本選、前夜【Side Seran】
…………
金属が擦れあう音がする。
うっすらと瞳を開けると、目の前で銃がばらばらに分解されているのがわかった。
お姉ちゃんのかな?
ぼうっとした視線でそれを見つめていると、後ろの方から声が聞こえてきた。
「……貴方も探している人がいるの? 予想以上に多いのね」
「も? じゃあ、君もなの?」
初めに聞こえたのはお姉ちゃんの声だった。けど、次のは知らない。
だれ、と身じろぐと、動きに気付いたお姉ちゃんがおはよう、と頭を撫でてくれた。
「よく眠れた? あと二時間くらいで始まるから、そろそろ起こそうと思っていたのよ」
「おはよー……お兄ちゃん、だれ?」
お姉ちゃんの横に座っていたのは、優しそうな表情をした男の人だった。
その人はわたしの頭を撫でて、フィゼルだよ、と言った。
「双子の弟を探しているんだ」
「お兄ちゃんも? わたしもお父さんを探してるの」
「え? イリスだけじゃなくて?」
「私が探しているのは兄よ」
多いなあ、とお兄ちゃんは感嘆した。
「というより、そういう人が集まっているのかもしれないわね」
「……そうかも。それくらいの覚悟がなきゃ、命をかけたりなんてできないか」
お姉ちゃんの言葉にお兄ちゃんは頷いて、手元に視線を落とした。
釣られる様に視線を動かし、武器、と呟いた。
「これのことかい? 結構扱いづらいんだけど、名前を付けたら愛着が湧いちゃってさ」
「そういうものよ。私も一緒」
お兄ちゃんが身の丈もあると思われる真っ黒な鎌を撫でると、お姉ちゃんも同意した。
お姉ちゃんはばらばらに分解された銃を磨きながら、愛おしそうに見つめた。
「武器は武器でしかないっていう人が多いけど、私にとって武器は相棒なのよ。同じ物、同じ形でも、違う。これ以外に命は託せない。壊れてしまったら、私が死ぬしかないわ。それは弱さかもしれない。でも、私にとってそれは、強さ。長い間ともに戦ってきてくれた、戦友」
「同じ考え方をしている人がいるのは嬉しいね。この鎌の名前はリエン。名前はなんとなくなんだけど、なんかしっくりきちゃって」
「りえん……」
復唱するように呟き、試験が始まる前に呼んだ本を思い出した。
ずっと昔、多くの線を組み合わせた文字を使っている国が存在していた。わたしが読んだのは、その国で使われていた文字の意味を書いたもの。
離縁
本当の意味は忘れてしまったけれど、繋がりや関係を消す、という意味だった気がする。
本当に、合ってる。
人を殺すそれは、多くの縁を壊してきただろうから。
お姉ちゃんも知っていたのか、ふうん、と面白そうに頷いて、いつの間にか組み立てていたリボルバーに視線を落とした。
「この銃の名前は、蒼紅っていうの」
そうく
蒼の、紅
蒼いボディに巻きつく紅の蔦を見て、納得した。
セランのは、と促してくるお姉ちゃんの視線から逃れるように、わたしは俯いた。
「名前、付けてないから……」
そう零すと、お姉ちゃんは優しくわたしの頭を撫でてくれた。
「別につけなきゃいけないわけじゃないから。セランが付けたくなったときにつければ、ね」
お姉ちゃんの言葉に頷き、ぎゅう、と抱きついた。
あと数時間もすれば、三人のうちの二人が死ぬ。もしかしたら、三人とも死んでしまうかもしれない。
でも、わたしは生き残る。
お父さんに、逢うんだから。
心の中で呟き、お姉ちゃんの暖かな身体に顔を埋めた。
ちょっとだけ文章を修正しました。