予選
撃ち殺した男の傍に寄った私は、投げやりに言葉を放った。
「そこで隠れていても、隙はないと思うけれど?」
行動しないのなら、私が殺しに行くわ。
目を見開いたままの死体を蹴り、感じる視線の先を射抜くように見返した。
すると近くの柱の陰から、細くて長い剣を片手に携えた女性が忌々しげに姿を現した。
「どうして、わかったの?」
「そんなの、貴女が弱いからに決まっているじゃない」
ふふっ、と笑みを零して告げると、激昂した女性が突撃してきた。
「あら、まるで獣ね」
呆れたように嘆息し、撃鉄を上げたリボルバーの先を向けた。
バックステップで下がりながら女性の動きを予測、絶対に避けられないと思った個所に弾を撃ち込む。
直後、パリン、と軽い音が響いて、細剣が砕け散った。
「あら、当たると思いましたのに。意外としぶといのね……」
視線を下げたまま溜息を吐き、正面も見ずにもう一発撃ち出した。
「こんなときに、敵から意識を逸らすわけがないでしょう? あからさまな罠にかからないでくださいな。弱い者いじめをしている気分にさせられます」
悲鳴を上げて倒れ伏した女性を憐れそうに見つめ、割れた剣の破片に頓着することなく近づいた。
撃鉄を上げ、女性の太腿を狙って引き金を引く。すると、上げられていた撃鉄が雷管を叩き、詰められていた火薬を爆発させた。
それによって飛び出した鉛の弾は目の前の肉塊に食らいつき、上がった悲鳴を聞き流しながらもう一度撃鉄をおこした。
中心のシリンダーが少し回る。
カチン、という硬質的な音を聞いて、目の前の女性は震える声で殺さないで、と懇願した。
私は女性の押さえる指の間から溢れる赤、恐怖と涙でぐしゃぐしゃな顔を順にみつめ、表情を変えずに言った。
「私の質問に答えなかったら殺します。嘘をついても、同様に」
女性は怯えながらも、首を何度も縦に振った。
私はそれじゃあ、とリボルバーの先を女性の心臓の位置にあわせた。
「貴女、リリアって子を知っていますか? 空色の髪を、肩まで伸ばした女の子です」
「し、知らない! 会ってもない!」
「そう。じゃあ次。貴女が現在所持している武器は?」
「さっき貴女に折られた刀だけ………本当よ!」
私が引き金に指をかけようとすると、女性は脅えながら叫んだ。
「私の武器はこの刀だけ!」
女性が投げて寄越した剣は、鍔のすぐ上に罅割れが走り、汚く折れていた。
私はそれを一瞥して、女性に視線を戻した。
「そう。もういいわ」
リボルバーを下ろし、踵を返す。そのまま数歩進み、振り返りざまに発砲した。
「な、んで」
「嘘ついたら殺すって、言いましたでしょう?」
嘘を見破るのは、得意なの。
微笑みながら告げると、中腰だった女性は胸に真っ赤な花を咲かせ、目を見開きながら崩れた。
からん、と女性の手から短剣が落ちる。
それに目を細め、近づいて屈むと刀身をなぞった。
「やはり、奪われていたのですね」
綺麗に手入れが施された短剣を拾い上げる。そして、女性の腰の裏に固定されていた鞘を剥ぎ取って収めると、緩く抱きしめ、仇は討ちました、と呟いた。
「貴女はそんなことしなくていいって、いいそうだけれど」
身体中に無数の細い傷跡を刻んで死んでいたリリアが脳裏に蘇り、緩く頭を振って追い出した。
鞘を腰に固定すると、想像以上に違和感があって笑った。
「これが似合うのは、貴女だけですね」
それでも、彼女の形見だから。
直後、卒業試験の予選終了のブザーが響き渡る。
「もうすぐ、です」
私は兄さんの顔を思い浮かべ、腰の鞘に手を這わせた。
大丈夫
私は、死なない
暗示をかけるように呟き、その場を後にした。
そこには三つの骸と、血に塗れた二本の銃、折れた剣だけが残されていた。