも読もうかなぁ、そういえば新しい本があったような。
「あの」
二冊目を確認しようと手に取ったところ、不意に声を掛けられ前を見ると、目の前には女子。緑のスリッパを履いているので、自分と同じ二年生だ。
「べ、勉強したくて……どこも人がいて……前、いいですか?」
この人が言うには、自習室は満員、図書室の机には、マナーの悪い運動部や数人で机を占領している人たちがいる。一人分開いていたとしても、座りづらいだろう。それに比べ、俺の座っているところは棚の影になっているので、あまり気づかれない。日光が熱いのがちょっと困るが。
「どうぞ、俺以外いないので」
「……! ありがとう!」
パァ、と曇っていた顔が明るくなる。慌ただしく座り、数学の教科書やノートを取り出し、勉強を始めた。
俺も読書に戻ろう。もう一度「桃の花」を読もうと、手に取った。
「……」
ふむ……。
「……」
なるほど、ここは彼氏がこうするのか。
「う~……」
なんだ、中盤だとかなり奥深いなこの本。
「~~――!!」
ほうほう、やっぱりおもしろさは最後まで読まないとわからな――
ガン!
「うわっ!」
吃驚した……机に突っ伏してるし……。動かないな。
「あの、大丈夫ですか?」
恐る恐る声を掛けてみる。
「――すか」
「はい?」
「何の本、読んでるんですか?」
顎を机につけたまま、そう言った。
「あ、えっと……桃の花、です」
「同じだ……」
「え?」
「名前。私の名前、梅岡桃李っていうの。男みたいでしょ」
確かに。だけど俺も人のことは言えない。
「俺は、柳葵。どう、女みたいでしょ?」
一瞬の沈黙。
「ハハハ、何それ……私達似てるね!」
彼女は笑った。
そしてこの日から、図書室を中心とした二人の関係が始まった。