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いかすみ  作者: 粟吹一夢
第二章 イカ、タコ、クラゲ、そしてナマコ! みんな骨が無いから、するりと仲間に入り込める!
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第十八話 美味さ爆発! イカも爆発!

 よく考えてみれば、数学のテストが一週間後に迫っていた。

 うちのクラスの担任でもある数学の浜田先生は、見た目は優しいおじさんなのに、テスト魔という正体が判明するのに、そんなに時間は掛からなかった。

 アニメックなんかに行っている暇は無いのだが、約束は約束だ。

 な~んて、自分で言い訳を作っている感もあるけど、今日も私は、昨日に引き続き、アニメックに寄るべく、放課後、くらちゃんと生田いくたさんと一緒に池梟駅いけふくろうえきへの道を歩いていた。

 何だかんだ言って、生田さんはその強引な割り込みスキルで、くらちゃんとも旧知の仲のように話をしていた。

「倉下は化粧とかしないのか?」

「ほとんどしてないですよ。化粧水とか付けるだけです」

「そうなのか? どうしたらそんなに綺麗な肌でいられるんだ?」

「これと言って、特別なことはしてないですけど」

「そうなのか。……河合も意外と肌が綺麗なんだな」

「えっ、そんなこと初めて言われた」

「私も前から、かすみんのお肌って、白くて綺麗だなって思ってたんですよ」

「そもそも、私は、化粧だって、お肌のケアだってしたことないし」

 唯一、思いつくことと言えば、部屋に引きもって、ずっとイラストを描いているから、吸血鬼並みに日光を浴びてないことくらいだ。

「ほっぺもぷにぷにしてそうだよな」

 そう言うと、生田さんは私のほっぺを人差し指でつんつんとしてきた。

「ちょっと! 生田さん! かすみんのほっぺを、私の許可無く、そんなことしちゃ駄目ですよ!」

 いつから、くらちゃんの許可が必要になった?

「良いじゃないかよ。気持ち良いぜ」

「本当ですか? ……本当だ! かすみんのほっぺって柔らかくて気持ち良い」

「あんたら! 人のほっぺたで遊ぶんじゃない!」

 左右からほっぺをつんつんされて、ムンクの「叫び」のような顔になっていた私は、二人の手を払い除けた。

「それより、生田さん。約束は忘れてないよね?」

「オレが琥太郎を譲り受けるって約束か?」

「違う! って、そもそも喜多君は私の持ち物じゃないから」

「何だっけ?」

「レアチーズケーキをご馳走してくれるんじゃなかったの?」

「ああ、忘れてたよ」

「おい!」

「嘘だよお~。河合は、どこか、行きたい店はあるのか?」

 自分の家の近くのケーキ屋さんくらいしか思い当たらなかったけど、そこまで生田さんを連れて行く訳にもいかないし……。

「くらちゃん、池梟駅いけふくろうえきの周辺でレアチーズケーキが美味おいしいお店って知らない?」

「そうですねえ。私もあまりそう言ったお店に入らないので、……あっ、でも、私がバイトしているトトールコーヒーのレアチーズケーキも美味おいしいって評判ですよ」

「そうなの? 今日は、くらちゃん、バイトの日だよね?」

「はい。いらっしゃいますか?」

「うん。生田さん。今日、その約束を果たしてもらって良い?」

「ああ、良いぜ」

「じゃあ、アニメックに寄ってから行くよ」

「はい! 待ってます!」



 アニメックにやって来た私は、生田さんと一緒にDVDコーナーにやって来た。

 昨日、生田さんは、家に帰ってから「馬物語」のポスターを三時間ほどじっくりと眺めていたそうで、アニメそのものも見たくなったとのこと。

 でも、ポスターを眺めていて、生田さんの脳裏に浮かんだのは、そのキャラ達ではなく、きっと喜多君の顔だろう。

「河合。せっかくだから、他のアニメの説明もしてくれ」

「他のアニメ?」

「琥太郎は、『熱宮あつみやナツヒの憂鬱ゆううつ』と『ドラドラ』ってアニメも好きなんだと」

「ああ、そう言ってたね」

「何で、河合が知ってるんだよ?」

「にらまなくても良いでしょ! アニメ好き同士の話の中で出て来ただけだよ」

「ああ、そうか。……でも、河合は良いよな。そうやって、琥太郎といっぱい話ができて」

「……アニメの話だけだよ」

「当たり前だ! 甘いささやきなんかしてたら、殺すからな!」

「物騒なこと言うな!」

「とりあえず、『ドラドラ』って、どんなアニメなんだ?」

「え~と、確か、あっちにDVDがあったと思うけど」

 私が隣の棚に移動しようと少し後ろに下がった時に、背中が誰かとぶつかった。

「あっ、すみません」

 振り向いた私をびっくりしたような顔の谷君が見つめていた。

「あれっ、……谷君?」

「……や、やあ」

「今日、部活は?」

「テ、テストに向けて、ちょっと休みをもらったんだ」

「せっかく部活を休んでいるのに、勉強せずにアニメックに来てるの?」

「いや、あ、あの、久しぶりに早く帰れたから、喜多がいつも話しているアニメックって、どんなところなのかなって思って、ちょっと見に来ただけ。すぐに帰って勉強するよ」

「じゃあ、一人? 喜多君と一緒じゃないの?」

「今日は一人だよ。そ、それじゃあ」

 オドオドとしているように見えた谷君は、私達の前から慌てて去って行った。

「誰?」

「ああ、谷君と言って、同じクラスの子。喜多君と幼馴染みで仲が良いみたいよ」

「何! それを早く言えよ! 外堀を埋めるためには、あいつも攻略対象になるかもしれないんだからな」

 生田さんの頭の中では、喜多君攻略のために、どんなプロジェクトが進行してるのだろう?



 結局、当初の予定どおり、「馬物語」のDVD第一巻を購入した生田さんと私は、駅の反対側まで戻って、その駅前にあるトトールコーヒーにやって来た。

 そんなに広くはないけど、洗練されたインテリアの可愛いお店だった。

「いらっしゃいませ!」

 注文カウンターの女性が笑顔で迎えてくれた。

 その女性の後ろに、店の制服姿のくらちゃんがいた。

 男性のお客さんの注文を間違えてばかりだったから、飲み物を作る係に交替させられたらしい。

 ――白いブラウスに黒のベストの制服姿のくらちゃんに萌える!

「えっと、河合?」

「何?」

「どうやって注文するんだ?」

「えっ? ……トトールコーヒーにも来たことないの?」

「だから、一緒にコーヒーを飲むような友達は、今までいなかったから」

 ――そのKYぶりじゃ、当然かも。

 もっとも、私だって母親か姉の買い物の荷物持ちとして無理矢理つき合わされた時に、休憩をしに入ったくらいだ。

「じゃあ、私から注文するよ」

「ああ、河合は何を頼むんだ?」

「アイスカフェラテのLサイズに、レアチーズケーキ三個!」

「ちょっと待て! 三個って、食べ過ぎだろ!」

「何個までなんて制限されてなかっただろ?」

「三個も食べたら太るぜ」

「ご心配なく。私はいくら食べても縦にも横にも伸びない体質なんだよ」

「お前は、『遠慮』という言葉は習わなかったのか?」

「忘れた」

「鬼畜!」

「何とでも言うが良い!」

 生田さんは自分の財布の中を見ながら、自分用には、アイスカフェラテのSサイズを注文した。

 くらちゃんが、思ったよりも手際てぎわ良く飲み物を作って、レアチーズケーキ三個と一緒に手渡しコーナーまで持って来てくれた。

「かすみん、三個も大丈夫なんですか?」

「全然、余裕よ! でも、くらちゃん、ちゃんとしてるじゃない」

「してますよぉ~。ここのバイトさんは女性限定ですし、注文係ではなくなったので」

 確かに店員さんは女性しかいなかった。

「じゃあ、くらちゃん、また後でね」

「はい! ごゆっくり」

 私と生田さんは、小さな丸いテーブルに向かい合って座った。

「じゃあ、いただきます」

「どっうっぞっ!」

「生田さんさあ、もっと明るく言ってよ。何か、私が無理矢理、おごらせたみたいじゃない」

「精一杯、明るく言ってるんだけどな!」

「あっ、そう。……う~ん、美味おいしい! くらちゃんの言ってたとおりだ」

「そう、それは良かったね」

「うんうん。本当に良かったよ。……生田さんも食べる?」

「私は、……食べない」

「ダイエット中?」

「ちょっとね」

 あっと言う間に、二つのレアチーズケーキを平らげた私は、余裕で三つ目に取り掛かった。

 でも、あまりいじめてあげるのも可哀想になってきたので、普通に話をしてあげよう。

「生田さん」

「何だよ?」

「第一回目の実力テストでトップだったよね?」

「ああ」

「どうして、うちの高校に入ったの? もっと偏差値の高い学校にも入れたんじゃない?」

「いや、秀才高校で一般ピープルでいるより、凡庸ぼんよう高校で一番を取る方が気持ち良いに決まってる」

「凡庸高校って……。ようは目立ちたいってこと?」

「そうさ。オレは高校に入って変わったんだ」

「変わった?」

「ああ」

「どんな風に?」

「それは、……か、河合には関係無いだろ!」

「まあ、そうね」

「あれっ、……生田?」

 驚いた生田さんの視線の先を追い掛けるように後ろを振り向くと、そこには見知らぬ制服を着た女子高生らしき女の子が二人、カップを乗せたトレーを持って立っていた。

「やっぱり、生田じゃん! 髪染めてるから、誰だか分からなかったぜ」

「高校に入って、いきなりグレてんのかよ?」

「それに何だよ、そのケバい化粧は?」

「チョー受ける」

「どうせ、また、KYぶりを発揮してるんだろ?」

「そうそう。ガリ勉はガリ勉らしく、ださい格好してたら良いんだよ!」

 二人の女子高生の笑い声は、明らかに生田さんを馬鹿にしていた。

 当の生田さんは、顔を真っ赤にしてうつむいていた。よく見ると、生田さんの目には涙が一杯溜まっていた。

 ――はあ~、やっぱり出て来た。私の持病が。

 私は立ち上がり、振り向いて、二人の女子高生をにらんだ。

「ちょっと! 人のことをいきなり笑うってどういうこと?」

「誰、あんた? 生田の友達?」

「やっぱり、だせえ~。類は友を呼ぶだよな」

「本当本当。はははははは」

 こめかみの血管がぶち切れる音がした。

「あんたらのほうがよっぽどだせえよ! 人をけなすことしかできない単細胞か!」

 私の大声に、店内の客の視線が私達に集まった。

 女子高生二人もさすがに決まりが悪くなったようで、ぶつぶつと文句を言いながらも、すごすごと店を出て行った。

「かすみん、大丈夫?」

 くらちゃんの声で我に返ると、くらちゃんが心配そうな顔をして近くに立っていた。

「あっ、私は大丈夫。 ……って言うか、お店に迷惑掛けちゃって、ごめん」

「いえ、あ、あの、大丈夫だから」

「うん。ありがとう、くらちゃん」

 私が椅子に座ると、生田さんと目が合った。

「あっ、ごめん」

 思わず謝ってしまった私を、不思議そうな顔をした生田さんが見つめていた。

「どうして、お前が怒るんだよ?」

「ああ、……これ、病気だから気にしないで」

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