季節外れの花は散る
俺は病院の手術室前の横長ソファに椿と二人で座っていた。
椿は俺と別れた直後に車に跳ねられた。
本当に直後だったから、俺もすぐ何かあった事には気付いた。椿に言われて現状を把握したんだからな。
そして現在、椿いわくもう体は助からないらしい。
だが俺は信じられない。
何故なら俺の横に椿が居るからだ。たまに、大切な人には霊が見えると言うが、この椿は触れるんだ。
しかし、手術室の中で治療を受けているのも椿で、コイツを弾いた車の前に椿の体が血まみれで倒れて居るのを確認した。
そしてこれが今、手術室の前の俺と椿の会話だ。
「なぁ椿」
「何?」
「もう一度聞く。お前は本当に死んだんだな?」
「.....その筈........」
「じゃあここに居る、俺と話してるお前は?」
「えっと....オバケ?」
「そうか....」
「・・・・」
「でもよ、医者が手術室って事はまだ助かる可能性はあんだろ?」
「無いとは言い切れないけど.....私はお医者さんじゃ無いから解んないよ.....」
「そうか....希望は高く持とうぜ」
俺は笑顔とガッツポーズを見せたが、椿からは一回頷いただけで、暗い表情しか伺えなかった。
それから会話も無く小一時間が過ぎ、手術室から白衣のオッサンが出てきた。恐らく椿が助かった事を伝えに出て来たんだろう。
「夏野椿さんですが、」
オイ待てよ、ですがって何だよ。
「全力は尽くしましたが....私が見た時は既に」
椿が怯えた顔してる。変な事言いやがったらこのオッサン殺す。
その時、医者の口から出た言葉は俺の理性を焼き尽くした。
「もう、手遅れでした」
「ふざけんじゃねぇぞクソ野郎!!」
俺が突然放った大声に椿はビクッと肩を動かし、固まっていた。
そんな椿をよそめに俺は医者の胸ぐらを掴んでいた。
「テメェ、何が手遅れだ!テメェも医者だろ!何とかしてみやがれコラァ!!」
手術室に入れられた以上は助かると希望を持った分、落とされた衝撃はデカかった。
椿は怯え固まり、医者も動かない。
「何とか言えよこの野郎っ!!」
「だめぇっ!!」
俺が拳を振り上げた時、椿は俺にしがみつき、俺はピタッと停止した。
医者は不思議そうな顔してやがる。
「その人は悪く無いよ、殴っちゃ駄目だよぉ」
椿は泣きながら俺に言い聞かせた。
俺が落ち着きかけた時、医者に
「どうしたんだい?」
と聞かれた。
「ハ?」
「突然止まる物だから...」
「コイツが止めてくれたんだよ。見えなかったのか?」
「誰か居るのかな?」
オイオイ、マジかよ。
「ホラ、ここに居んだろ?」
俺は椿の肩を掴み、前に出した。
「疲れているんじゃないか?今夜は病室で休みなさい」
「ふざけんのも大概にしろよ?椿がここに居んだろうが!!」
「夏野、椿さんかい?」
「そうだ、夏野椿だ!ここに居んだろ!!」
「看護婦さんに、病室へ連れて行って貰いなさい」
マジかよ、椿は俺にしか見えないってのか?本当に幽霊なのかよ。
その日は、椿の遺体の横で、二人の椿と一緒に眠った。死体の椿と、幽霊の椿....
医者の治療も虚しく、幽霊となってしまった椿。
最愛の人を失った悲しみは、霊の椿が居ても鋼二の精神を蝕む。
この先に待ち構える苦難は....