最後の一人
「……訊きたいことがあります」
急所のすぐそばに放たれた弾丸は、予想通りフィゼルの命を奪わなかった。けれど、もう動くことはできず、すぐにでも死ぬだろう。
短剣を鞘に戻した私は、倒れ伏して微かに息をしているフィゼルの心臓にリボルバーを向け、零す様に呟いた。
「フィゼルは人を殺すこと、どう思います?」
「な、に……い、たいの……?」
「そのままの意味です。貴方は人を殺すことに、躊躇いを覚えたことがありますか?」
私の問いにフィゼルは、あるわけない、と顔を歪めた。
「だっ、て……て、き…しょうが、い、ぶつ……でしょ……?」
「……そう、ですか」
貴方達にとって他の人は、こういう認識なのですね。
フィゼルの答えは、私をとても空しい気持ちにした。
『殺された直後の一瞬でもいいから、記憶にとどめてほしい』
ルイスの言葉が、重い。
「貴方は」
呼吸の音すらほとんど聞こえないフィゼルに、最後の問いを投げた。
「私と戦う前に殺した人のことを、憶えていますか?」
別に、名前を求めたわけじゃない。容姿でもいいし、武器でも、最悪性別だけでもよかった。
けれど、返ってきたのは。
「……だれ、…だ……け……?」
憶えてない、と途切れ途切れに言葉にしたフィゼルに、わかりました、と俯いた。
「私は、フィゼルを殺したくない。けれど、ルイスに言われましたから、躊躇いは捨てます。色々、ありがとうございました。貴方のこと、忘れません」
さようなら
ルイスの言った通りだった。
引き金は軽く、狙いはぶれなかった。
「あの時はあれほど、動揺しましたのに」
穴の開いた心臓から溢れる血が、フィゼルを染めていく。
視線を背けるように離れ、リボルバーのシリンダーから空薬莢を取り出した。
新しい銃弾を装填しながら、落ちる雫に苦笑した。
「やはり、知っている人を殺すのは、辛いですね」
それでも、人を殺します。
私にも、叶えたい望みがあるから。
シリンダーを戻し、袖口で涙を拭う。微かにぼやける視界で雲に覆われた空を見上げ、私達が最後ではなかったようですよ、と呟いた。
「まだ、試験が終わっていませんから」
後、何人でしょうか?
直後、勢いよく飛んできた何かがリボルバーを弾き飛ばした。
「っ!? ナイフ……!?」
いきなりの襲撃に、一瞬身体が硬直する。その隙を、突かれた。
宙を切り裂くように飛来した十数ものナイフが、私に襲いかかってくる。咄嗟に避けたものの、少しして、自分の失態に気が付いた。
「っ、これ……!」
私の行動を制限するかのように伸びる細い糸。
セランを宙吊りにしていた、武器。
ナイフに結び付けられていたそれは、他の糸と絡み合いながら縦横に広がり、私の周囲を掌握した。
「しまっ……!?」
右腕に絡む糸の存在に気が付いた時、すでに手遅れだった。
何重にも絡みついた糸は、血が止まるのではないかというほど強く締め付ける。そのまま私の身体を持ち上げた。
ぎりぎりと締め付けられている腕は、早くしないと腐ってしまうだろう。
「誰、ですか……!?」
細いけれど頑丈な糸が集中している樹を強く睨みつけると、その後ろから小柄な体が姿を現した。
「だから後悔するっていったでしょ? お姉ちゃん」
もうすぐ終わります。




