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銃口の先に  作者: 蛍火
5/15

予選

 撃ち殺した男の傍に寄った私は、投げやりに言葉を放った。


「そこで隠れていても、隙はないと思うけれど?」


 行動しないのなら、私が殺しに行くわ。

 目を見開いたままの死体を蹴り、感じる視線の先を射抜くように見返した。

 すると近くの柱の陰から、細くて長い剣を片手に携えた女性が忌々しげに姿を現した。


「どうして、わかったの?」

「そんなの、貴女が弱いからに決まっているじゃない」


 ふふっ、と笑みを零して告げると、激昂した女性が突撃してきた。


「あら、まるで獣ね」


 呆れたように嘆息し、撃鉄を上げたリボルバーの先を向けた。

 バックステップで下がりながら女性の動きを予測、絶対に避けられないと思った個所に弾を撃ち込む。

 直後、パリン、と軽い音が響いて、細剣が砕け散った。


「あら、当たると思いましたのに。意外としぶといのね……」


 視線を下げたまま溜息を吐き、正面も見ずにもう一発撃ち出した。


「こんなときに、敵から意識を逸らすわけがないでしょう? あからさまな罠にかからないでくださいな。弱い者いじめをしている気分にさせられます」


 悲鳴を上げて倒れ伏した女性を憐れそうに見つめ、割れた剣の破片に頓着することなく近づいた。

 撃鉄を上げ、女性の太腿を狙って引き金を引く。すると、上げられていた撃鉄が雷管を叩き、詰められていた火薬を爆発させた。

 それによって飛び出した鉛の弾は目の前の肉塊に食らいつき、上がった悲鳴を聞き流しながらもう一度撃鉄をおこした。

 中心のシリンダーが少し回る。

 カチン、という硬質的な音を聞いて、目の前の女性は震える声で殺さないで、と懇願した。

 私は女性の押さえる指の間から溢れる赤、恐怖と涙でぐしゃぐしゃな顔を順にみつめ、表情を変えずに言った。


「私の質問に答えなかったら殺します。嘘をついても、同様に」


 女性は怯えながらも、首を何度も縦に振った。

 私はそれじゃあ、とリボルバーの先を女性の心臓の位置にあわせた。


「貴女、リリアって子を知っていますか? 空色の髪を、肩まで伸ばした女の子です」

「し、知らない! 会ってもない!」

「そう。じゃあ次。貴女が現在所持している武器は?」

「さっき貴女に折られた刀だけ………本当よ!」


 私が引き金に指をかけようとすると、女性は脅えながら叫んだ。


「私の武器はこの刀だけ!」


 女性が投げて寄越した剣は、鍔のすぐ上に罅割れが走り、汚く折れていた。

 私はそれを一瞥して、女性に視線を戻した。


「そう。もういいわ」


 リボルバーを下ろし、踵を返す。そのまま数歩進み、振り返りざまに発砲した。


「な、んで」

「嘘ついたら殺すって、言いましたでしょう?」


 嘘を見破るのは、得意なの。

 微笑みながら告げると、中腰だった女性は胸に真っ赤な花を咲かせ、目を見開きながら崩れた。

 からん、と女性の手から短剣が落ちる。

 それに目を細め、近づいて屈むと刀身をなぞった。


「やはり、奪われていたのですね」


 綺麗に手入れが施された短剣を拾い上げる。そして、女性の腰の裏に固定されていた鞘を剥ぎ取って収めると、緩く抱きしめ、仇は討ちました、と呟いた。


「貴女はそんなことしなくていいって、いいそうだけれど」


 身体中に無数の細い傷跡を刻んで死んでいたリリアが脳裏に蘇り、緩く頭を振って追い出した。

 鞘を腰に固定すると、想像以上に違和感があって笑った。


「これが似合うのは、貴女だけですね」


 それでも、彼女の形見だから。

 直後、卒業試験の予選終了のブザーが響き渡る。


「もうすぐ、です」


 私は兄さんの顔を思い浮かべ、腰の鞘に手を這わせた。



 大丈夫

 私は、死なない



 暗示をかけるように呟き、その場を後にした。

 そこには三つの骸と、血に塗れた二本の銃、折れた剣だけが残されていた。


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