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いかすみ  作者: 粟吹一夢
第一章 這い寄るタコとクラゲに対するアニヲタイカの生態が明らかに!
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第八話 百合の間、お一人様、ごあんな~い!

 お昼休み。

 私は、自分の席でお弁当箱を広げた。

 自分でお弁当を作ることは、いつも自分の好きなおかずだけを詰め込むことができる訳で、お小遣いアップとで一石二鳥ということだ。

「か、河合さん!」

「うっ! …………ごほっ! ごほっ!」

「だ、大丈夫ですか?」

 突然、呼び掛けられて、口一杯に頬張った一口目のご飯が喉につかえてしまったけど、ご飯粒が気管に侵入することを何とか回避した私が顔を上げると、心配そうな表情をした倉下さんが立っていた。

「う、うん」

「ごめんなさい」

「だ、大丈夫だから。……何?」

「あ、あの、……お、お、お、お弁当を一緒に、た、食べても良いですか?」

「はい?」

 よく見ると、倉下さんはハンカチで包んだお弁当箱を持っていた。

 しかし、その表情には、これからライオンの檻に飛び込むかのような決死の覚悟が、隠しようもなく出ていた。

「どうして?」

 素朴な疑問だ。

「どうしてって?」

「私と一緒にお弁当を食べたい理由は何?」

「理由……ですか?」

「そうよ」

「…………理由が無くっちゃ、駄目なんですか?」

 ――そ、そんなウルウル瞳の上目遣いで私を見るなぁ! 萌えてしまうやろ!

「あえて言えば、……河合さんのことに興味が湧いて、少しお話をさせていただきたいなって思ったんです」

「ホラー映画と同じように、怖いモノ見たさってこと?」

「えっと……、まあ……、そんな感じでしょうか?」

 いや、そこは正直に返すところじゃないだろ!

 ――しかし、人差し指を唇に付けて、少し首を傾げながら、斜め上を眺めて思案する自然な仕草が、いちいち可愛い。……萌える!

 これって、いわゆる百合ってやつ? 私もついに禁断の扉を開いてしまったのかあ?

 私も倉下さんをもっと近くで眺めたくなった。

「良いよ。一緒に食べよう」

「ありがとうございます!」

「同級生にお礼なんて言わないでよ」

「す、すみません」

 倉下さんは、私の前の席の椅子を反対向きにして、私と向き合うようにして座ると、お弁当箱を広げた。

 私のお弁当は、自分で作って自分で食べるだけで、人に見せることは想定していないから、ウインナーのタコも、リンゴのうさぎもいなかった。

 倉下さんのお弁当も、ふきの煮物とか、きんぴらゴボウが詰められていて、女子高生のお弁当としては、質素な感じがした。

「倉下さんは野菜系のおかずが好きなの?」

「はい?」

「お弁当のおかずが、何か、ヘルシーだなって思って」

「ああ、このお弁当はお婆ちゃんが作ってくれているので」

「そう言えば、お婆ちゃんと暮らしているって言ってたね」

「はい、今は、お婆ちゃんと二人暮らしです。河合さんのお弁当はお母さんが作られているんですか?」

「ううん。自分で作ってる」

「本当ですか? すごい!」

「何かな、その反応は?」

「あっ、すみません」

「別に責めてないから。……もう分かってると思うけど、私、こう言う口の利き方しかできないから気にしないで」

「いえ、……でも、お弁当を作られるなんて、正直、ちょっと意外でした」

「まあ、よく言われる」

「うふふふ。河合さんって、本当は面白い方なんですね」

「それは言われたことない」

「うふふふ」

 倉下さんは、笑って少し気が楽になったようで、びくついていた表情が少し緩んだ。

「河合さん」

「何?」

「あ、あの、……一昨日おとといは、ありがとうございました」

「お礼なら、その時に、もらった気がするけど」

「一昨日のお礼は、助けてもらったお礼で、今のお礼は、私に本音で意見をしてくれたことへのお礼です」

「えっ?」

「一昨日、河合さんが言ってくれた『八方美人でいたいのか』ってことです」

「まあ、確かに本音では言ったけど?」

「河合さんに、そんなことじゃあ、『結局、友達を無くす』って言われて気づいたんです。私、人から嫌われないようにしていただけで、人と仲良くなることをしてなかったんだって」

「……」

「一昨日だって、有名な芸能人の方のサインとかもらえる訳ないのに、嫌われるのが怖くて、はっきり断れなかったんです」

「自分で自分の首を絞めてどうするのよ」

「本当、そうですよね。中学の時なんかは、そのうちにとか、曖昧あいまいな返事でお茶を濁していたら、いつの間にか頼まれなくなったので、たぶん、今回もそんな感じで逃げ切れると思ってたんです」

「頼まれなくなったのは、みんながあなたを見限ったからでしょ。あなたに頼んでも無駄だって」

「そうですよね。それなのに、それをはっきり言われなかったことで、嫌われないで済んだって、安心してたんです」

「おめでたいのね」

「ふふふふ」

「何?」

「河合さんの真っ直ぐな言われ方が、何か気持ち良くって」

 ――美少女なのにM属性?

「河合さんみたいに、本音で意見してくれるような人は、今まで近くにいなかったので、一昨日は、ちょっとショックを受けましたけど、あれから、ずっと考えていたら、河合さんと仲良くなりたいって思い始めたんです」

「えっと、……その論理展開は理解できないんだけど。どうして、そうなるの?」

「河合さんって、きっと心が温かい人なんだろうなって思ったんです。本音で意見をしてくれるということは、その人のことを本気で思いやってないとしないですよね?」

「何か誤解してる。私は、あなたのことを思いやって言ったんじゃなくて、単純に、あなたの考え方に腹が立ったから怒っただけよ」

「でも、人のことに無関心なら怒ったりしませんよ」

「……」

「私、今まで、人と上辺うわべだけの付き合いしかしてこなかったって気づいたんです。でも、河合さんとは、本音のお付き合いができるような気がしたんです」

「……」

「だから、河合さんと友達になりたくて」

「ちょっと待ったぁ! 私を友達にしても全然面白くないよ」

「どうしてですか? 少なくとも、私は面白いです」

「……」

「ご迷惑ですか?」

 ――だから、そのウルウル瞳は反則だ!

「め、迷惑なんかじゃないよ」

「本当ですか?」

「本当! 私が自分の気持ちと違うことを言わない人間だってことは、もう分かっているでしょう?」

「そうでした」

「倉下さん」

「はい」

「私は、自分がやりたいことを邪魔されることが一番、嫌なの。私の邪魔をしないって誓ってくれるのなら、そ、その……、友達になってあげても良いよ」

「はい! 河合さんの邪魔なんて、怖くてできません!」

「あんだって?」

「……か、河合さんの困るようなことはしません」

 どうやら、倉下さんは、今が旬の天然モノらしい。

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