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民の望んだ皇妃  作者: 界軌
本編
60/85

60.機縁〜震心

 路地裏から大通りに飛び出したスウリは、市場の買い物客の間を縫う様に走った。


 小柄な体は少しだけ重い買い物籠に振り回され気味ながらも、それでもしっかりと人々の間を抜けていく。


 やがて彼女は見知った路地裏に飛び込んだ。


 細い道の壁際に大きな木箱が積まれて、幾つも山を作っている。


 ここには、以前ビークに教えてもらった『隠れ鬼で絶対に見つからない秘密の場所』があるのだ。


 木箱の山の一つに駆け上がると、上手い具合に空いている隙間に飛び込んだ。


 せり出した木箱の陰にあるスペースに滑り込むと、スウリはそこで木箱を背に座り込み、

両腕で買い物籠を抱えて持ち手に額を乗せる。


 すっかり上がった息を整えながら、口から勝手に零れたのは。


「……………………に、逃げちゃった」


 その一言だった。


 言葉にしてみて、ようやく彼女は自分のした行動を理解した。


 逃げて来たのだ。


 誰あろう、ノールディンの、その目の前から。


 何と形容していいのかわからない衝動が襲いかかって来て、おろおろとその場で身じろいだ。顔を上げたり、下げたりを繰り返す。


 結局、最初の籠を抱えた姿勢に戻って、彼女は項垂れた。


「なんで、どうして……」


 彼があの場所に、このオンドバルにいる理由がわからなくて、スウリは呟く。


 それにしても、逃げ出すなんてっ。


 スザイに忠告された時、自分が答えた台詞を思い出して、一人赤面した。


『後はもう迎え撃つばかりだと開き直っているのですよ』


 そう言い放ったというのに、これでは大嘘付きもいいところだ。


 彼女は、黒服の男たちには毅然と対応出来たと思っている。


 けれど、ノールディンに対してはどうだ。この体たらく。


「……皇妃の姿だったら、ちゃんと出来たのかな?」


 違うだろう、と首を振る。


 きっと私は彼に名前を呼ばれる事が怖かったのだ。彼が口にした名が、どちらだとしても……。


 木箱の影の傾き具合で、もう夕暮れが近い事がわかった。


 もそもそと秘密の場所から這い出して、立ち上がる。  


 空を見上げて。そっと息を吐いてから口にしたのは、先程まで考えていた事とは全く関係の無い事だった。 


「助けてもらったのに。お礼、言い忘れてしまったわ……」









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