第十一話 大激論! ラノベにエッチシーンは必要不可欠なのか?
喜多君とアニメやラノベの話をすることが楽しい。
それは自分でも認めざるを得ないけど、それを当の本人に向かって言うことは、何だか恥ずかしかった私は、話題を元に戻した。
「ラノベのエッチシーンのことを話していたんじゃなかったっけ?」
「ああ、そうだったね」
「ストーリーの流れに全然関係しないエッチシーンも多いと思うけど」
「確かに、そんなシーンを多用しているラノベやアニメもある。でも、そのシーンがまったく不必要なのかって言うと、そうじゃないと思うんだ」
「そうかな~。何で裸なのって、どう考えても、おかしなシーンもあるじゃない」
「でもさ、それで主人公とヒロインの距離が縮まっているんだよ」
「裸にならないと、二人の距離が縮まらないの? そんなのおかしい!」
「もちろん、それ以外の方法もあるけど、いくつか選択肢があるのなら、読者の喜ぶようなシーンを出した方が良いに決まってる」
「やっぱり、単なる読者サービスなんだ」
「違うって! ストーリーと何の関係も無いところで、ヒロインを裸になんかしないよ」
「でも、喜多君もエッチシーンが好きなんでしょ?」
「まあ、嫌いじゃないけど、……って言うか、好きな女の子とのエッチなことを考えない男っていないでしょ?」
「喜多君も?」
「もちろん!」
「堂々のスケベ宣言?」
「ああ、僕はスケベだよ。でも、それは好きな女の子に対してだけであって、女の子なら誰でも良いって訳じゃないから!」
「格好良いことを言ってるみたいだけど、結局、体が目当てなんじゃないかって思ってしまう」
「だから違うよ! 男って、その女の子が好きだという感情が溢れてくると、その子の全部が欲しいって思うの! それは正常な感情であって、そう思わない男の方が異常だと僕は思うけどな」
「ラノベは、その正常な感情を正確に描写しているってこと?」
「そう思うよ。ただ、ラノベだと、その女の子が好きだという感情が溢れるまでが、ページ数なんかの関係で縮小されているから、唐突に思えるだけなんだよ」
「じゃあ、フェアリー・ブレードにも、これからエッチなシーンが出て来るの?」
「これから出てくる予定だよ。その時は、思いっ切り、エッチな挿絵をよろしくね」
「エ、エッチなイラストは描かないからな!」
「いかすみさんのエッチなイラスト、絶対、萌えると思うんだけどなあ」
「あんたの願望を満たすだけの、エッチなイラストを誰が描くか!」
「何でさ~! 僕だけじゃなくて、読者さんみんなが待ってるはずだよ」
「エッチなイラストは描かないから! 絶対に!」
「え~、描いてよ~」
「嫌だ!」
「エッチなイラストを描くと、絵の幅も広がると思うけどな」
「エッチなイラストで広がるのは、あんたの鼻の穴と妄想だけでしょ!」
「本当に広げてほしいよ」
「へ、変態!」
「変態じゃない!」
「変態じゃないエッチ変態!」
「意味分かんないし」
「じゃあ、ただのエッチ魔!」
「ただのってどういう意味だよ?」
「それじゃあ、エッチを司るエッチ大魔王!」
「グレードアップされても嬉しくない!」
「じゃあ、伝説のエロマスター!」
「何の伝説だよ?」
「それじゃあ……」
「お客様」
「今、取り込み中です!」
「あ、あの、お客様」
「だから、今、それどころじゃないんです!」
「あ、あの、すみません」
「何ですか?」
二人が揃って声のした方を見ると、困った顔をした店員が立ち尽くしていた。
「あ、あの~、他のお客様のご迷惑になりますので、大きな声で、エッチがどうのこうのと言うことは、ご遠慮していただけないでしょうか?」
「あっ…………」
私と喜多君は思わず顔を見合わせた後、無言になって、足早にアニメックから出て行った。
「まったく! 喜多君のせいで、しばらく、アニメックに行けなくなっちゃったじゃない!」
「僕のせいなの?」
「そう! 喜多君のせい!」
私は、プイと喜多君に背中を向けると、駅に向かって歩き出した。
「あっ、待ってよ、河合さん」
「何? まだ何か用? 私、もう帰るんだけど」
「駅に行くんでしょ? 僕も同じ方向だから」
そう言えば、喜多君は池梟駅の近くに住んでいるんだった。
「二人とも、池梟駅から学校まで同じ道なんだから、明日から一緒に登下校しようか?」
「残念でした。登下校は、倉下さんと一緒にするって約束してるから」
倉下シールドが、早速、役に立った。
「明日からも?」
「そう」
「あ~あっ! 河合さんともっともっと話をしたいけどなあ」
私は立ち止まり、同じく立ち止まった喜多君を正面から見た。
「喜多君。私は、……リアルでもネットでも、喜多君と話をする時間を今以上に増やすことはできない」
「えっ、どうして?」
「私は、もっとイラストを描きたいの! 描いて、描いて、描いて……。もっと上手くなりたいの! それと、……雷撃大賞にも応募をしたいって思ってる! 自分の力を試したい。自分の描いたイラストがどれだけの力を持っているのかを知りたい! だから、私にはイラストを描く時間がもっと必要なの!」
「僕が邪魔?」
「私からイラストを描く時間を奪ってしまうのなら、……邪魔だ」
「そんなことはしない。だって、僕は、いかすみさんのイラストが好きだし、いかすみさんが描くキャラクターが好きだ。そんな、いかすみさんのイラストをもっと多くの人達に見てもらいたいって思ってる。だから、いかすみさんの邪魔はしないし、むしろ応援したい」
「……」
「そして、そんな僕の好きなイラストを描くいかすみさんも好きだ」
「えっ?」
「いかすみさんとは、いや、河合さんとは、これからも、今日のようにアニメの話とかをいっぱいしたい。でも、河合さんの邪魔はしたくないから、僕が邪魔だと思ったら、すぐに言って。河合さんなら遠慮せずに言ってくれると思うけど」
「うん。……言う」
「なら、それで良いじゃない。つまり、リアルでの僕と河合さんとの関係は、好きなアニメの話を思いっ切りできるクラスメイトの友達で、だけど、邪魔なら邪魔とはっきり言って、お互いの創作活動の邪魔はしない。これでどう?」
「……異議無し」
「合意成立だね」
「……うん」
「あっ、でも、雷撃大賞用のイラストも描くってことは、フェアリー・ブレードの挿絵を描く時間は無くなっちゃうのかな?」
「ううん。喜多君とのネットでの関係は、今までどおり続けたいって思ってる。フェアリー・ブレードの挿絵もちゃんと続けるから」
「良かった。ありがとう。……実は、僕も雷撃大賞用に新作を書いているんだ。僕も自分が書いた小説がどれだけの人を楽しませることができるのかを知りたいって思ってさ」
「喜多君も……」
「うん。だから、お互い、頑張ろう!」
「……うん」
――何だろう?
これまでも、フォロワーさんとかから、メールやツイートで応援をしてもらったことは何回もあるけど、実際に声に出して励ましてもらったのは初めてだ。
同じことだと思っていたけど……。
家に帰ると、私は早速、ツイッターにログインして「くらげ」なる人物を捜した。
『女優になるのが夢のJKで~す! アニメも好きなので声優さんでも良いかなあ~♪ 絶対、夢を叶えて、あなたのそばに這い寄っちゃうぞ☆ きゃっぴ!』
「…………倉下さん、恐るべし」
このプロフィールだけ読むと、キャピキャピでイケイケの女子高生にしか思えないぞ。
でも、倉下さんもアニメが好きだったんだ。今度、アニメックに誘ってみようかな。
フォロワーさんは、確かに五千人以上いた。これだけいれば、一人や二人増えても分からないだろうと、私はくらげさんをフォローバックした。




