66.手紙〜哀切
「ユーシャナ様、が、どうして……」
スウリは震える指で会員名簿の頁を捲り、最初の頁まで戻った。
エルディーザから順番に、会員番号一番、二番と辿っていく。
そうして、会員番号三十三番に『ユーシャナ・オルバスティン』の名前を見つけた。
再び手紙の方に頁を戻す。
二通程、皇妃フェリシエとの交流の話題で埋まった手紙があった。
ところが、四通目の手紙はところどころ縒れて、字もこれまでの手紙よりずっと乱れている。
始まりは他と同じ、『エルディーザ・オルナド・バーリク様』から始まっていた。
『エルディーザ・オルナド・バーリク様
お父様から、皇帝陛下の側妃として城に上がるように申し付けられました。
……どうして私なのでしょう!?
お父様は、陛下から直々にお言葉を賜ったと喜んでおいででしたが、私は、皇妃様の、フェリシエ様の御心を考えると、喜ぶことなど到底できません。
フェリシエ様があのように努力なさっているのは、国の為、皇帝陛下の為に違い有りません。それなのに、愛する皇帝陛下の傍に自分とは違う女性がいるなんて、どれほど傷つかれることか。
お母様は、お父様の浮気を知った時はあれほどお嘆きだったというのに、私が側妃になると聞いて狂喜乱舞しております。
どうしてそのように喜べるのか、私にはわかりません。わからないのです。
お父様からお話があってから一週間、どうすればいいのか悩み続けました。
皇帝陛下からのご命令です。
お断りすることなど出来ません。
けれど、私はこの後に及んで、陛下だけでは無く、お父様に逆らうことさえ恐ろしいのです。フェリシエ様の勇敢なお姿に憧れている、とエルディーザ様にあれだけお伝えしていたというのに、私ときたら……。情けなくて、情けなくて仕方ありません。
それでも、私に出来ることを、私は考えてみました。
例え、私がなんらかの要因で城に上がることが出来なくなったとしても、きっと他の方が側妃となるでしょう。
ご自分の娘を側妃にしたいが為に、声高にフェリシエ様に御子が出来ないことをあげつらうような方がいらっしゃるのは事実ですもの。
そんな方たちは、男性にも女性にもおります。彼らは場所など構いません。他家であろうと、城の中であろうと。
今、フェリシエ様の周囲にいる貴族たちは敵ばかりです。
それならば、私は皇帝陛下と父に従い、側妃として城に上がろうと思います。
あの方の助力となる為に……。
私が陛下の元に上がれば、一時でもフェリシエ様への悪口雑言を抑えることができるかもしれません。
フェリシエ様は御強い方です。そして、皇妃様に相応しい唯一の方です。
御子がいらっしゃらなくても、いずれは誰もがそれを認めることになると私は確信しております。
ただ、本当に心配なのは、私という存在がフェリシエ様の御心を深く傷つけるということです。
恐らく、この手紙がエルディーザ様のお手元に届く頃には、私は城に上がっているでしょう。
どうか、エルディーザ様、フェリシエ様を支えて差し上げて下さい。
どうか、どんな形ででも……。
ユーシャナ・オルバスティン』