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銃口の先に  作者: 蛍火
10/15

リリアの形見

「……お前さあ」


 呆れた声が私の鼓膜を揺さぶり、はっと我に返った。

 まるで手のかかる子どもを見るような視線を向けた男は、深い溜息を吐いた。


「残弾零って、馬鹿か? 自分が何発撃ったかくらい記憶しとけよ」

「否定、できないわね……」


 私も呆れなのか、男を殺さなくてよかった安堵なのかよくわからない溜息を吐いて、ポケットに手を伸ばした。

 弾を掴み、引き抜く。いつものようにリボルバーのシリンダーから空薬莢を出し、弾を込めようとして――できなかった。


「なにしてんだ? はやくし「無理、よ」


 小刻みに震える手から弾丸が零れ、地面に落ちたそれは高い金属音を放って転がった。

 ぶらり、と垂れ下がった右手から、リボルバーが滑り落ちた。


「おま、何してんだ!?」

「殺せない!」


 男の声に匹敵するほどの声量で叫ぶと、男はいったん口を閉じようとし、強く首を打ち振るった。


「そんなこと言ってたらお前が死ぬんだよ! お前は何のためにこの訓練場に来たんだ!?」

「! ……そ、れは」

「お前の目的を忘れるな! いったい今まで何人殺してきた!? 憶えていないだろう!? その犠牲を、奪った願いを、此処まで来て無駄にするんじゃねえ!」


 男の怒声が私を追い詰める。それに抵抗するように、私は零した。


「でも、……弾が、入れられないのよ……!」

「……別にそのリボルバーじゃなきゃいけないとは言っていない。殺せば、いいんだ」


 男は頭を抱えてしゃがみ込んだ私に、無情にも言い放った。


「その短剣を、突き刺せばいい」

「っ!?」


 勢いよく抑えたリリアの形見は、私の手から熱を奪っていった。


「どうしてわかったのか、っていう顔だな。俺がお前を見つけた時、初めに見えたのがそれだったんだよ。だから、お前の武器は短剣だと思っちまった……わざとかと思っていたが、その反応を見る限り違うみたいだな」


 男の言葉は、私を通り過ぎていった。

 どくん、と鼓動する心臓の音が煩い。

 鎮まれ、と強く胸を抑えた。


「リリアの形見で、殺せっていうの……!?」

「形見だったのか。なら、なおさらだ。そいつで人を殺せば、お前の記憶に残る。リリアって奴のことも、俺のことも」


 それで、俺を殺せ。

 男は凪いだ表情で私を見ていた。


「お前の感情は、人の死を理解できない俺達にとって貴いものだ。こんなところで、失っていいものじゃない」

「……」

「初めは諦めないって、いったけどさ。もうどうしようもないってことくらい、理解してる。このままなら、俺は遠くないうちに死ぬだろう。出血多量か、他の誰かに殺されるのか。わかんねえけど、死ぬならお前に殺されたい。いったろ? 最後の頼みだって。俺を、殺してくれ」


 懇願するような男の声音に、私は短剣を抜いた。両手で強く握っているはずなのに震えるそれを、持ち上げる。そして、同じように震える声で問いかけた。


「私、イリスって、いうの。貴方は……?」


 男は目を瞬き、今までの中で一番綺麗に、笑った。


「俺は、ルイス、だ。……さあ、殺せ! お前の望みを叶えるために!」

「……っ、あ、ああぁああぁあああああっ!」


 勢いよく振り下ろした短剣が、男の、ルイスの心臓に突き刺さる。

 深く、深く。

 刀身が全て見えないほどめり込んだそれは、ルイスの時を、止めた。



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