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銃口の先に  作者: 蛍火
8/15

本選、開始

 私は畳んでおいた膝下までの真っ黒なコートを羽織り、カインスさんに指示された場所に移動していた。

 コンクリートしかなかった予選とは違い、緑の木々に囲まれた空間。


「どうしてこんな場所で、試験をするのかしらね」


 すぐに壊れてしまうのに。


「……でも、手加減はしない。私は兄さんに、逢うの」


 暗い光を灯した瞳で、森の奥を見つめた。

 本選に残った全員が別のところに配置されるから、誰がどこにいるかは解らない。

 私はただ、見つけた人間を殺せばいい。

 たとえそれが、セランやフィゼルであっても。

 落とさないようにと深くなっているポケットに手を突っ込み、弾を六発取り出す。それをリボルバーから出したシリンダーに装填し、ガチャン、と音を発てて戻した。

 いつでも発砲できるように右手で持ち、開始の合図を待つ。

 直後、耳が痛くなるような音が鳴り響き、私は間髪入れずに地面を蹴った。



 ○○○



 自分からは見えやすく、相手からは見えにくいと思われる場所を早々に確保した私は、息を潜めて周囲を警戒していた。


「……」


 とはいえ、すでに敵の包囲網の中なのですが。

 声は出せないので胸の内で零しつつ、敵が武器の関係上襲いかかってこないことに安堵していた。

 少しでも変な動きしたら、一発で殺してあげますけど。

 物騒なことを考えながらも瞳を閉じ、耳を澄ませて音を捉える。すると、ふいに草が擦れる音がした。

 ゆっくりと目を開け、首だけを動かして周囲を探る。そこには、両手剣を構えた男がいた。男も隠れていないわけじゃないが、気配が漏れている。

 接近戦が主体なら、仕方ないわね。

 出来る限り音を発てないように撃鉄を起こした私は、銃口を男に向けたまま静かに動き始めた。体勢を整え、いつでも走り出せるようにする。額に照準を合わせ、少し考えてから下にずらした。

 何かを察知したのか、ふ、と男が視線を外した瞬間。


「っ!」


 リボルバーが火を噴き、撃ち出された弾が男に肉薄する。その結果を観ずに、私は横へと駆けた。

 向かう先は、弾丸を避けるために飛んだ男の着地予想地点――!

 走りながら左手で撃鉄を起こし、男が体勢を整える前に二発目を撃ち出した。


「……やっぱり、一筋縄じゃいかないわね」


 それもぎりぎりで躱されてしまった私は、男の前で立ち止った。

 男は姿を見せた私に、勝ち誇ったように口角を上げた。


「俺の前に姿を見せて、生き残れるとでも思ってんのか? さっきみたいに逃げ回っていれば、少しは長生きできたのによお!」


 男は力強く地面を蹴り、私の目の前に現れる。その勢いを利用して、両手剣を振り下ろした。


「遅い!」


 それを僅かに体勢をずらすことで避け、がら空きになった男の額にリボルバーを打ちつけた。グリップがそこを強打し、鈍い音を発てる。男がよろけている間に後ろに飛んで距離をとり、予定していた場所まで下がると、再びリボルバーを男に向けた。


「馬鹿が! 撃鉄あげなきゃ弾は出ねえよ!」


 嘲笑った男ににやりと笑い、私は引き金を引いた。弾が撃ち出されるのと同時に、私は樹の後ろに身を隠す。その直後。


「ぐっ……!?」


 パアン、と何かが割れる音と、風を切る音。そして男の噛み殺した呻きが聞こえた。

 どさり、と重いものが倒れる音を確認した後、私は樹の後ろから姿を現した。

 目の前に広がっているのは、まさしく地獄絵図だった。

 男を中心に広がる血だまり。男の身体には、ガラスの破片や釘といった鋭利な物が数えきれないほど突き刺さっていた。


「か、くし…て……のか……」


 かろうじて生きているが、もう動けない。

 そう判断した私は、男に歩み寄った。


「――訂正が三つ」


 男を上から見下ろし、言った。


「一つ目。扱う武器はリボルバーですけど、体術ができないわけじゃないのよ。銃だから接近戦ができないと思われるのは、心外だわ」


 リボルバーを撫で、上げた足を男の喉に振り下ろした。


「……っ!」

「二つ目。このリボルバーには、撃鉄を上げて引き金を引くシングルアクションと、引き金を引き切ると撃鉄が上がって落ちるダブルアクションの二つがあります。ダブルアクションは引き金が重くて多少狙いがずれるのが難点だけれど、今回は動かない的でしたから」


 抉るように足を動かすと、男は悶絶した。


「……! ……!?」

「三つ目。貴方をこんな状態にした武器は、私が仕掛けたものではありません。他の敵が仕掛けた罠を、利用させてもらっただけ」


 もう、聞こえてないと思いますが。

 すでに虫の息の男に、撃鉄を上げたリボルバーを向けた。


「この勝負、私の勝ちね」


 弾は、男の額を貫通した。

 僅かに飛んだ血を拭い、足早に男から離れた。足元にも注意を払って、間違っても罠を発動させないように進む。ある茂みの奥を覗くと、弾丸に心臓を貫かれた少女が倒れていた。


「……脈拍なし」


首元に手をやり、生死を確認する。傍に落ちている少女の武器を拾うと、顔を顰めた。

それは瓶で、中に入れられているのは多すぎる爆薬と釘だった。


「ほんっと、えげつない」


 それはおそらく、此処ら一体の地面に埋めてあるのと同型。外部から一定の衝撃を受けると爆発し、その勢いを利用して入れ物であるガラスを割りながら釘を飛ばす。一度でも踏んだら、筋肉をやられて二度と歩くことはできないだろう。


「やっぱり、初めに殺しておいてよかった」


 一度瓶を置き、リボルバーに弾を装填しながら零した。

 男を狙って撃ちだした初弾の本当の目的は、この少女を殺すこと。

 この茂みに隠れていることは此処に着いたときからわかっていたし、よほどのことがなければ動かないだろうということは予測できた。


「これで、二人」


 残っている人数は、私を入れて十人。他でも戦闘が行われているだろうから、もっと少なくなっているはず。

 さあ、次の獲物を狩りに行きましょう。


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