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民の望んだ皇妃  作者: 界軌
本編
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9.重臣~期望

 宰相が召集した重臣会議の場所は、大会議場ではなかった。重臣の人数分席が用意された楕円形の円卓が置かれた専用の会議場だ。


 既に皇帝と宰相を除いた全員が席についていた。


 重臣の席は殆どが有力貴族で占められているが、もちろん例外もある。


 一席は外交大臣。もう一席は医薬局大臣。二人は平民の出だ。そして、もう一席は騎士団総長。彼は貴族ではあるが弱小の分家の出身で、実力を認められて本家に養子として迎えられたという経歴を持つ、いわゆる『成り上がり』だ。


 外交大臣はその任に当たり、海を越えた国に出向いている為、欠席している。


 医薬局大臣は白衣に似た白い上着を身につけ、神経質そうに眉を寄せて座っていた。


 騎士団総長はというと、あらぬ方向を見て、何が楽しいのかにやにやと笑っていた。


 その他の者は大方が口元を緩めて、城を出て行ったという皇妃について小声で話していた。


「ああ、これでようやくあの庶民くさい考え方が城内から消え去りましたな」


「全く。医療制度の拡充だの街道舗装の推進だの、庶民の理論をこちらに押し付けられては、参りましたからな」


 医療は貴族のもの、国家事業は貴族の為。そんな考え方が未だに貴族たちの中には根強く息づいている。


 これまでは、皇妃フェリシエの出自を上げ連ねて悪し様に言う事が出来なかった。なぜなら彼女は皇帝ノールディン自らが選んだ皇妃だったからだ。しかし今ではその頃の鬱憤うっぷんを晴らすような内容をはっきりと口にしていた。


 そうかと思えば、財務大臣の一人であり、側妃ユーシャナの父であるオルバスティン公爵に擦り寄るように話しかける者もいる。


「次の皇妃様はもちろん、ユーシャナ様でしょうな」


「あのように謙虚な姿勢で、貴族として教養も完璧。あの方程皇妃陛下として相応しい方もいらっしゃらないでしょう」


 オルバスティン公爵も悪い気はしていないのか、真面目くさった顔で「気の早いお話です」と言うが、口元が時折歪んでいた。


 そのうち誰かが嫌な笑いと共に呟いた。


「全く宰相閣下には感謝しきりですな」


 追従するように笑いの波が起き、さざ波の様に室内に広まった。


 やがて高らかなノックの音が響き、衛兵が室内に入ってきた。


「皇帝陛下が御入室されます!」


 部屋に集った重臣が一斉に立ち上がる。


 近衛騎士団長ハインセルと宰相を連れた皇帝ノールディンが入室すれば、室内の空気が一変した。


 冬の冴えた空気が流れ込んだように皆の背筋が伸び、顔が自然に引き締まる。


 控えていた侍従が引いた椅子の前に立って重臣たちを一瞥した皇帝に、全員が深く礼をする。


 彼が席に座ってようやく皆が腰を下ろした。


 口火を切ったのは宰相だった。


「此度、皇帝陛下並びに重臣の皆に集まって頂いたのは他でもない、皇妃フェリシエ様が城を出られた件について説明する必要があった為です」


「簡単な話でしょう。フェリシエ殿は皇妃を辞められた。城を出られた。それだけですね。何を説明すると?」


 運輸大臣が、細い髭を撫でながら言った。


 フェリシエへの敬称も『様』から『殿』に変わっている。


「あまり浅はかな物言いはなされるな」


 決して強くは無いが、運輸大臣を黙らせるに足りる声で宰相が彼を諌めた。


「皇妃を辞めたと言われたが、誰がそれを公表したというのでしょう?」


 続く言葉に、運輸大臣は自分の失言に気付き、顔をかっと赤くして俯いた。


 確かに皇妃フェリシエは皇帝に離縁を告げたが、それを皇帝自身が了承した事実も無ければ、公表などしてもいない。緘口令が出たことからもわかるように、離縁の話が出たことさえ城内で留め置かれているのだ。そんな内容を決定事項のように言うのは、たとえ誰もがそう思っていたとしても、あってはならないことだ。


「皇妃様は昨日私の元を訪れ、『明日城を出る』と言われました。お急ぎになる理由を問えば、『新しい皇妃陛下のお披露目の為』と」


 成る程、と言った顔をしたのは数人だった。残りは訳が分からず首を傾げている。


「新しい皇妃陛下のお披露目の場として皇帝陛下の誕生祭が相応しいと判断されたそうです」


 全員が納得の表情を見せた。


「そこまで考えて城を去る決意をされた方を、私は引き止める事は出来ませんでした。騒がれずに出られるように手引きしたのも私です。勝手な行動だったことは重々承知しております故、どうぞ、ご処分の方を宜しくお願い致します」


 最後の一言は皇帝の方を向いて言った。深く一礼し、言葉を待つ。


 皇帝の答えは無い。


 宰相は顔を上げて彼を見たが、正面を向いたままの皇帝の横顔は感情が読み取れない。


「内容にしてしまえばそれだけです。この召集は、皇妃様のお考えを重臣一同が知るべき、と考えた為です。私の責任についてもそうです」


 全てをつまびらかにし、その上で納得の行く判断を皇帝に求めたかった。









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