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民の望んだ皇妃  作者: 界軌
本編
32/85

32.幻痛

 その夜、スウリは夢を見た。


 真っ白い空間に座り込んでいる夢だ。


 体は重く、両手も床についたまま動かせない。ただ首だけは自由で、白く靄がかったような周囲を見渡せた。


「一体、なんなの?」


 ただ、これは夢なのだと感じるだけだ。それ以外は何もわからない。


 ややもして、遠く、泣き声が聞こえてきた。


 小さな小さな子どもが母親を呼ぶ声だ。そう思って顔を上げると、目の前に人影があった。


 髪を結い上げ、華麗なドレスを身にまとったその人物は、皇妃フェリシエとして装った自分だった。


「私、なの…………?」


 呆然とした心地で呟くと、彼女の腕の中で、白い布地に包まれた何かがもがいた。


 目を凝らすと、それは光の塊のような赤ん坊だった。小さな手が時折布地の間からのぞく。


 スウリは直感した。


 あの子だ。


 きらきらと輝く光がフェリシエの腕から徐々に溢れていく。泣き叫ぶ子どもの声が徐々に小さくなる。


「やめて、お願い…………」


 胸に込み上げる途方も無い恐怖に、持ち上げるのがやっとの腕を必死で伸ばす。


「お願い、……お願いよ! …………その子を殺さないで!!」


 泥にとられたように動かない体で懸命に叫ぶ。


 けれど光は地に落ち続ける。


 そして、白い輝きはひしゃげ、脆くも砕け散った。


 ちらちらと風に流される光をまといながら、皇妃フェリシエは凪いだ表情でスウリに向かって屈み込んでくる。


「姿を変えようと、名を変えようと、これは私の罪……」


 細い両腕が広げられると、白い布と儚い光が溶ける様に消えてしまった。


 重く、垂れ込める様な後悔がスウリの顔を下へ向ける。重くて仕方ないのに、胸のどこかは引きちぎられて穴が空いているような気がする。


「わかってる! ……わかっているわ!!」


 彼女を、自分を、責め立てる為に叫んだ。


 勢いに任せて顔を上げて、……目を見張った。


 目の前にいる自分の瞳から零れ落ちるのは、確かに涙だったから。


 それを見て、スウリは思った。


 ああ、ここは確かに夢の中だけど、この胸から引き剥がせない喪失感は本物なのだ、と。


 皇妃フェリシエの髪がさらりと肩に流れた。ドレスは質素な平民の服に変わる。


 彼女はくしゃりと顔を歪めて、口を開いた。


「私の願いがあの子を殺したんだわ」


 静かに静かに言われたその言葉が、スウリの心に突き刺さった。


 言葉にならない声で、彼女は叫んだ。









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